出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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脳下垂体腫瘍と視機能障害(半盲)
のうかすいたいしゅようとしきのうしょうがい(はんもう)

もしかして... 巨人症  緑内障  下垂体腺腫

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脳下垂体腫瘍と視機能障害(半盲)とは?

どんな病気か

 眼球でとらえた視覚情報は、眼球から視神経を通じて大脳の後頭葉にある視覚中枢へと投影されます。その途中、ちょうど脳下垂体の上方で、左右眼からの視神経が交わって視交叉をつくります。

 視交叉では、視野の外側(耳側)を担当する視神経線維は交叉して反対側の視索へ入り、内側(鼻側)を担当する視神経線維は交叉せず同側の視索へと入ります(図67図67 視路の神経解剖)。

図67 視路の神経解剖

 脳下垂体に腫瘍が生じると、視交叉の前方を下方から圧迫し、視神経線維を圧迫して、後述する両耳側半盲など特徴的な視野障害が生じることになります。

症状の現れ方

 脳下垂体腫瘍による視交叉下方からの圧迫では、視交叉の中央部に位置する両眼視神経のうち、鼻側由来の視神経線維が障害されやすくなります。その結果、両眼の耳側視野が徐々に狭窄・欠損し、進行すると両耳側半盲といわれる特徴的な視野障害を示します(図68図68 両耳側半盲)。

図68 両耳側半盲

 また、下垂体腫瘍内での出血による急激な腫瘍容積の増大は、下垂体卒中と呼ばれ、視交叉の急激な圧迫により、片眼または両眼の急激な視力・視野障害を起こすことがあります。

 元来、下垂体は成長ホルモンや乳汁分泌ホルモンなどさまざまなホルモンを分泌しており、腫瘍にもホルモンを過剰に分泌するタイプとそうでないタイプがあります。前者では、過剰に分泌されたホルモンによる作用、たとえば成長ホルモンが過剰に分泌されれば巨人症などを合併しますが、後者の場合は視野障害のみが唯一の自覚症状になります。

検査と診断

 視野検査で、両眼の耳側に視野障害があれば、両耳側半盲が疑われます。視野の耳側に狭窄が現れることは、緑内障をはじめ、ほかの眼疾患でも起こりえますが、区別するうえで重要な点は、視野障害が、視野の中心から上下に引いた垂直経線を尊重している(垂直経線を境に耳側のみに限られている)ことです。

 その場合は、視交叉の近くの圧迫性病変が疑われるため、頭部CTやMRIといった画像診断により視交叉周囲の占拠性病変を精密検査する必要があります。

治療の方法

 原因である下垂体腫瘍に対する脳外科的治療が必要です。詳しくは脳の病気の項(下垂体腺腫)を参照してください。

(執筆者:大阪赤十字病院眼科副部長 田口 朗)

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コラム閃輝性暗点

大阪赤十字病院眼科副部長 田口朗

閃輝性暗点とは

 ジグザグ模様の光が視野の中心部分から次第に広がり、20~30分で消失する症状です(図69図69 閃輝性暗点の起こり方)。

図69 閃輝性暗点の起こり方

 光の色はさまざまで、無色のことも、青、紫、赤などの色がついていることもあります。光の周辺はギザギザした鋸状で、中心はすりガラス状になっていてその部分では物が見えません。この光は、両眼視野の同じ部位に現れ、視野の正中を越えて両側にまたがり、かつ眼を閉じていても見えるのが特徴です。

 症状が消えるころから、血管拍動性(ずっきんずっきんとした)頭痛や吐き気・嘔吐などの胃腸症状を続発することがあり、古典的片頭痛と呼ばれています(片頭痛)。

 一方、暗い所で稲光のような光が一瞬、視野の端のほうに走る症状を「光視症」といい、硝子体による網膜の牽引が原因と考えられています。片眼性で、光が持続しない点が閃輝性暗点とは異なります。

原因は何か

 頭蓋内で視覚情報に関わる領域(後頭葉視覚中枢)に栄養を与える後大脳動脈という血管が一過性に縮む(れん縮する)ために、視覚中枢に一過性の虚血が起こって生じると考えられています。ただし、閃輝性暗点が毎回同じ半側視野に現れ、正中線を越えない場合(いつも右側の同じ場所にだけ見えるなど)は、後頭葉の血管奇形や髄膜腫などが原因のこともあり、画像診断など脳外科的精密検査が必要なことがあります。

症状に気づいたら

 まず症状が両眼性かどうか、眼を閉じても見えるかどうか、視野の正中を越えて左右にまたがるかどうか、持続時間はどのくらいか、頭痛や吐き気・嘔吐などの胃腸症状を伴うかどうか、を確認してください。

 とくに頭痛を伴う場合、毎回同じ半側視野のみに症状が起こる場合は、脳外科や神経内科への受診をすすめます。