ラブ法ってどんな治療法ですか?【腰椎椎間板ヘルニア】

[ラブ法] 2014年9月30日 [火]

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ラブ法(1)
ラブ法

患部をじかに見ながら、安全確実にヘルニアを切除

 腰部を背中から切開して、必要最小限の骨を削り、十分な視野でヘルニアを切除します。腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア手術の最も基本となるラブ法について、この手術に習熟した曽雌茂先生に語っていただきました。

どんな治療法ですか?

直接目で見ながら、ヘルニアを確実に切除し、安全に神経への圧迫を取り除きます。
全国の医療機関で受けられる最も基本的な、確立された手術法です。

椎弓を大きく取り除く手法から骨の切除を最小限にする手法へ

スタッフと打ち合わせ中の曽雌先生スタッフと打ち合わせ中の曽雌先生

 1930年代以前の腰椎椎間板ヘルニアの手術は、椎弓(ついきゅう)切除術が中心でした。これは、腰部の背中側を切開して、椎弓部分を大きく切除し、膨(ふく)らんではみ出した椎間板、椎間板の線維輪(せんいりん)を破ってはみ出した髄核(ずいかく)など、神経を圧迫しているヘルニア(椎間板の構造はこちらを参照)を、直接よく見えるようにしたうえで取り除くという手術法です。

 これに対して1930年代の末、「骨をほとんど削らずに、椎弓と椎弓の間から手術器具を入れて黄色靱帯(おうしょくじんたい)を取り除くだけで、ヘルニアを切除できた」という報告がありました。この手術法は報告者の名前をとって、ラブ(Love)法と呼ばれ、これが現在の椎間板ヘルニア切除術の基本となっています。この手術により、神経を圧迫しているヘルニアを取り除くことで、脚のしびれなどの症状がおさまります。

 骨を削る範囲が小さければ、腰椎の体を支える安定性を保つことができます。さらに、皮膚を切開する範囲も小さくでき、手術でよけるべき筋肉も少なくて済むので、術後の痛みも軽減できます。内部の組織の癒着(くっつくこと)も防ぎやすくなります。

 ただし、骨を削らないことに固執するあまり、肝心なヘルニアを取り残したり、大切な神経を傷つけてしまったのでは本末転倒です。安全のためには、椎弓の一部は削り、かつ不必要には削らないということが基本となります。

 このような考え方からラブ法にはさまざまな改良が加えられ、現在腰椎椎間板ヘルニアの手術の基本となっている手術法は「いわゆるラブ法」と呼ばれています。適応となる患者さんは幅広く、10歳代の若者にも、高齢者にも行います。

患部を拡大、視野も広い手術用ルーペを使用

曽雌先生愛用の手術用ルーペ曽雌先生愛用の手術用ルーペ

 私がこの手術を始めたころは、裸眼で、文字どおり患部を直視して行っていましたが、10年ほど前からは手術用ルーペを使っています。現在使っているレンズは2.5倍。2mmのものが5mmに見えると、守るべき神経の見え方もより鮮明になるなど、精神的に余裕が生まれ、落ち着いて手術ができます。もちろん顕微鏡ほど大きくは見えませんが、非常にクリアです。顕微鏡は、手術箇所だけが拡大されますが、手術用ルーペは視野が自由なので、広い範囲に気を配りながら手術ができます。

 手術法でいえば、顕微鏡による手術も、内視鏡での手術も、視野のとり方や、ヘルニアに到達する方法が異なるだけで、「腰部を切開してヘルニアを切除する」という手技自体はラブ法となんら変わりません。その意味でもラブ法がヘルニア手術の基本であるといえるでしょう。

安全、確実なラブ法。ほかの手術と組み合わせやすい

●直接目で見て行うヘルニアの切除法
図1開創器という器具で筋肉をよけ、そこからじかに手術部位を見てヘルニアを切除する。直接目で見て行うヘルニアの切除法

 顕微鏡や内視鏡を使う手術では、患部であるヘルニアの周辺を拡大して見ることができます。ただし、それぞれ視野が限られていたり、見え方が平面的であったり、手技を行う道具が特殊だったりといった条件を伴います。そこで、これらの手術を、安全に、しかもヘルニアの取り残しなく行うためには、術者の経験や熟練が必要になります。

 一方、ラブ法はじかに見て確認しながら手術を進められる安全、確実な方法であり、すでに基本的な術式として広く普及しています。また、特別な手術機器を必要としないため、どこの医療機関にかかっても、ほぼ同じ水準の治療を受けることができます。傷口の大きさも、現在では、ヘルニアのほかの手術法と比べて、せいぜい1~2cm程度の違いしかありません。

 そしてラブ法は、腰椎椎間板ヘルニアに付随するほかの手術を併用しやすいのが大きなメリットです。

 たとえば、腰椎変性すべり症などがあり、ずれて不安定になっている背骨を安定させるために、骨移植やスクリュー(ネジ)を入れる固定術を加える場合、顕微鏡や内視鏡などの切開口では無理なため、スクリューを入れるために傷口を広げたり、別に設けたりする必要があります。

 ラブ法なら、スクリューを入れることを想定して切開しておき、ヘルニア手術の流れで、そのまま固定術を行うことができます。

 また、ヘルニア手術での出血はほとんどありませんが、万一、出血で緊急の処置が必要な場合も、そのまま十分に対応できます。

手術が必要となるのは患者さんの1~2割

●手術が必要になるケース
表1
〈保存療法を行わずに手術〉
・脚の麻痺や排尿・排便障害などの馬尾症状がある(緊急手術)
・生活、仕事上の都合で早く痛みをとりたい
〈保存療法後の手術〉
・保存療法を2~3カ月続けても治療効果が得られない

 ヘルニアは自然に吸収されたり、小さくなったりする可能性があり、患者さんの7~8割は、保存療法で経過をみていると、数カ月のうちに症状がとれてきます。保存療法では治療効果が得られない場合は、患者さんに手術も選択肢に入ってきたことを話します。腰椎椎間板ヘルニアと診断された人の1~2割は、こうして手術に進むことになります。

 ただし、痛みやしびれなどに加えて、「脚に麻痺(まひ)が出て、力が入らない」「おしっこが出にくい、あるいはもれる」「便が出しにくい、あるいは便が出てしまっているのがわからない」といった馬尾(ばび)障害の症状が確認されれば、緊急手術となります。

 保存療法が有効なケースであっても、「我慢できないほど痛みが強い」「受験が迫っていて当日までにすっきりさせておきたい」「仕事の都合上、早期に復職したい」などの要望により、早めに手術に進むケースもあります。

 いずれにしても、手術を検討するにあたっては、あくまでも患者さんの意向を尊重することになります。

曽雌 茂 東京慈恵会医科大学附属病院 整形外科准教授
1960年東京都生まれ。85年東京慈恵会医科大学卒業。同年同大附属病院にて研修。87年同大整形外科助手。新潟大学整形外科学教室留学、東京慈恵会医科大学整形外科助手、同大附属病院医長、国立長野病院整形外科医長などを経て、99年東京慈恵会医科大学附属病院整形外科学診療医長。同年同大整形外科学講座講師。2011年より同准教授。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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