出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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上手な医療の利用法執筆:医療ジャーナリスト 和田努

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病院の選び方

●さまざまな医療機関

 ひと口に医療機関といっても、呼び名、規模、役割も実にさまざまです。医療機関は、まず「病院」と「診療所」に大別されます。細かい定義については後述しますが、私たちの地域で「医院」「クリニック」とうたっているものが診療所です。

 病院も個人名を関した小規模の民間病院(私的病院ともいう)もあれば、公的病院もあります。公的病院の代表格だった国立病院も機構改革が進み、正確には独立行政法人国立病院機構が運営しています。

 国立高度専門医療センターは通称「ナショナルセンター」とも呼ばれ、国立がんセンター、国立循環器病センターなどは、「国立」だったのですが、2010年4月から、各センターは独立行政法人化しました。

 独立行政法人化後は、各センターの名称に「研究」の字句が挿入され、国立精神・神経センターには「医療」の字句も加えられました。これら各センターの総称にも「国立高度専門医療研究センター」と、「研究」の字句が加えられました。各センターの名称は次のように変わりました。

  • 国立がんセンター→独立行政法人国立がん研究センター
  • 国立循環器病センター→独立行政法人国立循環器病研究センター
  • 国立精神・神経センター→独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
  • 国立国際医療センター→独立行政法人国立国際医療研究センター
  • 国立成育医療センター→独立行政法人国立成育医療研究センター
  • 国立長寿医療センター→独立行政法人国立長寿医療研究センター

 いまあげた以外の国立病院だった病院は、独立行政法人国立病院機構が運営することになり、「独立行政法人国立病院機構○○病院」という名称になりました。このように国立病院は大幅に機構改革されました。

 こうした国立系の病院のほかに、都道府県や市町村が運営する公立病院(自治体病院ともいう)もあります。大学医学部、医科大学の附属である大学病院もあります。

 このように実にさまざまな医療機関があるので、それぞれの医療機関がどんな機能、どんな特徴をもっているのか、熟知しておく必要があります。

●病院と診療所

 先ほども少し触れましたが、医療機関は「病院」と「診療所」の2つに大別されます。「病院」を名乗るには、入院用のベッドを20床以上もち、医師が常時いて、1日24時間患者に対応できる体制になっていることが条件づけられています。

 これに対し、入院用のベッド数がゼロ(無床)か、あっても19床以下のところが「診療所」です。医院、クリニックという看板を掲げているいわゆる開業医は、すべて診療所に含まれます。診療所は医師である院長1人と、受付事務などを兼ねた看護師が2~3人いるというのが、ごく一般的なスタイルです。

 診療所のうち、入院用のベッドをもっている、いわゆる有床診療所は全体の4分の1程度で、あとは外来患者を中心にすえ、時には訪問診療も行うという、ベッドをもたない無床診療所です。外来患者はあまり受けいれないで訪問診療中心の診療所も、徐々にですが増えています。高齢社会を反映して、寝たきり患者などを中心に在宅医療を支援しようというものです。

 診療所は、その設備やスタッフなど法に定められた設置要件ゆえに、診療科目については内科だけ、小児科だけ、あるいは皮膚科だけというように、単科を標榜するところがほとんどです。

 もちろん複数科目を標榜する診療所もないわけではありません。その場合は、「内科・小児科」「外科・整形外科」というように、お互いに関連する診療科に限られているというのが一般的です。しかし日本の場合、医師免許さえあれば自由に診療科目を標榜できるので、時に1人の医師が内科、小児科、外科、皮膚科、放射線科…と多くの診療科の看板を出しているケースもあります。ひとつの診療科をきわめるのは大変なことです。「この医師の本当の専門はなんなの?」というような診療所もあり、このようなケースは疑問視せざるを得ません。

 診療所で扱われるのは、通院治療だけで十分コントロールできる程度の、比較的軽症の病気が中心となります。別の言葉で言えば、診療所はプライマリ・ケアを担います。プライマリ・ケアとは、医療行為のなかで初期の段階を受け持つ医療といえます。医療への入り口という意味で一次医療ともいい、コモンディジーズ(ありふれた病気)を中心に診療します。病気のふるい分けも大切な仕事で、難しい病気や長期入院を要する重症患者については、患者個々の病状に見合った医療機関を選んで紹介することになります。

●大病院か診療所か

 プライマリ・ケア(一次医療)について述べましたが、二次医療は、プライマリ・ケアを担う診療所などでは診療が難しい中程度の障害や病気を診療します。これは、いわゆる一般病院が担います。

 三次医療は、医療供給体制の頂上部、高度な医療を要する病気や障害を扱います。いわゆる大学病院、そして国立高度専門医療研究センターとして位置づけられている、独立行政法人国立がん研究センター、独立行政法人国立循環器病研究センター、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター、国立成育医療研究センター等(通称ナショナルセンター)の病院などが担います。

 大学病院本院、独立行政法人国立がん研究センター、独立行政法人国立循環器病研究センター、大阪府立成人病センターは、「特定機能病院」に指定されています。医療法には「高度の医療を提供するとともに、高度の医療に関する開発・評価および研修を行う医療機関」と規定されています。いわゆる大病院の典型といってよいでしょう。

 街の診療所から特定機能病院まで、さまざまな医療機関があり、規模も人員構成も、担う役割も多彩です。それだけに、いざ自分がかかる医療機関を選ぶとなると、誰もがつい迷ってしまいます。いったい私たちは、何を目安に、どんなことに配慮すれば、ベストの選択ができるのでしょうか。

 たとえばある人は、こう言ってはばかりません。

 「とにかくかぜだろうが少々の腹痛だろうが、大学病院に行くに限る。医師はそろっているし設備も良い。何も好きこのんでたいした検査設備のないような近くの医院や病院に行くことはないじゃないか」と。

 なるほど大学病院のような大病院にはいろいろな設備がそろっています。最先端の診断・治療機器も完備していますし、専門医、看護師、検査技師などスタッフもそろっているに違いありません。

 しかしだからといって、いい医療、自分の希望に合った医療サービスを受けることができるという保証は、実はどこにもないのです。

●患者が殺到することによる弊害

 大学病院を含む特定機能病院のような大病院は、2、3日寝ていれば自然に治るようなかぜや、食べすぎによる腹痛程度の患者を診るためにある施設ではありません。診療所や地域にある一般の病院などでは確定診断が難しい、したがって治療も困難という患者のための施設です。

 ただのかぜや腹痛程度で、われもわれもと大学病院や大病院につめかけたのでは、大病院本来の機能を損なってしまいます。そればかりか、高度な専門的な診療や難しい治療、あるいは手術を必要とする患者の受診チャンスを、間接的に奪うことにもなりかねません。

●病院にはそれぞれの機能がある

 「大病院信仰」は多くの人がもっています。とりわけ大都市に住んでいる人は、どこによい医師がいるか情報がないので、とりあえず大病院、大学病院に行けば無難だろうということで、大勢が押しかけます。また大病院や大学病院には、教授とか部長とか偉い先生がいるから、よい医療が受けられるに違いないと思いがちです。

 大学病院を例にとると、内科や外科などは100人単位の医師がいます。そのなかには、医師免許取立ての研修医という見習中の医師も多く含まれています。時には教育途上にある医学生に、自らの体をゆだねるということもありえるのです。大学病院にいきなり受診しても、誰もが必ず教授に直接診てもらえるわけではありません。大学病院は医師を育てる教育機関でもあるのです。未熟な研修医による医療事故も多発していることも考えなくてはなりません。

 少なくともかぜや腹痛程度の軽い病気でいきなり大学病院に飛び込むのは、賢明な選択とはいえません。

●まずは「かかりつけ医」に

 やはりいちばんいいのは、いきなり大病院を訪れることをやめて、自分の住んでいる地域や職場の近くに、かかりつけの医師を持つことです。

 かかりつけ医はどんな医師がふさわしいのか考えてみましょう。医療はコミュニケーション行為です。平たく言えば、医療には人と人の「対話」「付き合い」が大切です。医師と患者ということに限定しないで日常の「付き合い」ということを考えてみましょう。悩みや困難に直面している時、相談に乗ってもらえる人、お互いに話をしていて気持ちが通じ合う人、そんな感じの人が、長く付き合っていける条件のような気がします。

 相手がいばり、上からものを言う人で、こちらがへりくだって卑屈になっていなくてはならない関係は決してよい「付き合い」とはいえないでしょう。これは医師と患者の関係でも、同じことがいえるのではないかと思います。

 何でも相談できて、患者の質問や悩みにじっくりと耳を傾けてくれて、わかりやすい言葉で的確に話してくれる医師は、有能な医師だと思います。X線写真やカルテの内容など、医療情報を開示してくれる医師は、有能であり、かつ自信を持って診療している証拠だと考えます。

 心身の異常、不調を感じたら、まずかかりつけ医を訪れて相談することです。かかりつけ医に相談して、多くの場合は解決するでしょう。しかし、手術が必要になった時、高度な検査が必要になった時、適切な病院、専門医をかかりつけ医に紹介してもらうのが、好ましい「医師のかかり方」といえるでしょう。

 かかりつけ医は万能選手ではありません。病気をふるい分けるスクリーニングの機能も担っているのです。

 いずれにしても、極端な大病院志向は、患者にとっても医師にとっても得策ではありません。とりわけ現代は「生活習慣病の時代」です。信頼できるかかりつけ医をもち、長い期間の医療情報を共有しながら、二人三脚で健康管理をしていくのが理想的です。