顕微鏡下椎間板切除術ってどんな治療法ですか?【腰椎椎間板ヘルニア】

[顕微鏡下椎間板切除術] 2014年10月14日 [火]

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顕微鏡下椎間板切除術(1)
顕微鏡下椎間板切除術

大きく拡大した視野で、安全にヘルニアを除去

 手術用顕微鏡を活用し、明るく鮮明な視野で神経を守ります。患者にも医師にも安全で安心な手術を追求し、顕微鏡下手術に熟達した川端茂徳先生にこの手術法のメリットについて語っていただきました。

どんな治療法ですか?

腰部を切開し、顕微鏡で視野を拡大。術者の目で細部を確認して、神経の損傷を防ぎより安全にヘルニアを切除することを目的とする手術法です。

顕微鏡は二人でのぞける構造。術者と助手が同じ視野を共有する

●手術用顕微鏡
図1対物レンズ、接眼レンズのある、鏡基(きょうき)部と呼ばれる部分を、本体からアームをのばして手術部位の真上にセットする。術者が手元で、位置、倍率などを自由に変えられる。手術用顕微鏡

 顕微鏡下椎間板切除術は、ヘルニアを切除する手術の一つであり、手術用顕微鏡を用い、患部を拡大して見ながら行う手術法です。

 腰部の皮膚を背中側で切開し、椎弓(ついきゅう)や黄色靱帯(おうしょくじんたい)の一部を削って、圧迫された神経をよけながら、飛び出しているヘルニア(椎間板の髄核)を切除するという、手術の目的と手順は、腰椎(ようつい)椎間板ヘルニアに対する最も基本的な手術法であるラブ法と同様です。

 ただし、ラブ法は術者が切開部を肉眼でじかに見ますが、顕微鏡下手術では、手術用顕微鏡を通して拡大された部位を確認しながら手術を行うところに違いがあります。

 手術で使う顕微鏡は、学校の理科の実験で使われる顕微鏡よりはるかに大きい装置で、手術部位の上にセットする鏡基(きょうき)部という部分には、2カ所に接眼レンズが設けてあり、2方向からのぞけるようになっています。皮膚の切開からヘルニア切除までを行う術者のほか、患部の血液を吸い取ったり、神経をよけたりして、手術の進行をサポートする助手も、術者と同じ視野で顕微鏡像を見ることができるようになっています。

ライトで照らし出された鮮明な視野が得られる

 腰椎椎間板ヘルニアの手術は、数cmの切開口から、筋肉をよけ、椎弓や黄色靱帯の一部を削り、ヘルニアを除去するものです。そこで、最も注意すべきは、手術の過程で神経を傷つけないようにすることです。

 この緻密(ちみつ)な手術を安全に素早く行うには、顕微鏡で拡大された視野が非常に有効です。しかも顕微鏡の先端にライトがついているので、視野はさらに鮮明で明るくなります。たとえば、ヘルニアは膜に包まれていることがよくあり、見えているのが膜に覆われたヘルニアか、神経か、肉眼では区別がつきにくい場合があります。しかし、顕微鏡で拡大されたものなら見分けがつきやすく、安全な手術に結びつきます。

 視野が狭くなっても神経や血管など細かい組織を拡大して鮮明に見ることができるため、顕微鏡を用いた手術では、通常のラブ法より切開口を小さくすることができ、出血量や傷あとを含め、患者さんの身体的な負担を減らせます。皮膚切開は、通常2.5~3cmです。

切開口に円筒形の器具をはめ3本の器具を用いて手術

●顕微鏡下で行うヘルニアの切除法
図2背中側からレトラクターを入れて固定し、顕微鏡の拡大された視野で骨を削り、ヘルニアを切除する。顕微鏡下で行うヘルニアの切除法

 最近の顕微鏡下手術には、一般に円筒型開創器(チューブラーレトラクター・以下レトラクター)という器具が用いられています。患部をじかに目で見て行う手術では、必要最小限の皮膚切開をし、開創器という器具で傷口を広げて、そこから手を入れて手術を行います。顕微鏡下手術では、この切開した部分にレトラクターをはめ込んで固定し、筒の中に手術器具を差し入れて、円形の視野を顕微鏡で見ながら手術を進めます(図2参照)。

 この場合は、直径約18mmのレトラクターが入る分だけ皮膚を切開すればよいので、切開口を小さくするのに役立っています。

 このレトラクターは内視鏡手術にも用いられるものですが、内視鏡手術に用いるものよりも、通常、やや径が大きくなります。そのため、内視鏡手術では皮膚切開は2cm程度ですが、顕微鏡下手術では、それより数mm大きくします。利点は、接眼レンズを通して両目で患部を見るので立体的に見えることです。内視鏡手術の場合はモニターで平面画像を見ながら手術をすることになります。

 さらに、内視鏡では筒の中にカメラが入るため、手術器具を2本しか使えませんが、顕微鏡下なら慣れてくるともう1本加えて、3本の手術器具を使えるようになり、格段に手術がやりやすくなります。また、予期せぬ危険な事態がおこったときには、ただちにレトラクターを抜いて傷口を広げ、対処することが可能です。

 ヘルニアの除去を、通常のラブ法で行うか、顕微鏡を用いるかは、医療者・医療機関側がどの手術法を採用しているかで決まってきます。私が勤務する、東京医科歯科大学医学部附属病院整形外科では、全例に顕微鏡の使用が基本となっています。

手術が必要かを慎重に判断。適切な手術位置も確認する

 腰椎椎間板ヘルニアと診断された患者さんには、「2~3カ月で自然に治ることが多い」と話します。自然におさまるまでの2~3カ月間は、痛み止めの薬や、神経ブロックなどの保存療法でようすをみます。私の実感では、保存療法で9割くらいの人は症状がなくなります。

 さまざまな保存療法を2~3カ月続けてもなお、痛みが引かない場合は手術を考慮します。10人の患者さんのうち、3人は薬だけで痛みを抑えることができ、神経ブロックを加えると、さらに6人がよくなって、残りの1人が手術に進む印象です。

 私は、治療に際しては、とにかく安全を第一に考えています。そのために手術には顕微鏡を使いますし、診断には特に慎重を期しています。

 若い患者さんの場合は、MRI(磁気共鳴画像法)の画像でヘルニアが神経を圧迫している位置をほぼ確定できます。しかし、高齢者の場合、ほとんどの人が加齢によって椎間板がつぶれてはみ出しており、どれが痛みの原因になっているのか特定しにくい場合があります。MRIだけで診断し、手術を行うと、ときに「手術をしても治らない」と訴える患者さんがいます。それでは患者さんの痛みや傷が無駄になります。

 そこで、痛みを引きおこしているヘルニアの位置に少しでも疑いがある場合は、選択的神経根(しんけいこん)ブロック(参照)を活用します。痛みの原因になっているとみられる神経根に直接、局所麻酔薬を注射して効果を確認し、圧迫を除くべき神経根を特定して、手術に臨みます。

川端 茂徳 東京医科歯科大学 整形外科講師
1968年神奈川県生まれ。93年東京医科歯科大学医学部卒業、同大医学部整形外科に入局。河北総合病院、九段坂病院、緑成会病院等を経て、97年東京医科歯科大学整形外科医員。98~2002年東京医科歯科大学大学院医学系研究科在籍。02年同大整形外科医員、03年同大整形外科助手。03年から約1年間ドイツ・マグデブルグ大学留学。04年東京医科歯科大学整形外科助教。11年より現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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