薬物療法の治療の進め方は?【腰部脊柱管狭窄症】

[薬物療法] 2014年6月10日 [火]

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薬物療法(2)

脚の痛みに対しては、痛みをやわらげる薬、脚のしびれには、血流を促す薬を用います。強力に痛みを抑える新しい薬も登場しています。神経ブロックも試す価値のある治療法です。

痛みには消炎鎮痛薬、しびれには血流促進の薬剤

●腰部脊柱管狭窄症の保存療法
図1

 腰部脊柱管狭窄症の薬物療法では、脚の痛みがある場合、最初に使うのは非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)で、痛みと炎症を抑える働きがあります。この薬は胃腸障害をおこしやすいという副作用がありますが、最近は胃腸障害をおこしにくいタイプの薬も開発されています。

 そこで、非ステロイド性消炎鎮痛薬のなかでも、胃腸障害をおこしにくい薬を第一に選択し、効果がみられない場合は、その他の非ステロイド性消炎鎮痛薬を試すことになります。その際には、胃腸障害の予防のために、胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬を一緒に処方するようにしています。

 患者さんのなかには、長期間、非ステロイド性消炎鎮痛薬を服用したため、消化管に潰瘍(かいよう)ができて下血がみられる人もいます。このような場合は薬物療法を中止して、手術を受けるように勧めています。

 脚のしびれや脱力感、間欠跛行(かんけつはこう)といった症状がみられる患者さんには、プロスタグランジンE1製剤を用います。この薬は末梢(まっしょう)の血管を広げて血流をよくする働きがあります。脚のしびれや脱力感、間欠跛行といった症状は、神経が圧迫されることにより、血行が悪くなって現れると考えられるため、プロスタグランジンE1製剤が効果的です。

 また、腰部脊柱管狭窄症の患者さんのなかには、夜眠っているときや明け方に脚がつる人がいます。こうした患者さんに対しては、漢方薬の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を処方しています。

消炎鎮痛薬で効果が不十分なら作用の異なる薬を用いる

●腰部脊柱管狭窄症の治療に用いられる薬
表1
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs) 胃腸障害をおこしにくいタイプ(COX-2選択的阻害薬) 最もよく使われる痛み止めで炎症を鎮める作用もある。主な副作用は消化器の潰瘍(かいよう)、心血管系障害、発疹(ほっしん)、眠気など
従来のタイプ
*プロトンポンプ阻害薬併用
プロスタグランジンE1製剤 末梢(まっしょう)の血管を広げて血流を改善する。主な副作用は下痢、吐き気、嘔吐(おうと)、眠気、発疹など
漢方薬 芍薬甘草湯 筋肉痛や神経痛をやわらげる。主な副作用は胃の不快感、吐き気、発疹など
神経性疼痛緩和薬 プレガバリン(商品名リリカ) 末梢神経の障害による痛みをやわらげる。主な副作用は眠気、ふらつき、むくみなど
オピオイド鎮痛薬 トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合(商品名トラムセット) 強力な鎮痛効果。主な副作用は吐き気、嘔吐、眠気、便秘、めまいなど

 非ステロイド性消炎鎮痛薬を数種類試しても効果がみられない場合は、プレガバリン(商品名リリカ)という神経性疼痛(とうつう)緩和薬と呼ばれる種類の薬を使うことがあります。この薬はもともと帯状疱疹(たいじょうほうしん)後の神経痛を抑えるために使われている薬で、末梢神経が障害されている場合に、よく効きます。非ステロイド性消炎鎮痛薬とは、薬が作用するしくみが異なるので、非ステロイド性消炎鎮痛薬で効果がみられない患者さんには、次の選択肢として有望な薬です。

 ただし、プレガバリンは眠気、ふらつきといった副作用があるので、注意する必要があります。

 さらに、トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合(商品名トラムセット)という薬も有力な選択肢です。この薬はアセトアミノフェンとトラマドールという薬物が両方含まれている配合剤です。アセトアミノフェンは副作用の少ない解熱鎮痛薬で、市販のかぜ薬などにも含まれています。トラマドールは弱オピオイドと呼ばれる種類の薬物で、中枢神経系に働き、強力な鎮痛効果があります。非ステロイド性消炎鎮痛薬ともプレガバリンとも、薬が作用するしくみが異なります。

 ただし、この薬は吐き気、嘔吐(おうと)、眠気、便秘、めまいなどの副作用に注意が必要です。

硬膜外ブロックまたは神経根ブロックが有効

●硬膜外ブロック
図2脊柱管内には神経の束の馬尾が通っている。馬尾を包んでいる硬膜の外側に局所麻酔薬、ステロイド薬を注入して神経を麻痺(まひ)させ、痛みが伝わるのを止める。腰椎の椎骨間から入れる手技と、仙骨の先の仙骨裂孔という孔から入れる手技がある。
●選択的神経根ブロック
図3症状のもととなっていると推測される1本の神経根に針を刺すか、あるいはその直近に針を入れて、薬を注入する。打った瞬間の痛みが、いつもの症状と一致するか、その後症状がとれるかによって、症状を引きおこしている神経根を特定できる。

 さまざまな内服薬による薬物療法で効果がみられない患者さんにとって、もう一つ有力な選択肢となるのが、神経ブロックです。

 神経ブロックは神経やその周囲に局所麻酔薬を注射し、痛みの伝達をブロックする方法です。痛みの情報が脳に伝わらないように、途中で止めてしまうわけです。症状によっては、局所麻酔薬に炎症を鎮めるステロイド薬をあわせて用います。

 腰部脊柱管狭窄症の治療でよく使われるのは、硬膜(こうまく)外ブロックという方法です。脊髄(せきずい)や馬尾(ばび)は硬膜という膜で包まれていますが、この膜の外側にある空間に薬剤を注入する治療法です。

 硬膜外ブロックを行うと、知覚神経だけでなく運動神経も麻痺します。また、麻酔の効いている血管が広がるため、血圧が低下します。このため、注射を打ったあと、患者さんは1~2時間程度、安静に過ごす必要があります。

 腰部脊柱管狭窄症では、診断と治療を兼ねて、選択的神経根(しんけいこん)ブロックという手法も行われます。X線透視装置で位置を確認しながら、その患者さんの症状を引きおこしていると推測される、馬尾から分かれた1本の神経根を選び、神経根そのもの、もしくはその周囲に注射を打って、局所麻酔薬、あるいは、局所麻酔薬にステロイド薬をあわせて注入するものです。局所麻酔薬を注入する前後に造影剤を注射して検査をする場合もあります。

 選択的神経根ブロックの注射は、打った瞬間に激しい痛みが生じますが、その神経根が普段出ている症状のもととなっていれば、すぐに痛みやしびれなどの症状はおさまっていきます。

 この選択的神経根ブロックによって、症状のもととなっている神経根を特定できます。そのため、この治療は診断を兼ねて行うものです。

 神経ブロックの効果は人それぞれで、効果が1年以上持続する患者さんもいれば、注射を打ったその日にしか効果がみられない患者さんもいます。数回、神経ブロックを試みても効果が持続しないようであれば、手術を検討するように勧めるのが一般的です。

装具療法は手術後一時的に、温熱療法は腰痛に有効

 薬物療法以外の保存療法としては、装具療法が昔から行われてきました。腰部脊柱管狭窄症の患者さんは、前かがみの姿勢をとると、患部の神経の圧迫が弱まり、症状がやわらぎます。そこで、痛みを抑えるため、体がのびないように、強制的に前かがみの姿勢にする装具のコルセットを身につけるという治療です。コルセットは患者さんの体に合わせてオーダーメードで作ります。

 しかし、手術を避ける目的でこの装具療法をすることは、最近は少なくなっています。コルセットを身につけても、根本的な解決策になるわけではなく、不自然な姿勢を長期間とるのは患者さんにとって大きな負担となるためです。

 ただし、手術のあとには患部の保護のために、背骨が安定するまでコルセットをつける場合があります。

 低周波を当てる電気療法や、温熱療法をして血行を促す療法は、腰痛に対して一定の効果があります。ただし、腰部脊柱管狭窄症にみられる脚の痛みやしびれに対しての効果は期待できません。

 慢性的に腰痛のある人に対して、牽引(けんいん)療法が行われることがあります。牽引は筋肉の緊張をほぐすことが目的で、腰痛には一定の効果があります。ただし、この方法も腰部脊柱管狭窄症にみられる脚の痛みやしびれに対して有効とはいえません。

 腰部脊柱管狭窄症の場合、脚の痛みやしびれによって、満足に歩けない状態になっています。運動をすることは困難なため、運動療法は勧めていません。

高橋 寛 東邦大学医療センター大森病院整形外科教授
1964年東京生まれ。88年東邦大学医学部卒業。同大医学部付属大森病院整形外科等を経て、98年から1年間、米国カリフォルニア大学(UCSF)留学。2004年東邦大学医療センター大森病院整形外科講師、09年同准教授、11年同教授、脊椎脊髄病診療センター長、12年任用換えにより東邦大学医学部整形外科教授。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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