薬物療法ってどんな治療法ですか?【腰部脊柱管狭窄症】

[薬物療法] 2014年6月10日 [火]

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薬物療法(1)
保存療法

痛みをやわらげ、日常生活の動作を楽にする

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)の治療で、最初に取り組むのが保存療法。服薬や神経ブロックによる薬物療法がその中心となります。症状に応じて用いる薬剤、神経ブロックの有用性など適切な対処法を、高橋寛先生にうかがいました。

どんな治療法ですか?

症状のある患者さんに、最初に行う治療法です。痛みやしびれなどの症状をやわらげ、日常生活を楽に送れるようにする目的で行い、3~6カ月程度続けて、効果を見極めます。

脊柱管が狭くなっていても症状が出るとは限らない

「適切な治療には患者さんとの信頼関係が大切です」

 腰部脊柱管狭窄症は、神経の通り道である背骨に囲まれたトンネル(脊柱管)が狭くなってしまい、神経を圧迫しておこります。加齢による椎間板(ついかんばん)や骨の変形、椎骨のずれ、脊柱管を通る神経のうしろ側で背骨の椎骨どうしをつないでいる黄色靱帯(おうしょくじんたい)が厚くなるなど、いくつかの原因が合わさって、脊柱管が狭くなっていきます(脊柱管の構造はこちらを参照)。

 ただし、脊柱管が狭くなっていても、必ず症状が出るわけではありません。X線などの画像検査で、このような状態になっていることが確認できる患者さんでも、脚の痛みやしびれなどの症状がまったくない人もいます。このような患者さんには治療を行う必要はありません。

診断がついたら最初に行うのが薬物療法

  しかし、脚の痛みやしびれといった症状があって、諸検査で腰部脊柱管狭窄症であると診断された場合は、最初に、薬物療法を行うのが一般的です。

 薬物療法の目的は、生活の支障となる不快な症状をやわらげて、日常の動作を楽に行える状態にすることです。腰部脊柱管狭窄症の患者さんは、脚の痛みやしびれが原因で歩くことが困難な場合が多いので、日常生活に困らない程度の距離を歩くことができるようになれば、薬物療法は成功したといえるでしょう。

 ただし、薬物によって物理的に背骨のトンネルを広げることはできません。したがって、薬物療法によって、痛みやしびれを引きおこしている原因を解消することはできないのです。薬物療法は有効な治療法ですが、限界もあるということを頭に置いておく必要があります。

 しばらく薬物療法を続けて、症状がおさまっていけば少しずつ薬を減らし、薬がなくても日常生活に困らないようになれば治療を終えることができます。しかし、薬を使っても症状が取れない場合は、いくつか薬の種類を変えて、ようすをみることになります。

 それでも症状が改善しない場合は、神経ブロックという治療を行います。圧迫を受けている神経やその周囲に局所麻酔薬やステロイド薬を注射して、痛みの伝達を止める(ブロックする)方法です。ただし、神経ブロックは人によって効果が異なり、非常によく効く場合もあれば、ほとんど効果がみられない場合もあります。

 残念ながら、これらの薬物療法の効果で痛みなどの症状が軽減しても、痛みがゼロになるとは限りません。治療前に10の強さと感じる痛みが、3あるいは4のレベルになって、日常生活には困らない程度になり、その状態で普通に生活している患者さんもたくさんいます。

排便や排尿の障害などがあればすぐに手術を考慮する

整形外科病棟にて、看護師さんと

 神経ブロックでも効果が得られない場合は、手術を検討する必要があります。一般に薬物療法や神経ブロックに3~6カ月程度取り組んでも症状の改善がみられないときは、手術をお勧めしています。

 しかし、手術となるとなかなか決心がつかない患者さんも少なくありません。腰部脊柱管狭窄症は命にかかわる病気ではないので、手術のタイミングは患者さんの気持ちしだいとなります。

 薬物療法によって日常生活には困らない程度に痛みが抑えられれば、手術を受けないという選択肢も考えられます。

 ただし、腰部脊柱管狭窄症によって、排便・排尿がコントロールできなくなるなどの膀胱(ぼうこう)直腸障害(参照)、若い男性ではED(勃起不全)、神経の麻痺が強くて脚の筋力低下がみられる場合などは、薬物療法は行わず、すぐに手術を検討すべきです。

高橋 寛 東邦大学医療センター大森病院整形外科教授
1964年東京生まれ。88年東邦大学医学部卒業。同大医学部付属大森病院整形外科等を経て、98年から1年間、米国カリフォルニア大学(UCSF)留学。2004年東邦大学医療センター大森病院整形外科講師、09年同准教授、11年同教授、脊椎脊髄病診療センター長、12年任用換えにより東邦大学医学部整形外科教授。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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