出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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特発性てんかん
とくはつせいてんかん

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特発性てんかんとは?

どんな病気か

 特発性てんかんにも、部分てんかんと全般てんかんがありますが、こちらの病気ではその大部分は全般てんかんです。脳の深部の意識覚醒に関係する部位に突然の電気的異常が発生し、そのため発作の最初から体の両側に症状がみられ、脳波でも両側性の異常が対称性にみられます。

原因は何か

 その原因は不明であり、MRIやCTを用いて脳を検査してもまったく異常は見つかっていません。しかし、その起こりやすさに遺伝的な要素が関係していると考えられ、ある年齢で発作が出現し、ある年齢が来ると自然に発作回数が減り、発作が起こらなくなることが多くみられます。

 ただし、てんかんそのものが代々遺伝するわけでは決してありません。

症状の現れ方

 新生児期にだけみられる良性の家族性けいれん発作や、家族性でないものがあります。小児期に発症するのがほとんどであり、非けいれん性の意識消失からなる欠神発作は5~10歳に始まり、治療をしないと20歳ごろまで続きます。

 これは何の前ぶれもなく、突然に意識がなくなりますが、決して姿勢が崩れたり転倒することはありません。突然進行中の行動、会話などが止まり、眼は1点を見つめてうつろとなり、1秒に3回ほどのまたたきをして数秒あるいは1分間で元の状態にもどり、前の行動を継続できる発作です。

 また、全身のけいれんからなる強直発作、間代発作、強直間代発作もみられます。これらは主に25歳までにみられる発作で、全身の筋肉が同時に収縮して手足がつっぱり、呼吸筋も収縮を持続するので呼吸が不可能となります。顔色がチアノーゼ(赤紫色)となります。眼は見開いたまま眼球が上転し、全身の筋肉が収縮するので背中を弓なりに曲げて反る姿勢を続けます。

 しばしば舌をかみ、口から出血がみられます。通常は数分で徐々に筋収縮が緩み、手足を曲げたり伸ばしたりする発作に移行します。この間呼吸不能の状態が続きます。

 発作が短時間で自然におさまっても、発作後には意識がもうろうとして、会話がしばらくはできません。普通、発作後には眠りに入ります。

 ほかに思春期にみられる若年性ミオクローヌスてんかんや、脱力発作を症状とする全般てんかんもまれにあります。

検査と診断

 脳波記録が不可欠です。脳波では左右両側性の対称性てんかん性異常放電があることから診断され、MRIではまったく異常がみられません。ほかの検査で異常がみられることもほとんどありません。

治療の方法

 使用する薬物としては、十分な医学的証拠のあるバルプロ酸ナトリウム(デパケン)が第一選択薬となります。欠神発作はこれだけで十分治療できます。またこの発作型にのみエトスクシミド(ザロンチン)が極めて特異的に有効で、発作の再発はほとんどみられません。

 それ以外の全般発作では、発作が完全に抑えられない時にはラモトリジン(ラミクタール)、フェニトイン(アレビアチン)かカルバマゼピン(テグレトール)が第二選択薬として加えられます。特発性てんかんには外科的治療は推奨できません。

 治りにくい場合には、根気よく2剤、3剤と薬の種類を増やして薬物治療が続けられます。ベンゾジアゼピン系の抗てんかん薬(クロナゼパム、クロバザム)も使用されます。

 2年以上にわたり発作が一度も起こっておらず、脳波もほぼ正常となった場合には、抗てんかん薬の減量、中止を考えてもよいとされています。

 しかし、発作の再発が薬の中断者の数~十数%にみられることから、勤務や自動車運転の必要性などの社会的状態を十分に考慮して、医師とよく相談しましょう。

(執筆者:浅ノ川総合病院脳神経センター顧問 廣瀨 源二郎)

てんかんに関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、てんかんに関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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コラム代表的な抗てんかん薬

浅ノ川総合病院脳神経センター顧問 廣瀨源二郎

 抗てんかん薬の開発は、昔は動物に電気刺激を与えて起こるけいれんに対し、たくさんの薬物を試して効くものを探す方法がとられ、フェノバルビタール(フェノバール)やフェニトイン(アレビアチン)が見つかりました。

 それ以後の薬物開発も同様の方法がとられ、カルバマゼピン(テグレトール)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)などが見つかり、患者さんへの臨床試験のあと安全性が確認され、厚生労働省から薬品会社に市販許可がおりて初めて、医師が処方できるようになっています。

 最近になり、てんかんの病態が明らかになるにつれ、てんかんの起こるメカニズムも解明され、それに合わせた抗てんかん薬の開発が進みました。数種類の新世代の抗てんかん薬が欧米では市販されていますが、日本でも新規に3つの抗てんかん薬が発売されました。

 現在、使われている代表的な抗てんかん薬には、まず、部分てんかん発作に有効の証拠があるカルバマゼピン、第二選択薬としてのフェニトイン、また全般発作に有効の証拠があるバルプロ酸ナトリウムがあります。新規のラモトリジン(ラミクタール)も使えるようになりました。

 そのほか小児期に使われるフェノバルビタールや、よく似た薬にプリミドン(マイソリン)があり、服薬後にフェノバルビタールに変化して、意識障害を合併する部分発作にとくに効きめを現します。

 欠神発作によく効くエトスクシミド(ザロンチン)、また、複雑部分発作に対してこれらの抗てんかん薬単独では十分な効きめがみられない時にはトピラマート(トピナ)やゾニサミド(エクセグラン)、クロバザム(マイスタン)も使うことができます。

 ミオクローヌス発作に有効なクロナゼパム(リボトリール)や小児けい屈発作に使われるニトラゼパム(ベンザリン)、ジアゼパム(セルシン)もあります。

コラム抗てんかん薬の副作用

浅ノ川総合病院脳神経センター顧問 廣瀨源二郎

 抗てんかん薬にはそれぞれ異なる副作用があることが知られています。またすべての抗てんかん薬は、妊婦が服用するとその子どもに奇形がみられる可能性があることが知られていて、その頻度は健康な妊婦にみられる頻度の約2倍といわれています。

 とくにたくさんの種類の抗てんかん薬を大量服用している妊婦に多いことが知られていて、妊娠時には主治医とよく相談して減量、減薬を考慮する必要があります。プリミドンやバルプロ酸ナトリウムは、ほかの薬物に比べ重い奇形が多く、妊婦の服用には十分注意が必要です。

 それぞれの副作用を表8表8 てんかん発作型による抗てんかん薬の選択とその副作用にあげます。フェノバルビタールには眠気、運動過多がみられ、フェニトインには急性副作用として肝機能異常、皮疹、知的機能抑制、慢性副作用として歯肉増生、多毛、小脳萎縮があります。カルバマゼピンには急性の眠気、ふらつき、皮疹、肝機能異常がみられますが、慢性の副作用は少ないです。バルプロ酸ナトリウムには、急性の副作用として、吐き気・嘔吐、高アンモニア血症がみられ、慢性の副作用として肥満、振戦(震え)、月経異常、卵巣嚢腫などがみられます。新規の抗てんかん薬が3つ発売されました(トピラマート、ラモトリジン、ギャバペンチン)。比較的副作用は少ないのが特徴です。しかしラモトリジンはまれに重い皮膚・粘膜疾患を起こすことが知られています。

表8 てんかん発作型による抗てんかん薬の選択とその副作用

コラム抗てんかん薬の血中濃度測定

浅ノ川総合病院脳神経センター顧問 廣瀨源二郎

 抗てんかん薬が確かに服用され、体重あたりの十分量がとられているかを確認するために、薬の量を調べる血液検査を、抗てんかん薬血中濃度測定といいます。

 服用された抗てんかん薬は消化管から体に吸収されて血液の流れとともに脳内に取り込まれて初めて、抗てんかん作用が現れます。脳は糖脂質と呼ばれる脂肪の塊のようなものでできており、脳内に入り込むには脂肪に溶けるような薬の性質が必要です。消化管からの吸収や肝臓での代謝が極めて複雑な抗てんかん薬、とくにフェニトイン、バルプロ酸ナトリウムの場合には3~4カ月ごとの血中濃度測定が必要です。

 てんかん発作を抑えるためには一定の濃度が血中に保たれる必要があり、そのためのむ薬の量が正しくても血中の薬物濃度が低い場合にはさらに服用量を増やす必要があるので、血中濃度測定が必要となります。

 発作のコントロールがうまくいかない時には、まれに患者さんが指示どおり正しく薬を服用していないこともあるので、そのチェックのためにも測定されます。

コラムてんかんの予後と合併症

浅ノ川総合病院脳神経センター顧問 廣瀨源二郎

 てんかんの予後については、20年間の追跡調査により、発作のなくなる率(寛解率)は5年で42%、10年で65%、20年で76%であり、一般に患者さんの5~8割は2~5年以内に発作がなくなります。

 とくに特発性てんかんの予後はよく、発症15年後には8~9割の人が発作がなくなるといわれています。抗てんかん薬による治療後2年を経過しても発作のコントロールがされない場合は、一般に予後は悪いようです。

 数年間発作がない場合には抗てんかん薬を中止することがありますが、その場合の再発率は十数%あるともいわれています。とくに症候性の部分てんかんで再発が多いようです。

 てんかんに合併する特別な障害はありませんが、症候性てんかんでは原因となる疾患があるため、それによるてんかん以外の症状がみられることがしばしばあります。これは厳密な意味では合併症ではありません。また、治療がうまくいかずに何度も呼吸停止をするような全般てんかんの強直間代発作が繰り返される場合には、脳に十分な酸素が送られず脳細胞が死んでしまうため、知的能力の障害が合併症として起こります。

 そのほか、抗てんかん薬の副作用に基づく合併症はしばしばみられます。

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