出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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前腕骨骨折
ぜんわんこつこっせつ

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前腕骨骨折とは?

どんな外傷か

 前腕には、外側にある橈骨と内側にある尺骨の2本の骨があり、中枢では上腕骨と対向して肘関節を形成し、末梢では手根骨と対向して手関節を形成しています。前腕は小児・成人ともにさまざまな外力によって骨折を生じやすい部位です(図51図51 両前腕骨骨折)。

図51 両前腕骨骨折

 肘関節周辺では、尺骨の肘頭骨折・鉤状突起骨折、橈骨の頭頸部骨折などが起こります。また、尺骨の骨折と橈骨頭脱臼を合併するモンテジア骨折(コラム)も小児にしばしばみられます。

 前腕骨の中央部では、橈骨・尺骨の両方が骨折することも多く、骨折の部位と筋肉のついている場所の関係によって特有な変形が生じます。

 小児では若木骨折といって、若い木を折ったように骨折部が完全に離れない折れ方をすることがあり、一方では、可塑性変形といって骨は曲がっているものの骨折線が見えない場合もあります。

 手関節周辺では、橈骨遠位端骨折が最も頻度の高い骨折です。とくに高齢者では、末梢骨片が背側に転位するコーレス骨折がほとんどです。

 また、橈骨の骨折と手関節での尺骨頭の脱臼を合併するものは、ガレアッチ骨折と呼ばれています。

原因は何か

 転んで手をついた場合と、何かにはさまれてひねった、強打したなどが骨折の原因になります。同じように手をついた場合でも、年齢や骨の強度などにより骨折の部位・状態が違ってきます。橈骨下端骨折は、高齢者が転んで手をついた時に高率に発生します。

治療の方法

 骨折した骨を癒合させるとともに、肘・手関節の運動や前腕の回内外運動(回旋運動)を損なうことがないように治療することが重要です。

 前腕骨の中央部の骨折では、大きく曲がったままで癒合すると、回旋制限(まわしにくくなる)が生じます。また、肘・手関節に近い部位での骨折では、ずれて癒合すると関節の動きが損なわれて後遺症を残すことがあり、とくに小児では成長するにつれて障害が目立ってくることもあります。

 骨折の状況によっては、小児でも手術を行う必要のあることもあり、専門医の治療が必要です。また、神経麻痺や血管損傷が合併していないかどうかも、治療上重要な点です。

(執筆者:国立成育医療センター第2専門診療部部長 高山 真一郎)

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コラムモンテジア骨折

国立成育医療センター第2専門診療部部長 高山真一郎

 尺骨の近位3分の1の部位の骨折と橈骨頭の脱臼を伴う外傷を、モンテジア骨折といいます(図50図50 モンテジア骨折)。小児に多く発生する外傷ですが、尺骨の骨折のみに目を奪われて、橈骨頭の脱臼が見逃されることも少なくありません。正しい側面X線を撮影しないと、橈骨頭の脱臼の判定は難しいので、注意を要します。

図50 モンテジア骨折

 尺骨は、多少の変形が生じても問題なく癒合します。一方、橈骨頭の脱臼は自然に整復されることはなく、肘関節の変形、回内外可動域制限、疼痛などが残ります。

 陳旧(長い期間経過している)例になった場合、橈骨頭の変形が軽度で受傷後数年以内であれば、尺骨の骨切り術により橈骨頭の整復が可能です。しかし、長期間を経過して橈骨頭の変形がひどくなると、整復できずに橈骨頭の切除を行わざるをえません。

コラム阻血性拘縮

国立成育医療センター第2専門診療部部長 高山真一郎

 四肢の筋は、伸縮性の乏しい強靭な筋膜によっておおわれ、筋膜と骨が隔壁となってグループごとにいくつかの部屋に分けられ、これらの構造はコンパートメントと呼ばれています。

 コンパートメント内の圧は通常、局所の血圧より低いのですが、何らかの原因で内圧が高まって局所の血圧を上回る状態が続くと、筋や神経の血流障害が生じます。

 これをコンパートメント症候群といい、この血流遮断が6~8時間以上続くと筋肉は壊死に陥り、関節が曲がった状態で固まる阻血性拘縮となります。とくに前腕や手の重症な場合を、フォルクマン拘縮といいます。

原因

 阻血性拘縮の多くは、小児の上腕骨顆上骨折、前腕骨骨折などの際に引き起こされます。

 そのほか、骨折の部位や程度だけでなく、ギプスや包帯がきつすぎるために起こることもあります。的確な診断と処置を行えば十分防ぐことができます。

症状と診断

 診断では英語で「p」で始まる5つの徴候、すなわち、pain(疼痛)、pallor(蒼白)、paresthesia(知覚異常)、para-lysis(麻痺)、pulselessness(脈拍喪失)の5Pが有名で、最も参考になる症状は、指を他動的に伸展させた際の激痛(passive stretch)です。

治療

 前述の症状を見逃さず、迅速で正確な診断をすることが最も重要で、対処を誤ると悲惨な結果をまねきます。

 まず、包帯やギプスがきつすぎることが原因と考えられる場合は、これをゆるめます。それでも症状が短時間でよくならない場合には、8時間以内に筋膜を切開してコンパートメントの除圧を図ります。

 不可逆性の壊死が生じると手指は強い屈曲拘縮を示し、どのような再建を行っても十分な機能回復は困難になります。

コラム肘内障

国立成育医療センター第2専門診療部部長 高山真一郎

 3~6歳ぐらいの幼児にしばしば生じる状態で、両親などが手を引っ張ったあとに、子どもが痛がって手をだらんと下げて動かさないのが特徴です。

 とくに肘関節周辺の腫脹(はれ)はなく、X線検査で異常所見もみられませんが、原因は橈骨頭を支える輪状靭帯から橈骨頭が半分抜けかかるためといわれています。

 骨折や脱臼の可能性がなく、症状や経過から肘内障が疑われた時は、徒手整復を行います。整復操作は簡単で、肘関節を回外しながら屈曲させていくと、クリック(カクンなどの音)を伴って整復され、その瞬間から手を自由に動かせるようになります。

 同じような原因で再発を繰り返すケースも少なくありませんが、予後は良好で、学童期になるとほとんど発症しなくなります。

コラム外反肘と内反肘

国立成育医療センター第2専門診療部部長 高山真一郎

外反肘

 肘関節は、伸ばした際に正面から見ると5~15度程度やや外側に「く」の字に曲がっています。これは生理的外反と呼ばれ、正常な状態です。この外反が極端に曲がっている状態が外反肘で、なかには45度以上も外反していることがあります。

 外反肘のほとんどは、子どものころの上腕骨外顆骨折によるものです。骨折の治療が不適切だったために、肘の外側の外顆部分の骨が癒合せず偽関節になり、外側の成長障害を起こしたことが原因です。偽関節になっても、変形のみで通常は痛みが残ることはなく、そのまま放置されることも少なくありません。しかし、成人になってから小指のしびれや麻痺が生じることがあります。これを遅発性尺骨神経麻痺といい、肘が強く外反し、かつ不安定なため、肘の内側を走る尺骨神経が徐々に障害されて起こります。

 遅発性尺骨神経麻痺は、骨折後20年以上も経過して発症することも多く、その場合は神経移行術と、可能であれば偽関節の癒合手術を行います。

内反肘

 外反肘とは逆に、内側に「く」の字に曲がっている状態を内反肘と呼びます。

 内反肘の原因は、生まれつきのものと、骨折後の後遺障害とがあります。生まれつきの場合は比較的少なく、上腕骨内側の滑車と呼ばれる部分が小さい(滑車形成不全)ことが原因です。

 内反肘の大多数は、子どものころの上腕骨顆上骨折が原因で、骨折部位で内側に傾き、さらにねじれて癒合したために内反肘変形が生じたものです。15度以上の内反変形が生じると見かけ上の変形が目立ち、矯正手術を行ったほうがよい場合があります。まれに、内反肘を放置すると尺骨神経障害、肘関節の動揺関節などが生じることがあります。

 通常の顆上骨折による内反肘は、骨の癒合後に変形が進行することはありません。しかし、類似の骨折で上腕骨遠位骨端離開という成長線の骨折では内反変形が徐々に進行する場合もあり、注意を要します。

前腕骨骨折に関する医師Q&A