出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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無月経・乳汁分泌症候群
むげっけい・にゅうじゅうぶんぴつしょうこうぐん

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無月経・乳汁分泌症候群とは?

どんな病気か

 下垂体からのプロラクチン分泌が増加して、血中プロラクチン値が上昇した状態を高プロラクチン血症と呼びます。性成熟期の女性で高プロラクチン血症が生じると、通常、乳汁分泌と無月経が起こるので、無月経・乳汁分泌症候群と呼ばれます。

原因は何か

 高プロラクチン血症は種々の原因によって起こります。妊娠女性では、妊娠の進行とともにプロラクチンが高値となります。

 原因としては、下垂体におけるプロラクチン産生腫瘍が最も多くみられます。ほかには、視床下部・下垂体系の疾患(腫瘍や炎症)のため、ドーパミンの下垂体への作用が阻害されると、下垂体プロラクチン分泌への抑制という調節がなくなり、血中プロラクチンは増加します。頭蓋咽頭腫、胚芽腫などの脳腫瘍や、サルコイドーシスなどでも高頻度に出現します。

 ある種の抗精神薬や胃薬は、ドーパミンの作用を阻害することによりプロラクチンを増加させます。また、降圧薬の一種(レセルピン)もプロラクチンを増加させます。ピルなどの経口避妊薬も、視床下部のドーパミン活性を抑制するとともに下垂体に直接作用して、プロラクチン産生や分泌を刺激させます。

 原発性甲状腺機能低下症(橋本病)や腎不全では高プロラクチン血症が出現することがあります。胸壁の外傷、手術や帯状疱疹などでも、プロラクチンの分泌が促進されることがあります。

症状の現れ方

 高プロラクチン血症であっても、必ずしも症状を伴うものではありません。性成熟期の女性では、乳汁漏出と月経異常が主要な徴候となります。男性の場合は症状が乏しく、不妊等の検査でみつかることがあります。この場合は、腫瘍が大きくなっていることがよくみられます。下垂体腫瘍が大きい場合には、腫瘍による視神経圧迫のため視野障害や頭痛を伴うことがあります。

検査と診断

 血中プロラクチン値を測定するとともに、分娩歴や内服薬の確認を行ないます。血中プロラクチンが高値の時は、プロラクチン産生腫瘍の可能性が高いため、MRIで下垂体病変の検査を行います。

 血中プロラクチン値が軽度~中等度の時には、薬剤服用の有無、プロラクチン産生腫瘍以外の原因について検査します。

治療の方法

 内服している薬剤が原因と考えられる場合は、その薬剤を中止します。

 下垂体プロラクチン産生腫瘍治療の第一選択は、現在、薬物療法という考え方が主流です。薬により血中プロラクチン値は低下し、腫瘍も縮小します。一方、腫瘍が大きく、視野障害などがあり、腫瘍サイズの縮小が急がれるものについては、手術が選択されることもあります。

病気に気づいたらどうする

 内分泌専門医を受診してください。この疾患の大部分は内服薬による治療が可能です。治療によりプロラクチン値は低下し、腫瘍も縮小します。高プロラクチン血症の是正により、生殖機能を回復させ、骨粗鬆症などの合併症を予防することが重要です。

(執筆者:弘前大学大学院医学研究科内分泌代謝内科学講師 蔭山 和則)

無月経症に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、無月経症に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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弘前大学大学院医学研究科内分泌代謝内科学講師 蔭山和則

 下垂体からのプロラクチン分泌は、視床下部で産生されるホルモンによって調節されています。視床下部と下垂体の連絡が断たれると、血中プロラクチン値は、通常、上昇します。プロラクチン抑制の最も主要な因子はドーパミンです。一方、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、エストロゲン、授乳、ストレス、低血糖などはプロラクチン分泌促進作用があります。

 プロラクチン分泌が亢進すると、女性では無月経が起こります。また、男性でも性欲の低下が生じます。

 視床下部・下垂体系の疾患(腫瘍や炎症)、原発性甲状腺機能低下症では、プロラクチン分泌も刺激されます。いろいろな薬剤(とくにある種の抗精神薬、胃薬、降圧薬の一種)は、プロラクチンを増加させます。エストロゲン製剤やピルなどの経口避妊薬も、プロラクチン分泌を刺激させるため、乳汁分泌が生じた場合には原因となっていないか注意が必要です。

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弘前大学大学院医学研究科内分泌代謝内科学講師 蔭山和則

 脳下垂体は、前葉と後葉に分けられ、下垂体前葉ホルモンには、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンなどがあります。

 下垂体腫瘍がある種のホルモンを産生している場合は、その産生ホルモンのはたらきによる症状が出現します。しかし、ホルモンを産生していない場合や、男性のプロラクチン産生腫瘍などは腫瘍が大きくなってからでないとわからないことがあります。

 腫瘍が大きくなると、腫瘍による視神経圧迫のため、視野障害(両方の耳側の視野欠損が典型的)や頭痛を伴うことがあります。また、正常な下垂体を圧迫して、他のホルモン分泌を妨げます。単一のホルモンの分泌が障害される場合だけでなく、2つ以上が障害されることもあります。

 さらに腫瘍が大きくなって視床下部が障害されると、尿崩症、食欲異常、体温異常が生じます。