出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
すべて
病名
 × 

睡眠時無呼吸症候群、いびき
すいみんじむこきゅうしょうこうぐん、いびき

もしかして... 扁桃肥大  高血圧

つぶやく いいね! はてなブックマーク

睡眠時無呼吸症候群、いびきとは?

どんな病気か

 無呼吸とは、10秒以上呼吸が止まってしまうことをいいます。睡眠中に、この無呼吸が1時間に5回以上、または7時間の睡眠中に30回以上ある状態を、睡眠時無呼吸症候群といいます。

 いびきは、睡眠中にのど(気道)が狭くなって、空気が通る時にのどが振動して音が鳴る状態です。

原因は何か

 睡眠時無呼吸症候群やひどいいびきは、生活習慣病と深い関連があります。扁桃肥大は、その原因の約20%程度を占めています。

 子どもでは扁桃肥大がいびきや睡眠時無呼吸の主原因ですが、大人でも扁桃肥大が原因でいびき、睡眠時無呼吸となることがあります。一見したところ扁桃が大きくなくても、実際には肥大した扁桃が隠れて見えない場合があるため、耳鼻科での診察が必要です。

 いびきや睡眠時無呼吸が、肥満と関係することはよく知られています。しかし、肥満でなくてもいびき、睡眠時無呼吸の人がいます。いびきや睡眠時無呼吸には、①肥満、②アルコールの飲用、③扁桃が大きい、④上向きでの睡眠、⑤下あごが小さい、⑥加齢、⑦鼻づまりなどの要因が関与しています。

 アルコール摂取は、寝つきをよくしますが、筋弛緩作用のために気道が狭くなり、睡眠時の呼吸障害をもたらします。さらに気道を狭くする要因として、前述したように肥満があげられます。肥満では外側に向かって太るだけでなく、内側(とくに舌根部)にも脂肪がつくため、気道が狭くなります。

 睡眠時無呼吸は40代から増加してきます。これは、加齢により気道周囲の筋力や組織の弾力性が低下して気道がつぶれやすくなるからです。

 いびきや睡眠時無呼吸症候群は、こうした原因が単独または複合して、気道が極端に狭くなり、閉塞して換気ができなくなることで起こります。

症状の現れ方

 睡眠時無呼吸症候群の症状としては、いびきと無呼吸がまずあげられます。覚醒している時には、気道周囲の筋肉の緊張が保たれており、無呼吸になることはありませんが、眠ってしまうと緊張がなくなり、気道が閉塞して無呼吸になってしまうのです。換気ができなくなるため、寝息すら聞こえなくなります。

 しかし、狭くなった気道を通して呼吸しようとするため、間断なく呼吸努力が続けられます。そのうち、低酸素状態で苦しくなると覚醒反応が起こります。覚醒すると、気道周囲の筋肉の緊張がもどるので呼吸が再開します。その換気の際にいびき音が発せられます。

 無呼吸の時に、センサーを使って呼吸努力を測定すると、覚醒時の5~10倍以上も苦しい呼吸になっています。いいかえると、運動しながら寝ているようなものです。

 このため、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは寝汗をかきます。また、口呼吸をするため、起床時に口内はからからに乾燥してしまいます。その結果、起床時に疲労感があります。さらに、頻回に覚醒反応が起こると睡眠障害となるため、起床時の頭重感、日中の眠気などが出てきます。

 このような睡眠中の呼吸障害が長期にわたり、無呼吸によるストレスのために交感神経緊張状態が長く続くと、高血圧や心疾患を合併する危険性が高くなります。また、眠気による交通事故率の増加や、近年話題になった新幹線運転中の居眠りのような事故の原因にもなります。

検査と診断

 表3表3 睡眠時無呼吸症候群スクリーニングのための質問項目に睡眠時無呼吸症候群に関する質問項目をあげています。質問項目Iのほとんどの項目で1または2を選んだ人で、質問IIの眠気点数が11点以上の人は睡眠時無呼吸症候群の疑いがあるので、医師に相談してください。

表3 睡眠時無呼吸症候群スクリーニングのための質問項目

 確定診断には、睡眠ポリグラフ検査が必要です。これは、寝ている時の脳波、呼吸運動、動脈血の酸素飽和度、体位、心電図などを記録解析するものです。

 簡易的に、寝ている際の呼吸運動、酸素飽和度、睡眠体位、いびき音を記録できる装置で診断することもあります。ただし、この装置だけでは十分な診断ができないことがあるため、時期をみて専門施設でのポリグラフ検査が必要です。

治療の方法

 睡眠時無呼吸症候群には前記の①~⑦などのさまざまな原因があるので、個々に応じた治療が必要です。

 代表的な治療法としては、減量、扁桃の手術、鼻の手術、鼻からマスクで空気を流すシーパップ(CPAP)、眠る時にマウスピースを装着するなどの方法があります。

(執筆者:滋賀医科大学睡眠学特任教授 宮崎 総一郎)

おすすめの記事

コラム扁桃摘出術

滋賀医科大学睡眠学特任教授 宮崎総一郎

 扁桃摘出術、アデノイド切除術は、耳鼻科で最も多く行われる基本的な手術です。手術の難易度としては高くありませんが、口の深いところでの操作を必要とし、術後の出血を起こさないように止血操作を十分行う必要があります。

 この手術を受ける人は子どもが多く、気道を直接に触る手術であり、術後出血のことを考えるとその頻度は少ないとはいえ、耳鼻科医としては神経を使う手術です。

 通常は全身麻酔で行うので、準備段階での点滴が痛いくらいで、手術自体は痛みを感じません。患者さんが10歳以上で、患者さんの納得が得られれば、局所麻酔でも十分に行える手術です。

 全身麻酔では、手術台にあお向けに寝て、頭を少し下げた状態で、口を広くあけ、ヘッドライトで口のなかをのぞきながら手術します。手術時間は、麻酔の時間を含めて1~2時間程度です。最近では、高周波や超音波メス、吸引凝固装置などの最新の器械により、より痛みの少ない手術が行われるようになっています。

 手術の危険性としては、麻酔合併症が1万件に1件程度(秋田大学麻酔科統計)、手術後1~6時間以内と5~7日目に出血の起こることが1~3%あるといわれています。

 入院期間は手術後3~7日程度です。食事は本人次第ですが、手術後4時間以上経過すれば、水分やプリンなどをとることは可能です。

 手術に要する費用は病院、入院日数によっても変わりますが、3割負担で約10~15万円程度が目安です。

コラム子どものいびきに注意

滋賀医科大学睡眠学特任教授 宮崎総一郎

 あなたのお子さんがいびきをかいて眠っている時に、そっとパジャマの前を開いて、胸の動きを観察してみてください。いびきに伴って、胸がへこんでいるようであれば要注意です(図15図15 子どものいびき)。

図15 子どものいびき

 子どものいびきの原因のほとんどは、扁桃肥大によるものです。口をあけると、のどちんこの横に大きく肥大した口蓋扁桃が見えます。しかし、のどちんこの後ろ上には、口からは見えませんが、咽頭扁桃(アデノイド)という別の扁桃があります。

 アデノイドと口蓋扁桃が、ある程度以上の大きさになると鼻づまりが生じます。子どもは鼻が詰まっていても、起きている時には口をあけて呼吸ができます。しかし、眠っている時には口呼吸ができなくなり、無意識に詰まった鼻で呼吸しようとするために、いびきや、息がとまるようになってしまいます。

 鼻かぜなどによる短期間のいびきは、それほど問題ではありません。しかし数カ月以上、一晩中にわたる大きな苦しそうないびきが続くようなら、よく調べる必要があります。

 狭くなった気道を通して呼吸すると、呼吸する時に胸がへこんでしまいます。毎晩のように胸がへこむような苦しい呼吸をしていると、胸の中央部がへこんだり(漏斗胸)、突出したり(鳩胸)するといった変形を来してしまいます。いびきと胸の変形、口呼吸などを認めた時には耳鼻科への受診をすすめます。

 また、いびきがひどくなると、その影響は生活リズムの障害としても現れます。ある程度以上ひどいいびきをかくお子さんでは、目覚めが遅く、無理に起こさなければならないこと、2~3時間以上の長い昼寝、眠る時刻の遅いこと、一晩にわたるいびき、夜中に何度も目を覚ます、夜尿などの症状が出ます。

 適切ないびき治療により、子どもは早い時間に自然に覚醒し、日中は昼寝することなく遊ぶようになり、夜は疲れて早い時間に自然に眠るようになります。夜尿もほとんどの場合、改善します。

 一度、いびきをかいて眠っている時の状況を観察してみてください。最近では各家庭にビデオカメラが普及しているので、いびきのひどい時に、胸をはだけた状態で5~10分間ほど図15図15 子どものいびきのような顔と胸が映るアングルで記録すると、耳鼻科の診断にとても役立ちます。インターネットでも子どものいびきについての情報を用意してあります。

 アドレス:http://www.sasjp.net

睡眠時無呼吸症候群、いびきに関する医師Q&A