出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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神経衰弱
しんけいすいじゃく

もしかして... めまい  自律神経失調症  うつ病  心気症

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神経衰弱とは?

どんな病気か(歴史的な意味合い)

 1880年に米国の医師ベアードが命名した症候群で、一世を風靡しましたが、最近はほとんど用いられなくなり、歴史的な意味をもつにとどまっています。

 しかしICD-10(世界保健機関「国際疾病分類第10版」)では、この診断名がみられます。これによると主症状は、①精神的努力のあとの疲労の増大についての持続的な訴え、②あるいはわずかな努力のあとの身体的な衰弱や消耗についての持続的な訴えのどちらかがあることで、具体的症状としては、めまい、筋緊張性頭痛、睡眠障害、くつろげない感じ、いらいら感、消化不良などがあります。

 輪郭が不鮮明で、自律神経失調症、不定愁訴症候群、慢性疲労症候群、慢性うつ病などとの区別が難しく、この診断名を嫌う医師も少なくありません。

日本への導入

 ベアードは、この病態をノイロ(神経)+アステニー(無力=衰弱状態)の複合語として案出しました。当時の米国では都市化・工業化が進み、労働者のなかにこの状態が多発しているとしました。この概念はそのまま日本に輸入され、多くの支持者を得ました。治療としては転地や安静が推奨され、一方で注射などによる強壮療法が行われましたが、いずれも決定的な治療法になりませんでした。

 そのなかで森田正馬(1874~1938)は、この神経衰弱のなかに強力性(「生の欲望」が強いために心身の不調に過敏になる)の面を見いだし、仮性神経衰弱=森田神経症と名づけ、その治療法として森田療法を確立しました。その後、神経衰弱の多くは、神経症(ノイローゼ)とほとんど同義的に対処されてきました。

米国の診断基準では

 ICD-10と同様によく用いられるDSM-IV(米国精神医学会「精神疾患の分類と診断の手引き第4版」)では、神経衰弱の項目はありません。ベアードの母国でつくられたこの診断基準にその名をとどめないということは、この診断名の命運を暗示しているといえます。この診断名は、身体表現性障害や心気症に解体したとみるべきです。なお、中国の医師は今なお、この診断名をよく用いているようです。

 治療には薬物療法と精神療法が、単独または重複して用いられています。

(執筆者:淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科教授 丸山 晋)

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淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科教授 丸山晋

 アパシーとは無気力、無関心を意味する外国語です。ちなみにシンパシーは共感を意味します。この言葉がいわれ出したのは、1970年代の後半、若者による学園紛争が一段落したころ、キャンパス内で「しらけ」といった現象が出現し、ミーイズム(自己中心性)がはびこり出した時期と一致します。「五月病」のなかにも、これと重なるものがあります。

 その発生は一種の「虚脱状態」として説明されています。受験競争を勝ち抜いた戦士が、次の目標を見いだしかねて、無気力におそわれるといった筋書きです。なかには不登校や引きこもりに陥る人も多くいます。

 このように説明すると、状況の結果やむをえない状態といえそうです。しかしよく観察すると、このような状態に陥る人たちは、ハングリー精神に欠けている、価値の多様性に対応できない、甘えや依存心が強いなどといった面を、以前からもっているといわれています。したがって治療は、こうした弱点を克服・補強する視点で考えられるべきです。

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