肝臓がんの「ラジオ波焼灼療法」治療の進め方は?治療後の経過は?

監修者土谷 薫(つちや・かおる)先生
武蔵野赤十字病院 消化器科副部長
東京生まれ。1998年、群馬大学医学部卒。日本赤十字医療センター臨床研究医を経て、2000年より武蔵野赤十字病院消化器科勤務。09年山梨大学・医学系大学院先進医療科学修了。11年4月から現職。

本記事は、株式会社法研が2012年12月25日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 肝臓がん」より許諾を得て転載しています。
肝臓がんの治療に関する最新情報は、「肝臓がんを知る」をご参照ください。

ラジオ波の熱でがんを凝固し死滅させる

 針を病変に刺して電流(ラジオ波)を流し、その熱でがん細胞を熱凝固させます。
 おなかを切らないので体への負担が少なくて済みます。

熱でがん細胞を変質させて破壊する経皮的局所療法

ラジオ波焼灼療法の治療件数推移

 ラジオ波焼灼療法(RFA:radiofrequency ablation)とは、ラジオ波によって生じる熱で、がん細胞を死滅させる治療です。生卵をゆでると透明な色から不透明な白色に変わるように、卵と同様にたんぱく質でできているがん細胞が熱で変化して固まるという原理を利用した治療です。加熱されて固まったがんは死んだ細胞ですから、そのままにしておいても問題はありません。
 ラジオ波焼灼療法は、皮膚の上からがんに直接針を刺して治療する経皮的局所療法の一つです。経皮的局所療法の試みが始まったのは、1980年代前半であり、エタノール注入療法(がんの中に100%濃度のアルコールを注入してがんを死滅させる治療:PEIT)、マイクロ波凝固療法(マイクロ波の熱でがんを死滅させる治療:PMCT)などを経て、1999年、安全で有効性の高いラジオ波焼灼療法が登場しました。保険医療として認められたのは、2004年です。当院では1999年当初よりラジオ波焼灼療法による治療を導入し、これまでにのべ2,860人の患者さんに治療を行ってきました。
 おなかを切らずにできる肝臓がん治療ということで、ラジオ波焼灼療法を望む患者さんも年々増えています。しかし、必ずしもこの治療について正しく理解されているとはいえず、なかには治療条件に適応しない患者さんもいます。
 ラジオ波焼灼療法は体への負担が少なく、何度もくり返し治療ができるなど、再発率の高い肝臓がんには有効な治療法です。ただし、がんが大きかったり、場所がほかの臓器に近かったりする場合には行えませんし、肝切除に比べ再発率がやや高く、根治性に劣るなど、課題があるのも事実です。

●主な経皮的局所療法
エタノール注入療法 がんに針を挿入して100%濃度のアルコールを注入して壊死させる
熱凝固療法 ラジオ波焼灼療法 がんに針を挿入してラジオ波による熱を発生させ、凝固壊死させる
マイクロ波凝固療法 がんに針を挿入してマイクロ波の熱を発生させ、凝固壊死させる

治療の適応は3cm、3個以内のがん

電極針の焼灼範囲

 ラジオ波焼灼療法ができる条件として、日本肝癌(がん)研究会編集の『肝癌診療ガイドライン(2009年版)』では、3cm、3個以内のがんとしています。肝機能はChild-Pugh分類による指標で、AかBに限られますが、腹水があっても、薬などで取り除くことができれば治療は受けられます。
 現在、ラジオ波焼灼療法で用いられている装置は全部で3種類あり、このうち最も普及している装置(cool-tip(クールティップ)システム)では、最大で直径約3cmのがんを焼灼することが可能です。そこで3cmというサイズが一つの基準となっています。
 ただ実際には、3cmくらいの大きさになると、1回の焼灼だけで終わらせることはほとんどありません。というのも、再発などのリスクを考えて、周囲を少し多めに焼灼して治療をするのが一般的だからです(これは手術でも同じです)。ラジオ波焼灼療法の場合は、がんの周囲を0・5cm程度多くとって焼灼します。3cmのがんなら、4cmの範囲に熱を行き渡らせる必要があるので、その場合は焼灼範囲を考えて、電極針の位置をずらす重ね焼きをするなどの工夫をすることになります。
 つまり、そういう方法を用いれば、3cm以上の大きさでも、ラジオ波焼灼療法で治療をすることが可能になります。実際、当院でも年齢や持病などの理由で、肝切除が受けられない患者さんに限って、3cmを少し超える程度ならラジオ波焼灼療法を実施することがあります。
 3個という数は、治療時間や安全性などを十分検討したうえでの基準です。
 個数や大きさ、肝機能の状態のほかに、この治療ができるかどうかの見極めとして重視されるのは、がんの状態です。門脈と呼ばれる血管にまで広がっている(脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう))がんは、適応にはなりません。血液は液体で常に流れているため、ラジオ波の熱が伝わりにくく、効果を十分に得ることができません。脈管侵襲がある場合は治療の適応からははずすのが一般的です。
 当院では、さらに肉眼分類も参考にします。肉眼分類はがんを切除したあと、病理検査のときに、実際に目で見てがんのタイプを分類するものですが、最近はCTの画像などである程度、形態を予測することができるようになりました。この肉眼分類のうち、がんと正常細胞の境界がはっきりしていて、がんが被膜(ひまく)で覆われた単純結節型が適応となります。

●ラジオ波焼灼療法の適応
・肝障害度がAまたはB
・がんの大きさが3cm、数は3個以内
・腹水がない(あってもコントロールできる)
・門脈への浸潤(しんじゅん)がない
・がんの肉眼分類が境界のはっきりした結節型である

体への負担が少なくくり返し治療が可能

 ラジオ波焼灼療法は、約1.5mmの太さの電極針をがんの中心部に刺してがんを焼き、死滅させます。1回の焼灼時間は8~12分程度です。ラジオ波の熱は60℃と比較的低温ですが、細胞は50℃で死滅するので、この温度でも十分にがん細胞を凝固させ、死滅させることができます。また、周辺組織が焦げて炭化することもありません。
 この治療は、電極針を挿入するために皮膚を小さく切開するだけなので、痛みも少なく患者さんの負担が軽いといえます。また、肝臓内のがんのある部分だけを治療する局所療法であり、何度でも受けることができます。
 肝臓がんは再発しやすいことが特徴で、そのたびに治療が必要になります。それを考えると、患者さんにとってはメリットの大きい治療といえます。
 その一方、この治療は超音波画像を見ながら皮膚の上から針を刺して、がんの中央に正確に到達させるという技術が不可欠です。位置がずれたところに熱を加えれば、がんが完全に死滅しないばかりでなく、正常な肝細胞まで失ってしまいます。安全性を高めるためには、技術の正確さ、熟練度が求められる治療法といえます。
 最近は、超音波やCTなども進歩し、画像がより明瞭(めいりょう)になったことで、穿刺(せんし)しにくい場所にあるがんにも確実に電極針を刺せるようになっています。

胃や腸に近い場所のがんは人工腹水を入れることも

 3cmより大きいがんや、胃の横や腸に近いところにあって穿刺が難しいがんに対しても、手術ができないなどの事情がある場合には、いろいろな工夫をしながら、治療が行われることがあります(施設により判断が異なります)。
(1)サイズが大きいがんの場合
 がんの先端まで電極針を刺し、まずそこで焼灼します。終わったら少し針を引いてもう一度焼灼します(2回凝固、オーバーラップ凝固などといいます)。こうした重ね焼きの手法をとることにより、奥行きに関しては焼きむらのない状態でがんを焼灼することができます。幅に関しては、電極針2、3本を、がんをはさむように並べることで、マージンをとった状態での焼灼を可能にしています。
(2)胃の横や腸に近いところなどにあるがんの場合
 腹腔(ふくくう)内に生理食塩水を注入して人工腹水の状態をつくってから、焼灼をします。生理食塩水は液体で流動するので、肝臓の外にラジオ波の熱が伝わるのを防ぎます。胃や腸など周辺の臓器を熱で傷めることなく治療ができます。生理食塩水はその後体内に吸収されてしまいます。

 医療機関によっては、肝動脈化学塞栓(そくせん)療法という治療法を先に実施して、がんをある程度小さくしてからラジオ波焼灼療法を行う併用療法を用いるところもあります。

治療の進め方は?

 局所麻酔をしたあと、皮膚を5mm程度切開し、そこから外筒針や電極針を挿入します。
 位置を超音波画像で確認しながら、1カ所につき約8~12分焼灼します。

肝臓がんの「ラジオ波焼灼療法」治療の進め方とは
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