ラブ法の治療の進め方は?【腰椎椎間板ヘルニア】

[ラブ法] 2014年9月30日 [火]

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ラブ法(2)

神経を傷つけないように注意しながら、神経を圧迫しているヘルニアを切除します。取り残しのないよう念入りに確認。手術時間は30分程度です。

姿勢はうつぶせで全身麻酔。X線で切開位置を確認する

●手術室のセッティング
図2手術室のセッティング

 手術が決まったら、手術の日の2日前には入院してもらいます。手術自体は前日入院でも可能ですが、新たに心臓や肺などに合併症がみつかった場合にも対応できるよう、入院は1日早めにしています。手術前日21時以降は飲食なしで手術に臨むことになります。

 患者さんは、うつぶせで手術を受けるため、わきや手脚の関節部分の神経や血管を圧迫せず、腹圧がかかりにくい、特別な形の手術台を用います。腹圧がかかると、手術中に出血しやすくなります。

 手術は全身麻酔で行います。

 まず、腰椎部背中側の皮膚の切開位置を決めます。事前のX線やMRI(磁気共鳴画像法)による検査画像で確認された、ヘルニアがあると推察される腰椎の部分に背中から針を刺し、X線写真を撮ります。この画像と事前の検査画像を見比べ、この針を目印にしてヘルニアの位置を確認し、切開する位置に印をつけます。

 腰椎はほとんど同じ形のものが並んでいるため、事前の検査画像だけでは実際の位置が判断しにくく、目印を使ってより正確な位置を確認する必要があります。

ヘルニアが切除できるように必要最小限の椎弓を削る

●手術の開始
図3手術の開始

 通常、ヘルニアを切除するだけならヘルニアのある部分の腰の皮膚を3~4cmほど切開します。ヘルニアの切除以外に、たとえば腰椎の椎骨どうしが不安定で、補強のためにスクリューを入れる固定術を行う場合などは、もう少し大きめに切開する必要があります。

皮膚を切開したら、ヘルニア周辺の椎弓についている筋肉をはがすようにしてよけます。よけた筋肉が戻らないように、専用の器具(開創器)で広げて患部が見えるようにしますが、この器具の幅が約3cmのため、これに合わせて腰の皮膚の切開は3~4cmとしています。切開の長さは体格によって違いがあり、大柄な人ほど椎弓が大きいので、傷口も大きくなります。

 次に目指すヘルニアに到達するために、その部分の椎弓を最小限に削ります。さらに椎弓とヘルニアの間にある黄色靱帯を取り除くと、多くの場合、圧迫されている神経根(しんけいこん)の下に、飛び出しているヘルニアが見えてきます。神経根を傷つけないようによけながら、ヘルニアの切除にとりかかります。

神経を傷つけないようにヘルニアを切除する

●背中の筋肉をはがし、開創器を入れる(手術)
図4背中の筋肉をはがし、開創器を入れる(手術)

 ヘルニアのある付近には神経根や硬膜(こうまく)に包まれた馬尾があります。腰椎椎間板ヘルニアの手術の最大のポイントは、いかにこれらの神経を傷つけずに、黄色靱帯を切除し、ヘルニアを取り除くかというところです。黄色靱帯、あるいはヘルニアを取り除いているつもりで、誤って神経を傷つけることのないように、しっかり確認しながらヘルニアを切除していきます。

 神経をよけてヘルニアを取り出すとき、ヘルニアと神経が癒着していることがよくあります。さらに、ヘルニアがある神経付近は、血管も集まっていて出血しやすいところです。出血させてしまうと、血液で患部が見えにくくなり、手術が難しくなります。出血が認められたら、すぐに高周波の電気で瞬時に止血を行うバイポーラー(双極)型凝固止血器で止血しながら、手術を進めます。ここでも、バイポーラーが神経に触れないように注意を払います。

●椎弓の一部を削り、ヘルニアを除去
図5椎弓の一部を削り、ヘルニアを除去

検査画像と実際の切除物を比べヘルニアの取り残しを防ぐ

 腰椎椎間板ヘルニアの手術では、ヘルニアの取り残しに細心の注意を払います。画像診断が進化し、事前のMRI検査などで、ヘルニアの位置とともに大きさも正確にわかるようになり、実際に切除したヘルニアの量を見て、全部切除できたかを判断できるようになってきました。

 実際、「こんなに少ないはずはない。もっとどこかに隠れているはずだ」と、改めて患部を確認するケースもあります。

 ヘルニアをすべて切除できたこと、神経根の圧迫が完全に取り除かれていることを確認したら、切除箇所に血液などがたまらないように排出する、ドレーンという細い管を入れて傷口を縫い合わせ、手術は終了します。

 ヘルニアを取るだけなら手術時間は通常30分程度、急なトラブルの発生などがなければ、1時間を超えることはありません。

術後2日目から歩くことができ1週間~10日で退院

●入院から退院まで
図6
入院
手術2日前
・手術前検査
・手術内容の説明
・手術前日は21時以降飲食禁止
手術当日 ・手術室に入る。麻酔開始
・手術
・ベッド上安静
・痛みが強ければ痛み止め
術後1日目 ・食事可
・車いすでトイレ排尿可
術後2日目 ・ドレーンを抜く
・コルセット着用で歩行可
術後3~10日目 ・抜糸、シャワー可(7~10日目)
退院 ・抜糸後退院
・次回外来予約
・2カ月程度コルセット着用

 手術後、当日中はベッド上で安静を保ちます。翌日からは車いすで移動が可能、通常の食事をとることができます。実際には、翌日から歩行可能ですが、ドレーンがずれないように、車いすを使用してもらいます。2日目にはドレーンを抜き、自由に歩けるようになりますが、手術した患部の保護のため、コルセットを着用します。

 傷口の抜糸までに、術後1週間から10日かかるため、これに合わせて退院となるのが一般的です。退院してから2カ月ほどはコルセットをつけたままにしてもらいます。

 退院2~3週間後に外来で、通常の生活に戻って患部に異常が出ていないかチェックします。その後は3カ月~半年に1回通院し、1年~1年半はようすをみていきます。特に異常がなければ、以後は、調子が悪くなったときだけの不定期な通院となります。

ヘルニアの再発率は約3%。腰の負担を減らす生活習慣を

●ラブ法の基本情報
図7
全身麻酔
手術時間 ―――――― 30分~1時間
入院期間 ―――――― 10~13日間
費用―手術費用約7万円、入院、検査等を含め約10万円(健康保険自己負担3割の場合。ただし、高額療養費制度の対象のため、実際の自己負担額はさらに低い)

*費用は2013年1月現在のもの。今後変更の可能性がある。

(東京慈恵会医科大学附属病院の場合)

 ヘルニアの患者さんには若い人も多く、無理な動きで再発するのを防ぐために、活動性が高いと思われる人には特に、退院後もコルセットを着用してもらいます。2カ月ほどで、手術した腰椎も安定するので、コルセットをはずします。

 腰椎椎間板ヘルニア手術では、たとえていえば、あんパン(線維輪)から飛び出して神経を圧迫しているあんこ(髄核)を取り除くわけですが、あんこが全部なくなるわけではありません。取り除いたのは、飛び出したあんこだけなので、中に残ったあんこが、再び飛び出してくる可能性があります。こうした再発の危険性は約3%という報告もあります。

 一度手術をした箇所は、その分弱くなっているため、髄核が飛び出しやすくなっていることは確かです。手術後の生活には特に制限はありませんが、腰の負担をできるだけ少なくする生活習慣を心がけ、適切な運動療法も加えながら筋肉を鍛えて、腰を守ることが大切です。

 なお、ラブ法で手術を受けたときの費用は、ヘルニア切除の手技料だけで23万5,200円。健康保険が使えるので、3割負担の人なら約7万円。このほかに検査や入院の費用がかかるため、おおむね10万円程度の負担となります。


曽雌 茂 東京慈恵会医科大学附属病院 整形外科准教授
1960年東京都生まれ。85年東京慈恵会医科大学卒業。同年同大附属病院にて研修。87年同大整形外科助手。新潟大学整形外科学教室留学、東京慈恵会医科大学整形外科助手、同大附属病院医長、国立長野病院整形外科医長などを経て、99年東京慈恵会医科大学附属病院整形外科学診療医長。同年同大整形外科学講座講師。2011年より同准教授。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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