出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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手部腱損傷
しゅぶけんそんしょう

もしかして... 切創  突き指  関節リウマチ

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手部腱損傷とは?

どんな外傷か

 手指の屈伸運動は、前腕の筋肉から連続する屈筋腱および伸筋腱と、虫様筋と骨間筋という手のなかの筋肉によって成り立っています。腱は、筋肉の伸縮に伴って大きく手のなかを動き(滑走)、骨を牽引して関節を運動させています。

 腱が断裂すると、指の屈伸運動が損なわれますが、断裂した腱の種類や断裂部位などにより、動きが損なわれる関節部位やその程度は異なります。

原因は何か

 腱の損傷は、血管や末梢神経と同様に、主に切創(切り傷)によって生じます。ほかに圧挫創(つぶされるような傷)や、皮下断裂といって傷がなくても生じることがあります。

 指を伸ばす伸筋腱の断裂による指先の関節部位の損傷は、マレット指といって、突き指によって生じることがほとんどです。また、スポーツなどで自分の筋力が強いため、力を入れた時に屈筋腱の皮下断裂が起こることもありますが、これは比較的まれです。

 関節リウマチでも、腱が弱くなってしばしば皮下断裂を生じます。

治療の方法

 突き指によるマレット指は、手術をせずに装具などで治療することが可能ですが、多くの腱損傷では手術を行わないと機能回復は望めません。しかし、腱はそれ自体ほとんど伸び縮みしない組織で、血行に乏しく、手術で縫合しても周囲と癒着せずに良好な滑走を回復させることは容易ではありません。

 とくに、手掌中央部からPIP関節(第2関節)までの部位の屈筋腱損傷は、縫い合わせてもよい結果が得られないので、ノーマンズ・ランド(立ち入り禁止地区)といわれてきました。

 現在では、創の条件がよく、熟練した手の外科の専門医であれば、よい手術結果が得られることが多くなってきましたが、治療が難しいことには変わりありません。治療のタイミングが遅れた場合や、最初の手術の結果がよくない時などは、縫合部をはがして滑走を改善させる腱剥離術や、患者さんのほかの部位の腱を移植する腱移植術などが行われます。

(執筆者:国立成育医療センター第2専門診療部部長 高山 真一郎)

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コラムモンテジア骨折

国立成育医療センター第2専門診療部部長 高山真一郎

 尺骨の近位3分の1の部位の骨折と橈骨頭の脱臼を伴う外傷を、モンテジア骨折といいます(図50図50 モンテジア骨折)。小児に多く発生する外傷ですが、尺骨の骨折のみに目を奪われて、橈骨頭の脱臼が見逃されることも少なくありません。正しい側面X線を撮影しないと、橈骨頭の脱臼の判定は難しいので、注意を要します。

図50 モンテジア骨折

 尺骨は、多少の変形が生じても問題なく癒合します。一方、橈骨頭の脱臼は自然に整復されることはなく、肘関節の変形、回内外可動域制限、疼痛などが残ります。

 陳旧(長い期間経過している)例になった場合、橈骨頭の変形が軽度で受傷後数年以内であれば、尺骨の骨切り術により橈骨頭の整復が可能です。しかし、長期間を経過して橈骨頭の変形がひどくなると、整復できずに橈骨頭の切除を行わざるをえません。