出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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肝内結石
かんないけっせき

もしかして... 胆石症  胆管炎  肝膿瘍  敗血症  肝硬変

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肝内結石とは?

どんな病気か

 肝内結石とは肝臓のなかの胆管に結石ができる病気で、欧米に比べ日本を含めた東アジアで多くみられます。肝内結石の頻度は全胆石症の2%程度と少ないのですが、胆管炎を繰り返したり、肝膿瘍敗血症などの重症の感染を引き起こしたりすることがあり、長年の胆汁のうっ滞や反復する炎症のため、肝硬変や肝不全に至ることがあります。

 また、完治自体が難しく、結石を除去しても再発を繰り返すことから、難治性の病気とされています。さらに、肝内結石の方の4~8%に胆管がんが発生するといわれています。

原因は何か

 なぜ肝内結石ができるかはいまだに不明です。しかし日本においては、患者さんの数が地域によって大きく異なり、また全体の患者さんの数も減少傾向にあることから、衛生状態や食生活の関与が考えられています。先天性や遺伝性因子の関与はほとんどないといわれています。

 肝内結石の80%はビリルビンカルシウム系結石で、胆汁中の細菌が結石の生成に大きく関係していると考えられます。コレステロール系結石の頻度は5%程度で、脂質異常症高脂血症)とはあまり関係がないとされています。

症状の現れ方

 よくみられる症状は発熱や腹痛です。また黄疸になることもあります。肝内結石の方のうち80%の方の胆汁中には細菌が常在しており、結石により胆汁の流れが妨げられて胆管が炎症・感染を起こします。

 一方、健診などで行った腹部超音波検査などで偶然発見される、無症状の方もいます。

検査と診断

 腹部超音波検査で診断可能です。しかし胆嚢や肝外胆管と異なり、肝内胆管は木の枝のように入り組んで走行・合流しています。そのため結石がどの肝内胆管にあるのか、胆管が細くなっていたり太くなっていたりする場所はないか、肝臓が縮んでいないか、などを評価する必要があります。そのための検査としては、造影腹部CTや磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)があります。

 さらには治療を前提として、経皮経肝的胆道造影(PTC)や内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)を行うこともあります。それぞれの検査の詳細は、胆石症を参照してください。

治療の方法

 肝内結石がある部分の肝臓を外科的に切除する方法が最もよく行われています。またPTCの手技を応用して、開腹せずに皮膚から肝臓を通して胆管のなかに内視鏡(胆道鏡)を入れて結石を取り出す治療も行われています。その際に、胆道鏡で石を見ながら電気水圧波で細かく砕くこともあります。さらにERCPの手技を利用して、十二指腸から肝内結石を取り出す治療も一部の専門施設で行われています。

 現在のところ肝内結石に有効な治療薬はありませんが、ウルソデオキシコール酸や高脂血症治療薬や漢方薬が投与されることがあります。

 無症状でも、肝外胆管に近い比較的太い肝内胆管にある結石は治療対象になることがあります。しかし肝臓の端のほうの細い胆管にある結石については、治療せずに経過観察をするという考えもあります。その場合、胆管に細いところがなく、明らかな腫瘍もない、ということを正確に診断できていることが前提となります。

病気に気づいたらどうする

 胆嚢結石や胆管結石と比べて、肝内結石の診断や治療法の選択にはかなりの知識、経験、そして診断・治療技術を要します。また肝内結石に合併しうる胆管がんの診断は、各種画像検査法が進歩した現在でもなお極めて困難なことがあります。さらに治療後でも約20%の方が再発しますので、長期的に医療機関と付き合うことになります。

 以上のことから、肝内結石と診断されたら専門施設を一度は受診することが望まれます。

(執筆者:東京大学医学部附属病院消化器内科 辻野 武)

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東京大学医学部附属病院消化器内科 辻野武

 胆管結石に対しては、従来の開腹手術に比べて体への負担が少なく、また治療効果も高いことから、内視鏡的治療が第一選択の治療法であると考えられています。一方で、開腹手術の場合は胆管結石を取り出すのと同時に胆嚢も摘出しますが、内視鏡的治療では同時に胆嚢を摘出することはできませんので、別の日に胆嚢摘出術を行わなければなりません。

 そこで、「自分は胆管結石の治療目的に入院して、胆管結石は内視鏡的に取り除いたのに、そのあとにあえて胆嚢を摘出する必要があるのだろうか?」という疑問が出てきます。この疑問に対する回答は胆嚢の状態(胆嚢結石の有無)によって異なります。

 十二指腸乳頭を電気メスで切って広げる内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)後には乳頭のはたらきが低下するため、十二指腸の内容物が逆流して胆嚢内に入り込み炎症を起こすことが懸念され、胆嚢結石の有無に関わらず胆嚢を摘出することがすすめられていた時期がありました。しかしその後の検討で、胆嚢結石のない場合には胆嚢を摘出しなくても問題がないことが判明したので、現在では胆嚢摘出術は行われなくなっています。

 一方で胆嚢結石がある場合には、たとえ胆管結石の治療時には胆嚢結石の症状がなくても、将来的に胆嚢結石が胆管に落ちてきたり、急性胆嚢炎を起こしたりする可能性があります。そのためEST後には胆嚢摘出術を受けることが推奨されています。

 また東京大学消化器内科の実績では、乳頭を風船(バルーン)で広げる内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)で胆管結石を取り除いた後に胆嚢結石を放置した場合、EPBD後3年たった時点で約25%の方が、胆嚢結石が胆管に再落下したため治療を行ったというデータがあります。そのため患者さんの全身状態が許せば、EPBD後には胆嚢摘出術を行うことを前提として外科医に相談することをすすめています。

 しかしこの"25%"の頻度をどのように受け止めるかは、患者さんによって異なります。「25%もまた治療が必要になるのか」ととらえる方もいますし、逆に「75%は何も起きないのか」と考える方もいます。また、「もう2度とあんな痛い思いをしたくないので、胆嚢を早く取ってください」という方もいますし、「手術を受けるのは怖いので、また胆管結石ができたら内視鏡でとってください。胆嚢についてはその時に考えます」と手術を拒否される方もいます。

 医師側ができることは、胆管結石の治療後に胆嚢結石を残した時の危険性と胆嚢摘出術の安全性についてきちんと説明して理解していただくことで、その後の判断はその方および親類の方にゆだねるのが現状です。

 ただし社会的に責任のある立場の方や海外によく出かけられる方の場合には、より強く胆嚢を摘出することをすすめています。なぜならば、胆嚢結石がいつ胆管に落ちるのかは誰にもわかりませんし、緊急で入院しなければならないこともあるかもしれません。でも、胆嚢摘出術を受ける場合には、仕事や旅行のスケジュール調整をしてから余裕をもって手術を受けることが可能だからです。

肝内結石に関する医師Q&A