今月のピックアップ
GIST(消化管間質腫瘍)とは
GIST(消化管間質腫瘍)とは
胃などに出来るがんですが、通常の胃がんとは発生原因などが異なるため、検査や治療方法にも違いがあります。
もっと知ってほしい乳がんの再発・転移のこと
もっと知ってほしい乳がんの再発・転移のこと
乳がんの治療期間は長く、経験者は再発・転移に不安を抱いています。再発・転移をテーマにした正しい知識と情報を学びましょう。
UDXオープンカレッジ もっと知ってほしい「小児がん」のこと2011 in 東京
UDXオープンカレッジ もっと知ってほしい「小児がん」のこと2011 in 東京
小児がんは、治療方法の進歩によって治療成績は目覚ましく改善されてきています。日本の小児がん医療をめぐる現状と課題を知る入門編としてご覧ください。
患者の悩み・家族の悩み
患者の悩み・家族の悩み
実際のがん患者さんやご家族は、どんな悩みを、どう和らげているのでしょうか。「医療者との関係」はどのようにしているのでしょうか。貴重な本音を教えて頂きました。

対談:あきらめない肺がん治療 患者さんの治療意欲向上が期待できる次治療の存在

がん治療最前線|更新日:2016/09/29[木]

肺がん患者さん100人への次治療調査を受け医師と患者による対談

中西洋一先生と久光重貴(ひさみつしげたか)選手

 現在、日本国内では肺がんによる死亡率はがんの中でもトップですが、その一方で新たな治療薬の登場により、この領域では大きな進歩を遂げています。QLifeでは、肺がん患者さん100人に肺がん治療に関する意識調査を行い、その結果、「最初に使用する抗がん剤が効かなくなった場合でも、次の抗がん剤があること」が患者さんの治療意欲の向上につながることが分かりました。こうしたことについて、医療者代表として、日本肺癌学会が患者さんへの正しい情報の普及を目的に設置した「肺がん医療向上委員会」の委員長を務める九州大学大学院附属胸部疾患研究施設教授の中西洋一先生、患者代表として同じく肺がん医療向上委員会広報大使を務める日本フットサルリーグ(Fリーグ)の湘南ベルマーレの選手である久光重貴さんのお2人にお話いただきました。

先ず生きるための選択。薬が無効になっても次の選択肢も

久光重貴(ひさみつしげたか)選手

久光:私の場合、告知を受けてから治療に入るまで1カ月強ありましたが、この時間は非常に長く感じました。告知を受けた際に医師から「フットサルをするためには、生きていなければできません。先ずは生きる選択をして下さい」と言われました。
 その後、生きることを優先して考えていましたが、治療に入るまでの期間「生きる事、死ぬ事」ばかり考えてしまい一番辛い時期でした。
 主治医からはある薬剤での治療を提案されました。ネット検索でその薬剤は過去に大量の副作用死が発生しているというニュースも見つけましたが、セカンドオピニオンでも同じ治療が提案をされたことで「これしかない!」という思いに至り、気分が楽になったことを覚えています。そして診断からこれまで3年、自分は生き続けることができています。

中西:久光選手のように、がんの告知を受けた患者さんが落ち込むのはむしろ自然です。以前我々ががん患者さんを対象に不安や抑うつの状態を調査した結果、約半数は気分の落ち込みが原因で正常な社会生活に支障をきたし、判断力も鈍っている「機能障害」となっており、さらに1割の患者さんは大うつ病と診断されました。この結果で身体問題にとどまらず、患者さんやご家族の心をサポートしていくことの重要性を痛感しました。
 その意味で私どもが実践しているのが「段階的告知」です。これはいきなり告知せずに、診察・検査を重ねながら、その都度判明した事実をお伝えし、患者さんに徐々にがんであることを認識していただくものです。そして経験上、患者さんは衝撃的な情報を耳にしても、2週間ほどで心理的な回復基調に入ることが多いため、その状況を的確に把握して患者さんをサポートすることが医師に求められます。
 この際に重要なことは患者さんのお話を受容し、共感するコミュニケーションです。例えば「お食事は摂れていますか?」と尋ね、患者さんが「あまり食べられません」と答えたら、「それが普通ですよね。それならば自分が好きなものだけ食べてもいいですよ」と状況に合わせてご提案させていただきます。実際、がん患者さんは心理的・身体的状況から食欲不振になりがちです。医師は患者さんの心理的状況、そこから派生する身体機能を注視し、場合によっては円滑な医師患者関係を築くためのコミュニケーション術を使って対処します。これらは患者さんの正常な判断力喪失を予防し、患者さん自身が納得できる決断を生み出す環境づくりと言えますね。

久光:私の場合、まずは生きることができなければと悩み、ややうつ的な状態になりましたね。ただ、治療開始時に主治医から「10年後には今より効果のある薬が登場する可能性は高いので、そこを目標にがんばりましょう」という言葉を頂き、その可能性に掛けようと思ったことが治療へと背中を押してくれました。

中西洋一先生

中西:今から20年前は、切除不能になった肺がん患者さんでは薬物治療の選択肢が非常に限定され、最初の治療薬が同時に最後の治療薬でもある時代でした。ところが今では作用機序の異なる治療薬が数多く登場し、治療薬の選択肢はがんの種類などで3系統に大別され、各系統内でも複数の薬剤があります。つまり最初に選択した薬剤が無効になっても副作用などを考慮しながら次の薬剤を選択できることが多くなりました。
 このため現在肺がんの薬物治療を開始する患者さんには、この中で個々の患者さんに最適な薬物治療の流れをできるだけ分かりやすく説明することで、希望が全て失われたわけではないことは理解していただけています。
 また、同時に医師がこのように情報を伝えることは、一定の制限の中でも患者さんがトータルのライフスパンの中で、がんとどのように付き合っていくかを熟慮することの支援にもなると考えています。

久光:自分自身、がんの告知当初は、抗がん剤という言葉を聞いても、それが1種類しかないものだと思い込むほど知識がなく、その治療も非常に辛いものという漠然としたイメージを持っていました。
 当初、主治医から治療の流れについての説明を詳細に受けたわけではありませんが、治療開始後には薬剤も複数あることがわかり、最初の治療薬が無効後に、条件が合致したということで新薬の臨床試験(治験)にも参加しました。確かに副作用が辛い時もありますが、そこに対する医学的対策もあり、プロのフットサル選手としてのトレーニングをし、試合にも出場できています。
 現在服用中の薬が無効になっても次の選択肢もある、この中には新薬の臨床試験もあるという正確な情報が広く患者と家族に伝わること、また医師が直接伝えることは確実に治療意欲の向上につながるのではないかと思っています。

中西:確かにそうですね。医師がまず心がけなければならないのは、患者さんが普通に会話できる心理状況の時は、現状で判明したこと、不明なことも含め、可能な限り多くの情報を開示することです。医師と患者さんは一緒にがんに立ち向かうパートナーですから、治療の道筋・計画を共有しなければならないのです。そうすることで患者さんの不安が軽減され、治療意欲の向上につながることを確信しています。
 また、がんに関しては3年ほど前に国際的な医学雑誌に、同じ病状で同じ治療を受けたがんの患者さんでも、医療チームによる精神面まで含めたサポートがあると、それがない患者さんよりも長生きすることが明らかになっています。
 がんの薬物治療についても、患者さんの中では誤解を抱いている方がいます。その点では久光選手のように患者の立場を経験した方や直接医療に従事していない方が正しい情報を発信することは、がん医療引いてはその治療を受ける患者さんに対する追い風にもなると期待しています。

患者も医療チームの一員。一緒に肺がんを廃絶できる取り組みを

久光:日本肺癌学会の肺がん医療向上委員会広報大使を務める過程で、多くの専門医が全力で治療に取り組んでいる姿を目の当たりにし、自分も次世代の役に立つためにできることをやりたいという思いを強くし、治験に参加するという選択もしました。自分が肺がん治療のイメージを変えることができればとも考えた結果の決断でした。かつてはプレーをすることは自分のみの喜びでしたが、今は肺がんでもプロのフットサル選手としても活動できることを示すことで、周囲の人々の喜びに繋がればと期待しています。自分の命はみんなの命でもあるという姿を目指していきたいのです。

中西:かつて肺がんは治療の有無にかかわらず生存期間が変わらない時代がありましたが、新しい治療薬が次々に登場し、切除不能な肺がんと診断されてからも5年も生存する事例も稀ではなくなりました。その進歩は医師ですら脇見をすれば置いてきぼりをくらうほどです。
 もちろんまだ薬剤が無効になる、あるいは薬剤の副作用など解決していない問題もあります。しかし、かつての死の病から、完治までは行かないものの慢性疾患として治療を受けながら患者さんが一定のゆとりがある生活を送れるという時代がようやく到来しつつあります。その中で、私たち医師はこの進歩をさらに継続し、将来は完治が実現できるよう邁進していきたいと持っています。
 ただ、これは医師だけで成し得るものではありません。看護師、薬剤師という医療従事者だけでなく、久光選手をはじめとする患者さんも医療チームの一員なのです。一緒にこの病気を廃絶できる方向に取り組んでいただければ、私ども医師にとっても無上の喜びにもなります。

(文:村上和巳/撮影:向井渉)

中西洋一(なかにしよういち)先生

九州大学大学院附属胸部疾患研究施設教授
中西洋一(なかにしよういち)先生

1980年3月九州大学医学部医学科卒業
1984年4月佐賀医科大学医学部助手
1985年9月アメリカ合衆国National Cancer Instituteに2年間留学
1990年5月九州大学医学部胸部疾患研究施設助手
1992年6月九州大学医学部胸部疾患研究施設医局長
2003年5月九州大学大学院医学研究院教授
2003年7月九州大学病院臨床研究センター(現ARO次世代医医療センター)センター長
2010年5月九州大学主幹教授
日本呼吸器学会(理事、専門医制度審議会 会長)
日本肺癌学会肺がん医療向上委員会委員長

久光重貴(ひさみつしげたか)選手

湘南ベルマーレフットサルクラブ
久光重貴(ひさみつしげたか)選手

1981年7月8日生まれ 神奈川県(横浜市)出身
ヴェルディ川崎ジュニアユース(当時)から帝京高校でサッカーを経験し、卒業後フットサルを始める
カスカヴェウ、ペスカドーラ町田でプレーをしたのち、2008年から湘南ベルマーレに所属。
2009年には日本代表、2010年チームキャプテン
2013年7月右上葉肺腺がんが見つり、現在も抗がん剤治療を続けながらトレーニングを続け2014年2月フットサル選手として復帰
治療と選手生活の傍ら、2015年7月に一般社団法人Ring Smile(リングスマイル)を設立し、小児がんなどの患者・家族の支援活動を展開。日本肺癌学会の肺がん医療向上委員会の広報大使も務める

みんなの感想:この記事はあなたの健康に役立ちましたか?

とても参考になった まあまあ参考になった 普通だった 参考にならなかった
77% 13% 4% 6%
一言感想

この記事を読んだ人が興味のある記事はこちら


記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。