ミニオープン腰椎固定術ってどんな治療法ですか?【腰部脊柱管狭窄症】

[ミニオープン腰椎固定術] 2014年8月05日 [火]

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ミニオープン腰椎固定術(1)
ミニオープン腰椎固定術

筋肉を圧迫せず、直視下で除圧と固定を行う

 腰椎(ようつい)にずれやぐらつきを伴う腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)では、除圧術に加えて、背骨を安定させる固定術が必要になります。筋肉を圧迫しない独自の手術法を編み出した種市洋先生に、その手術法の特徴を語っていただきました。

どんな治療法ですか?

術後の腰椎の不快な症状を防ぐため、手術中の筋肉への圧迫を最小限に抑えた体への負担が小さい固定術です。X線の被曝(ひばく)が少ないのも利点となります。

脊髄造影検査で、手術前に背骨のぐらつきをチェック

痛みを誘発させるテスト。腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)は左のケンプテスト(斜め後方にひねるようにして腰を回す)で痛みが出るのが典型的症状

 腰部脊柱管狭窄症の患者さんのなかには、腰椎変性すべり症などを合併して、背骨の状態が不安定になっている人がいます。腰椎変性すべり症は、椎間板(ついかんばん)が老化してつぶれた状態になることにより、縦に連なって背骨を構成している椎骨(ついこつ)が前後にずれてしまうものです。

 腰部脊柱管狭窄症の患者さんで、特に腰椎(背骨の腰の部分)が前後にグラグラした状態の場合は、しっかりと固定する必要があります。固定術をしないと、せっかく脊柱管を広げ、神経の圧迫をとる除圧術をしても、腰を曲げたり、反らしたりしたときに椎骨どうしのずれから、また脊柱管が狭くなり、痛みやしびれが残ってしまうことになります。

 脊柱管狭窄症の手術を受けたのに、しびれがとれなかったと嘆く人のなかには、手術のタイミングが遅れて神経が回復不能のダメージを受けてしまっている場合もありますが、本当は固定術が必要だったのに固定術をしていない場合があるのではないかと私は考えています。

 そこで、私は腰部脊柱管狭窄症の患者さんの手術をする場合、背骨にぐらつきがないか調べるために、原則として手術前に脊髄(せきずい)造影検査を行います。脊髄造影検査は、背中から脊髄(腰椎部分では馬尾)を包む硬膜(こうまく)の中に細い針を刺して造影剤を注入しX線撮影を行う検査ですが、このとき、普通に立った姿勢のほかに、前屈したり、後屈したりした姿勢についても撮影しています。

 少し体に負担のかかる検査なので、本当はMRI(磁気共鳴画像法)で済ませたいところなのですが、MRIは患者さんが横になった姿勢で撮影するしくみのため、立った姿勢での確認が必要な腰椎変性すべり症や背骨のぐらつきについて、正確な診断ができないのです。

 脊髄造影検査をすると、背骨のずれやぐらつきの診断がつきます(図1)。これで固定術を必要とするかどうかがわかります。

 ただし、造影剤にアレルギーのある人など、一部の人にはこの検査はできません。その場合は、通常のX線、MRI、CT(コンピュータ断層撮影)などの画像検査と、問診、触診の結果などから判断することになります。

 なお、立った姿勢で撮影ができるMRIは、海外では登場していますが、日本にはまだありません。これが普及すれば、脊髄造影検査の必要はなくなりますが、そうした機器の普及には、まだ時間がかかると思われます。

●腰椎(ようつい)変性すべり症の腰椎と腰椎の固定
図1腰椎(ようつい)変性すべり症の腰椎と腰椎の固定

筋肉を圧迫しない手術法で術後の「腰のハリ」を防止する

 私が開発した手術法「ミニオープン腰椎固定術」(ミニオープン片側進入腰椎後方椎体間固定術)は、背骨が不安定な腰部脊柱管狭窄症の患者さんに、神経の圧迫をとる「除圧術」と、背骨のぐらつきを止める「固定術」を同時に行うものです。

 私がこの手術を始めたのは、10年ほど前のことです。腰椎の固定術をした患者さんのなかに、術後、腰部のハリや不快な違和感を訴える人がいて、この症状をなんとか防止できないものかと考えたことがきっかけでした。いろいろな研究を通して、術後の腰部のハリや不快な違和感は、手術で長時間筋肉を圧迫することにより、筋肉に血液が流れなくなって、壊死(えし)してしまうためだということがわかりました。そこで、筋肉への圧迫を最小限にして手術をする方法を考案しました。

 特に重要なのは、傍脊柱筋(ぼうせきちゅうきん)(一般に背筋と呼ばれる背骨わきの筋肉)を広くはがしたり、圧迫したりしないことです。この傍脊柱筋は、いくつかの筋肉が集まってできている筋群です。そこで、この筋肉を骨から大きくはがさずに、筋肉どうし(傍脊柱筋の多裂筋と最長筋:こちら参照)の隙間(すきま)を利用して手術器具を入れることを考えました。こうすると、筋肉をほとんど圧迫することなく手術をすることができます。

1カ所の切開口から除圧と固定の処置を行う

●ミニオープン腰椎固定術に用いる器具
図2ミニオープン腰椎固定術に用いる器具

 脊椎の固定術は本来、大がかりな手術です。それを、筋肉を傷つけないようにして、なるべく体への負担を小さくしながら、確実な治療効果を得る形で進めようというのがミニオープン腰椎固定術の基本的な考え方です。この手術法をミニオープンと呼んでいるのは、固定術としては背中の皮膚をそれほど大きくは切開しないということからです。1椎間の手術の場合は、7cm程度の切開で行っています。従来法の固定術では15~20cmくらい切っていたので、「ミニ」ということになります。除圧については、神経を圧迫している部分の骨を削り、黄色靱帯(おうしょくじんたい)を切除するという点では、ほかの除圧術と同様ですが、椎間関節の片側を削って脊柱管内に手術器具を入れ、そこから両側の除圧を行います。

 固定に関しては、二つのポイントがあります。一つはつぶれた椎間板を取り出し、そこに骨を移植して、上下の椎骨をくっつけることです。私は手術中に、骨盤の一部である腸骨(ちょうこつ)を少し取って移植しています。移植には除圧のために削った椎弓の骨がよく用いられますが、十分な量の移植骨が確保できないので、腸骨もあわせて用いています。この骨は、カーボンファイバーで強化したプラスチック製のケージ(箱型の固定材・図2写真参照)とともに、椎間板を取り出したあとの空間に移植します。

 もう一つのポイントは、スクリュー(ネジ・図2写真参照)を使った固定です。移植した骨がくっつくまでの期間、背骨がぐらつかないようにするため、スクリューで補強しておくと、手術後、短期間で体を動かすことができるようになります。このスクリューを前述のように筋肉を傷めることなく、筋肉の隙間から入れるのが、この手術の特徴となっています。移植した骨がしっかりくっついたところで、スクリューは不要になるのですが、取り除くには新たに手術が必要になります。複数回の手術は背筋にダメージを与えることになるため、特に問題がなければそのまま残しておきます。

 最近、皮膚を大きく切開せずに、1本ずつ皮膚を通して必要な箇所に入れるスクリューが開発され、用いられはじめています。このスクリューは皮膚ごしに適切な位置に入れなければならないので、X線透視下で位置を確認しながら処置をする必要があります。

 ミニオープン腰椎固定術では、X線透視は手術前と手術後の確認のみに用いることとし、従来のスクリューを使用しているので、通常、手術中はX線透視装置を用いません。皮膚を1カ所だけ切開し、除圧から固定までのすべての処置を、直接目で見ながら安全に進めることができるのがミニオープン腰椎固定術のメリットといえます。X線による被曝も最小限に抑えられます。直視のため手術が進めやすく、その結果、手術時間も短くて済みます。

 手術範囲は2椎間までがミニオープン腰椎固定術の対象で、3椎間以上の場合は、従来法のオープン手術による固定術を実施しています。

 なお、私は5年間で脊椎関係の手術を約660件実施していますが、このうちミニオープン腰椎固定術が約200件です。

種市 洋 獨協医科大学 整形外科教授
1960年北海道生まれ。86年千葉大学医学部卒業。94年北海道大学医学部附属病院(現北海道大学病院)整形外科助手。95年から約半年文部省(当時)在外研究員としてドイツ・ハイデルベルク大学整形外科留学。98年北海道大学医学部附属病院整形外科講師、99年労働者健康福祉機構美唄労災病院整形外科部長、2006年獨協医科大学整形外科准教授、12年から現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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