薬物療法の治療の進め方は?【腰椎椎間板ヘルニア】

[薬物療法] 2014年9月16日 [火]

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薬物療法(2)

まず安静と消炎鎮痛薬などによる治療を行います。おさまりにくい痛みに対する新しい薬も用います。薬で十分な効果が得られない場合は、神経ブロックが有効な治療法となります。

効果をみながら薬剤を用いる。発症当初には特に安静が大切

 腰椎椎間板ヘルニアによる痛みやしびれに対しては、まず、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAISs)や筋弛緩薬の内服薬、同じく非ステロイド性消炎鎮痛薬の坐剤、貼付(ちょうふ)薬が使われます(表1参照)。

●腰椎椎間板ヘルニアの治療に用いられる薬
表1
薬品名 特徴
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs) 内服薬/ロキソプロフェンナトリウム水和物(商品名ロキソニンなど)
坐剤(ざざい)/ジクロフェナクナトリウム(商品名ボルタレンなど)
貼付薬/ケトプロフェン(商品名モーラスなど)
最もよく使われる痛み止めで炎症を鎮める作用もある。主な副作用は消化器の潰瘍(かいよう)、心血管系障害、発疹(ほっしん)、眠気など
筋弛緩薬 エペリゾン塩酸塩(商品名ミオナールなど) 筋肉の緊張状態を改善させ、痛みをやわらげる。主な副作用は発疹、眠気、吐き気・嘔吐(おうと)、食欲不振、胃部不快感など
オピオイド鎮痛薬 内服薬/トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合(商品名トラムセット)
貼付薬/ブプレノルフィン(商品名ノルスパン)
強力な鎮痛効果。主な副作用は吐き気、嘔吐、眠気、便秘、めまいなど
神経性疼痛緩和薬 プレガバリン(商品名リリカ) 末梢(まっしょう)神経の障害による痛みをやわらげる。主な副作用は眠気、ふらつき、むくみなど

 これらの薬剤で効果が得られない、治りにくい慢性的な痛みに対しては、脳、脊髄などに作用するオピオイド鎮痛薬や、痛みを伝える物質の過剰な放出を抑える神経性疼痛緩和薬といった新しい薬剤が使えるようになり、これまで痛みがおさまりにくかった患者さんに、有効なこともあります。

 ただし、オピオイド鎮痛薬には吐き気、神経性疼痛緩和薬にはめまいやふらつきなどの副作用がそれぞれ2~3割の患者さんに、みられることがあります。

●横向きで腰を丸めて寝るのが楽な姿勢
図3横向きで腰を丸めて寝るのが楽な姿勢

 薬で痛みを抑えると同時に重要なのが、安静を保つことです。痛みやしびれの症状が強いときに、最も楽な姿勢は横向きに腰を丸めて寝た状態です。腰椎椎間板ヘルニアの症状は坐骨神経の障害がもとになっていることが多いので、腰を丸めると坐骨神経への圧迫が緩み、症状が緩和されます。あお向けに寝る場合は、膝の下に大きな枕(まくら)などを置いて膝ひざを立てると、腰が丸まります。

神経ブロックで痛みが伝わるのを止める

 次の選択肢として神経ブロックがあります。神経ブロックを行うには、事前の画像診断が重要です。MRI(磁気共鳴画像法)でヘルニアの場所や大きさ、神経の圧迫状態などをみます。そして、その患者さんの痛みやしびれなどの症状が、検査画像で圧迫を認めた神経の担当領域(支配領域)におこっているものなのかを確認して、椎間板ヘルニアの発生箇所を特定します。

●神経を麻痺(まひ)させて痛みの伝達を止める神経ブロック
図4神経を麻痺(まひ)させて痛みの伝達を止める神経ブロック

●仙骨硬膜外ブロック
 神経ブロックの一つで、外来の診察室で行うことができるため、痛みの激しい患者さんには初診で行うこともあります。仙骨の下端にある孔(仙骨裂孔)に注射針を入れ、馬尾(神経)を包む硬膜の外側の空間(硬膜外腔)に、痛み止めの局所麻酔薬と、炎症を抑えるステロイド薬をあわせて注入します。注射後は10分程度横になって休んでもらいます。

 痛みのため、一人で歩けずに、ストレッチャーで運ばれてきた患者さんが、この注射だけで痛みがおさまり、歩けるようになるケースもあります。腰椎椎間板ヘルニアの患者さんの7~8割はこの仙骨硬膜外ブロックで症状が楽になります。

●選択的神経根ブロック
 仙骨硬膜外ブロックで十分な効果が得られず、選択的神経根ブロックを受けるのは、外来を訪れた患者さんの1割程度です。この治療も外来でできますが、X線透視装置のある治療室で行います。X線で腰椎を透視しながら、ヘルニアによって障害を受けている神経根に直接針を刺し、局所麻酔薬とステロイド薬を注入します。この処置にはある程度の熟練が必要とされ、消毒や準備、位置の確認などを含め、5分程度を要します。

 1回の神経根ブロックで効果が持続しない場合は、1~2週間ほど間をあけ、再度行うこともあります。それでも症状がとれない場合は手術を検討します。

 選択的神経根ブロックは、治療のほかに診断も兼ねて行う場合があります。狙った神経根に針が触れると、脚に電気が走るような痛みがありますが、この痛みが普段の痛みやしびれの位置と一致していて、その後症状がおさまれば、狙った神経根が障害を受けていると確定できます。たとえばヘルニアが2カ所あり、どちらが主に症状を引きおこしているのかをみる場合にも有効で、手術の場合に切除すべきヘルニアの特定につながります。

神経ブロックの効果に個人差。長期に続ける治療法ではない

 神経ブロックは通常、治療後すぐに効果が現れます。しかし、効果には個人差があり、1回の治療で長期にわたって痛みやしびれがとれる人もいれば、半日で効果がなくなる人もいます。

 高齢者で腰部脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)を合併している場合、間欠跛行(かんけつはこう)はあるものの、安静時には症状が出ない患者さんでは、神経ブロックが効きにくい傾向があります。仙骨から離れた上のほうの腰椎のヘルニアや、椎間板が後方ではなく、脊柱管のわきのほうに飛び出して神経根を圧迫する外側ヘルニアでは、仙骨硬膜外ブロックはあまり効果がなく、選択的神経根ブロックで効果が得られることもあります。

 神経ブロックは長期に続ける治療ではありません。何度もくり返し行うと、神経を傷つけたり、神経と周囲の組織がくっついてしまう癒着をおこしたり、あるいは脊椎(せきつい)の感染症を合併したりする可能性が考えられます。私は、神経ブロックは3回までを目安にしています。

 痛み止めの薬剤や神経ブロックを併用した保存療法を行い、2カ月以上改善がみられない場合には、手術を検討します。神経の圧迫状態が長期間続くと、その後、手術でヘルニアを切除しても、十分な回復が得られない場合があるため、手術に踏み切るタイミングも重要です。

痛みが落ち着いたらストレッチを。コルセットに頼り過ぎは避ける

 腰椎椎間板ヘルニアでは、発症から1~2週間ほどたって痛みが落ち着いてきたら適切なストレッチなどの運動を行い、腰や股関節周囲の筋肉をほぐすことが、症状の改善に結びつきます。

 運動は、お尻から太もものうしろの殿筋(でんきん)やハムストリングスと、太ももの内側の内転(ないてん)筋、体幹を支える背筋のストレッチが有効で、十分にのばして動きをよくし、腰への負担を軽減します。

 ストレッチの方法は図5、図6のイラストを参考にしてください。

●運動療法・ストレッチ1
図5運動療法・ストレッチ1
●運動療法・ストレッチ2
図6運動療法・ストレッチ2

 薬剤と神経ブロックによる治療を続けながら、主に腰の痛みをやわらげるために、その他の治療法を加えることがあります。

 トリガーポイント注射は、痛みがなかなかとれない患者さんに行います。まず、患者さんに「最も痛む場所(トリガーポイント)」を指摘してもらい、その位置で、注射針の先を筋肉内まで刺して局所麻酔薬を注入します。ヘルニアにより二次的におこる筋肉や筋膜の緊張、炎症による腰の痛みなどにはよく効きます。

 ヘルニアで傷めた場所を安静に保ち、腰椎を安定させるために、腰部にコルセットや腰椎バンドを巻く装具療法を行うこともあります。コルセットを着用すると、腹筋・背筋の支えとなり、筋肉の緊張が緩むため、痛みが軽くなることが多いのです。保存療法の期間だけでなく、手術直後にも、腰椎と背筋に負担をかけないために使用します。

 コルセットを使用して腰をのばすことにより、症状が強くなるケースもあり、そのような場合には無理に着用する必要はありません。また、コルセットに頼り過ぎると、腹筋や背筋の筋力が低下してしまう場合があります。漫然と着用を続けるのではなく、医師や理学療法士と着用期間をよく相談することが必要です。

 牽引(けんいん)療法は、専用の器具を使って腰椎を引きのばし、筋肉や靱帯の緊張を緩め、神経根の通り道である椎間孔を広げたり、椎間板内の圧力を下げたりして、ヘルニアの飛び出しによる神経への圧迫を弱め、痛みをやわらげることを目的に行います。同時に、腰椎の関節の動きもよくなるという効果を期待します。しかし、人によっては、痛みが強くなってしまうこともあり、その場合には牽引療法は中止します。

 電気療法は、皮膚に電極を貼り、筋肉が軽く収縮する程度の強さの低周波やマイクロ波の電流を流す方法です。痛みをやわらげるほか、筋肉内の血流を改善し、痛みを軽減する効果も狙っています。

 保存療法の中心は、安静と薬物療法、神経ブロック療法ですが、そのほかのこれらの治療法も、患者さんの状態と要望に応じて取り入れることがあります。


大島 正史 日本大学医学部附属板橋病院 整形外科外来医長
1970年東京都生まれ。96年日本大学医学部卒業。同年駿河台日本大学病院救命救急センター研修医。98年日本大学医学部附属板橋病院助手(整形外科学教室)。同病院専修医、川口市立医療センター整形外科医長などを経て、2008年日本大学医学部助教、脊椎脊髄外科指導医取得。09年日本大学医学部整形外科学系医局長。11年より現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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