拡大開窓術の治療の進め方は?【腰部脊柱管狭窄症】

[拡大開窓術] 2014年6月24日 [火]

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拡大開窓術(2)

全身麻酔のため、事前に検査入院が必要です。圧迫している組織を削る手術時間は約2時間、早い人は、翌日から歩いてトイレに行けます。術後1カ月、コルセットで腰椎を保護します。

検査入院で合併症なども確認。手術時間は約2時間

手術前、スタッフとともに。右端が遠藤先生

 拡大開窓術は全身麻酔で行います。そこで、手術の前に胸部X線、呼吸機能、心電図、血液検査を受けてもらいます。また、手術部位と手術法を決めるために、腰椎X線、MRI(磁気共鳴画像法)、CT(コンピュータ断層撮影)、脊髄造影の各検査が必要です。

 当施設では、腰部脊柱管狭窄症の手術をする場合には、事前に4日間(高齢者や合併症のある人などは5日間)の検査入院をしてもらいます。高齢になると糖尿病や狭心症といった持病のある人が多いのですが、こうした合併症のある患者さんは、内科の医師に確認して手術が可能かどうかを判断してもらっています。

 拡大開窓術による出血は少ないので、一般に患者さん本人の血液(自己血)をあらかじめとっておくことはしませんが、合併症のためリスクが高いと考えられる場合は、念のため事前に自己血をとっておきます。

患者さんや家族にていねいに手術の説明をする

 手術はうつぶせの状態で行います。背中の皮膚を真ん中で5cmほど切開し、背中の両側の筋肉をはがして、目的の椎弓が見えるようにします。骨や靱帯を削るために用いるのは、手術用のノミとハンマー、歯科医の歯を削る道具のようなエアトーム、組織をはさんで削り取るケリソンパンチ、鋭匙鉗子(えいひかんし)などといった、骨の手術のための手術器具です。

 まず、椎間関節の内側の部分を削って窓をあけ、脊柱管狭窄の原因となっている厚くなった黄色靱帯を切除します。硬膜(こうまく)に包まれた馬尾を傷つけないようよく観察しながら、骨が増殖して変形した椎弓や椎間関節の一部など、神経を圧迫している部分を削り取ります。

 神経根に圧迫がないかも確かめ、神経をよけながら圧迫している骨をていねいに削っていきます。このような処置を脊椎の両側で行うことで、馬尾や神経根への圧迫を緩めることができます。

 圧迫がとれているか、硬膜の外側の状態、神経根の動きを確認して、最後に手術部分をよく洗浄します。血液を抜くためのドレーンという細い管を入れ、筋肉や筋膜、皮膚を縫合して、手術は終了です。

 手術時間は約2時間です。

●手術室のセッティングと手術の開始
図4手術室のセッティングと手術の開始
●よく用いられる手術器具
図5よく用いられる手術器具

手術翌日から動くことができ、階段昇降ができれば退院

 手術の痛みは術後48時間程度でおさまります。手術の翌日には、座って食事をすることができます。自力で歩ける人は歩いてトイレに行けますし、歩くのが難しい人には車いすを使います。

 当施設では木曜日か金曜日に手術をして、翌週の月曜日から木曜日にかけてリハビリテーションに取り組んでもらい、しっかり自分で歩けるか、階段の昇降ができるかをチェックして、問題がなければそこで退院となります。

 リハビリテーションは、理学療法士の指導のもと、全身を動かして血液循環をよくするような運動をします。また、姿勢をよくして歩くことや、退院後の有酸素運動の方法についても指導しています。患者さんのなかには、手術後はあまり動いてはいけないと誤解をしている人がかなりいます。実際に体を動かすことで、動いても大丈夫なのだという自信をもってもらうようにしています。

 検査入院4日、手術とリハビリテーション期間で13日、計17日の入院が平均的なパターンです。

 退院後も腰椎の保護のために、手術後1カ月間は、コルセットを用いる必要があります。コルセットは、患者さんの体に合わせたオーダーメードのものです。横になるときや、自宅で食事をするときなどは、コルセットをはずしてもかまいません。一般的にコルセットは伸縮性がある布製で一部に支柱の入った軟らかいタイプのものを使いますが、脊椎固定術を併用した患者さんの場合はプラスチックや金属フレームなど、硬い素材のものを使います。

●骨や靱帯を切除し、神経を除圧(手術)
図6骨や靱帯を切除し、神経を除圧
●開窓術により脊柱管は拡大
図7開窓術により脊柱管は拡大
●入院から退院まで
図8
検査入院
事前に4日間
・胸部X線、呼吸機能、心電図、血液検査、腰椎X線、MRI、CT、脊髄造影など各種検査
入院
手術3日前~前日まで
・手術前検査
・手術内容の説明
・リハビリセンターで術前の状態を評価
・手術前日は21時以降食事禁止、24時以降飲水禁止
手術当日 ・点滴開始(翌朝まで)
・血栓予防の弾性ストッキング着用
・手術室に入る。麻酔開始
・手術
・神経麻痺(まひ)のないことを確認して病室へ
・ベッド上安静。横向き可
・痛みが強ければ痛み止め
・腸が動けば飲水可
術後1日目 ・コルセット着用にて、車いす、歩行器歩行可
・食事可
・抗菌薬点滴
・弾性ストッキングをとる
・トイレで排尿、排便可
術後2日目以降 ・リハビリテーション開始、シャワー可(4~5日目)
・自力歩行
・抜糸(7日目)
退院
術後9日目
・歩行状態に問題がなければ退院
・次回外来予約
・術後1カ月間コルセット着用


馬尾型、神経根型ともに痛みの改善を数値で確認

●拡大開窓術の基本情報
図9
全身麻酔
手術時間 ―――――― 約2時間
入院期間 ―――――― 合計で平均17日間
費用 ――― 検査入院(4日間)約7万円、手術とリハビリ(13日間)約30万円(健康保険自己負担3割の場合。入院費等含む。ただし、高額療養費制度の対象のため、実際の自己負担額はさらに低い)

*費用は2013年1月現在のもの。今後変更の可能性がある。

(東京医科大学病院の場合)
●JOAスコアでみる痛みの改善
図10どちらのタイプも術後の平均値が上がり、痛みが改善していることがわかる。(点数が高いほど痛みは少ない)JOAスコアでみる痛みの改善

 拡大開窓術をすると、日常生活に困るような脚の痛みはなくなり、休み休みでないと歩けない間欠跛行(かんけつはこう)もみられなくなります。ただし、人によっては軽い痛みが残ったり、しびれが残ったりすることもあります。症状が出てから手術に踏み切るまでの時間が長かった患者さんでは、痛みやしびれが残りやすい傾向にあります。

 腰部脊柱管狭窄症には、脊柱管を通る末梢(まっしょう)神経の束である馬尾が圧迫される馬尾型と、馬尾から分かれて脚のほうへ向かう神経の根元が圧迫される神経根型があります(こちらを参照)。

 拡大開窓術によって、痛みの症状が術後にどう変化したのかを調べたのが図10のグラフです。日本整形外科学会が腰椎治療の効果の判定基準として定めたJOAスコア(29点満点で、点数が高いほど痛みが少ない)で判定しました。この結果、平均で、馬尾型では術前15.1点だったものが、術後は20.9点に、神経根型では術前15.0点だったものが、術後は22.8点になり、いずれも改善が確認されています。

 拡大開窓術はすでに20年以上の実績を積み重ねてきた、安全かつ確実に治療できる手術法です。ただし、全国的な統計では、神経障害(1.7%)、髄液のもれ(1.4%)、感染(0.9%)、血栓(0.1%)といった手術に伴う合併症がみられています。今は無理な手術はせず、安全かつ確実に治療できる場合のみ手術をする傾向にあるため、実際には手術に伴う合併症は、もっと少ないと考えられます。

遠藤 健司 東京医科大学病院整形外科講師
1962年東京都生まれ。88年東京医科大学卒業。92年米国ロックフェラー大学に留学、神経生理学を専攻。95年東京医科大学霞ヶ浦病院整形外科医長、2004年東京医科大学整形外科医局長、07年から同講師。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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