経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術の治療の進め方は?

[経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術] 2014年11月04日 [火]

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経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(2)

背骨の中心線より10cmほど外側を6~8mm切開、内視鏡を挿入し、ヘルニアを切除します。患者さんもモニターを見ながら、30~60分。翌朝には退院する1泊2日の手術です。

皮膚切開は6~8mm。内視鏡を通す管を差し込む

●内視鏡の構造
図2内視鏡の構造

 患者さんには手術当日の朝、朝食も、飲み物もとらずに、入院してもらいます。

 手術室に入ったら、患者さんはうつぶせの姿勢で、手術台に乗ります。手術前の検査画像を慎重に確認し、X線透視を行いながら、切開の位置をマーキングします。その場で慎重に確認するのはもちろんですが、それ以上に手術前のプランニングが重要です。切開する位置は、ヘルニアのある椎間板の部分で、背中の中心線から10cm程度外側(ヘルニアのある側)になります。

 消毒を終えたら、局所麻酔を施しますが、患者さんは意識のある状態です。患者さんが不安を感じていないか、ときどき声をかけながら麻酔を進めるようにしています。脚の触感のあるなしなど、麻酔のかかり具合を確認し、痛みや、何か異常な違和感があったら遠慮なくいうように話しておきます。

 マーキングした位置に、6~8mmの切開を加え、目標となる椎間板を目がけ、椎間孔を通して一気に直径6~8mmのカニューラと呼ばれる管を差し込みます。このとき、ためらわずにしっかりと奥まで差し込み、固定することを心がけています。これは、PEDを始めた当初、手術後、ヘルニアの圧迫による症状はとれるものの、別の神経症状が出てしまう患者さんがいて、その予防策を検討した結果によるものです。

モニターに広がる手術映像を患者さんも共有

●手術室のセッティングと手術の開始
図3手術室のセッティングと手術の開始

 カニューラを固定したら、そこから内視鏡を挿入します。内視鏡を入れると、その部分の映像が、大きなモニターに映し出されます。内視鏡先端にはカメラ装置に加え、光源から光を送る装置がついているので、明るく鮮明な映像が得られます。

 MEDの経験を積んだ医師であっても、真上から(斜視鏡ですが)入れた内視鏡の映像とは、映し出される方向にかなりの違いがあるので、椎間板と神経根(しんけいこん)など、解剖学的な位置関係をはじめ、PEDでの映像に慣れるまでには時間がかかります。

 PEDの大きな特徴として、常時、生理食塩水を流しながら手術を進めることが挙げられます。ほかの多くの手術の場合、片手に吸引管を持って血液や、洗浄のために入れた生理食塩水を吸いながら手術を進めますが、PEDやMEDでは内視鏡に吸引装置がついているので、別途、吸引管を持つ必要がありません。PEDでは還流させる水圧により、ほぼ出血はなく、手術の状況に応じて流量は調節します。

 ヘルニアの切除は、内視鏡に設けられている筒状の器具操作用の空間から、手術器具を出し入れして行います。用いるのはボール状のドリルや、切除用の鉗子などで、神経をよけながら、ヘルニアを少しずつ慎重に取り除いていきます。

●内視鏡を入れ、モニターに画像を映す(手術)
図4内視鏡を入れ、モニターに画像を映す(手術)

 手術中は、患者さんもモニターを見ることができるようにしています。「綿のようなフワフワしたのがヘルニアです」「心臓と同期して拍動しているのが神経です」と、何をしようとしているかを説明することもあります。特に、神経をよけるときには、慎重に行うと同時に、患者さんには「どこか痛くありませんか」「ピリっとする違和感がありませんか」など、神経症状を確認することができます。神経を損傷してしまっては、取り返しがつかないので、この処置には、最も緊張感をもって臨み、細心の注意を払います。

 手術中の圧迫が長いと、神経がダメージを受けてしまうので、手早く行うことがポイントですが、取り残しがあっては手術の意味がなくなります。モニターをよく見て、ヘルニアの取り残しのないようにします。

 切除が完了したら、器具を抜き取り、一針だけ縫って手術終了です。

 手術時間は30~60分、平均して40分前後です。

 手術後は病室に戻り、しばらくはベッド上で安静にしてもらいますが、数時間後から歩いてもかまいません。夜は通常の食事をとり、翌朝退院となります。

●モニター画面を見ながらヘルニアを切除
図5モニター画面を見ながらヘルニアを切除

術後の検診は2回だけ。今後は腰部脊柱管狭窄症にも

 退院後は、3週間後に1回、3カ月後に1回の、計2回の検診を受けてもらい、治療は終了です。

●入院から退院まで
図6
入院
手術当日
・飲食をせずに入院
・手術室に入る
・局所麻酔
・手術
・病室に戻る
・ベッド上安静
・数時間後には歩行可
・夕食から普通食可
退院
手術翌日
・手術創(そう)の確認
・次回外来予約

 手術後の経過については、ラブ法、MED、PEDそれぞれの手術後の再発率を比較すると、およそラブ法で10%、MEDで5%、PEDで3%といわれています。ヘルニアの除去で取り除くのは髄核(ずいかく)の飛び出した部分だけです。椎間板は再生しないので、傷ついたところから、残った内部の髄核が再び飛び出してヘルニアが再発することがあります。PEDでは、手術による椎間板の傷も小さく、靱帯や椎骨を切除しないことが、再発率の低さにつながっていると考えられています。

●PED、MEDの手術件数の推移
図71997年MED開始、2003年PED開始以来の、出沢先生執刀の手術件数。近年はPEDがMEDの件数を上回っている。●PED、MEDの手術件数の推移
●MEDの基本情報
図8
全身麻酔
手術時間 ―――――― 平均40分
入院期間 ―――――― 1泊2日
費用―手術、入院、検査等を含め8~15万円(健康保険適用の場合。高額療養費制度も適用されるが、年齢、所得等により金額は異なる。公的医療保険制度の適用がない場合は50万円程度)

*費用は2013年1月現在のもの。今後変更の可能性がある。

(帝京大学医学部附属溝口病院の場合)

 また、PEDでは痛みを誘発する炎症性の物質の分泌が非常に少ないために、手術後の痛みが小さいとも指摘されています。

 機器の技術革新とともに、さらなる進化が期待されるPEDですが、私自身は、ここ数年新しい試みとして腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)の除圧術に対し、新しい内視鏡を開発してPEDで行っています。より難しい技術を必要としますが、従来の内視鏡手術より早期の社会復帰が可能となりました。

 今後とも、患者さんの体への負担が軽くて済む手術が、広く行われるようになるために、研修の機会を設けるなど、意欲的な活動を続けていきたいと思っています。

出沢 明 帝京大学医学部附属溝口病院整形外科教授
1980年千葉大学医学部卒業、87年同大大学院修了。国立横浜東病院(現聖隷横浜病院)整形外科医長、千葉市療育センター通園センター所長などを経て、91年帝京大学医学部整形外科講師。96年同大医学部附属溝口病院整形外科助教授、2004年から現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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