ミニオープン腰椎固定術の治療の進め方は?【腰部脊柱管狭窄症】

[ミニオープン腰椎固定術] 2014年8月05日 [火]

facebook
twitter
google
B
ミニオープン腰椎固定術(2)

スクリューは筋肉と筋肉の間から入れます。骨や黄色靱帯を切除して除圧。椎間板を取り除いて骨移植を行い、不安定な椎骨どうしを固定します。

背中の皮膚を7cmほど切開し、目で見ながらスクリューを設置

●手術室のセッティングと手術の開始
図3手術室のセッティングと手術の開始

 腰部脊柱管狭窄症で固定術が必要になる患者さんは、第4腰椎と第5腰椎の間にある椎間板がつぶれてしまい、腰椎がグラグラしていることが多いので、このような状態を例にとって、手術法について簡単に説明していきます。

 手術は全身麻酔で行います。患者さんは手術台の上で、うつぶせの姿勢になります。まず、第3腰椎から第5腰椎の棘突起(きょくとっき)の上の皮膚を7cmほど切開します。5~6cm程度でも手術は可能ですが、より安全に手術をするために、最近は7cmほど切っています。

 次に筋膜を切り開くなどして、腰椎のわきの最長筋と多裂筋(図4参照)が見えるようにします。指を差し入れてこの二つの筋肉を分け、スクリューを入れる椎弓の横突起(おうとっき)を確認します。器具を入れて筋肉間を広げ、目で見ながら第4腰椎、第5腰椎の横突起の根元から椎弓根(ついきゅうこん)に1本ずつスクリューを設置します。反対側の椎弓根にも同様にスクリューを入れておきます。

 筋肉を大きくはがしたり、引っ張ってよけたりせずに、筋肉と筋肉の間からスクリューを入れるところが、私の開発した手術の大きな特徴の一つです。スクリューを入れるときには器具で筋肉を広げますが、左右別個に行うのでそれぞれの筋肉を圧迫している時間は5分間程度にしかなりません。

 スクリューを入れたら、腸骨(骨盤の骨)から移植用の骨を採取します。採取するのは少量なので、特に問題はありません。採取した骨は菌などがつかないように、すぐに特別な容器に入れて保管しておきます。

X線透視装置の使用は手術開始前に。画像は手術室のモニターに表示
検査画像の確認をして、手術室に入る


中央から入って両側を除圧。移植骨を入れて固定する

 この段階で、第4、第5腰椎間で神経(馬尾と神経根)を圧迫している椎間関節や黄色靱帯(おうしょくじんたい)などを切除する除圧にかかります。進入側の第4~5腰椎棘突起から筋肉をはがしてわきによけ(図4参照)、黄色靱帯と第5腰椎の椎間関節を削って、神経の圧迫を解除します。第4、第5腰椎間は上下の椎骨を除圧後に固定させてしまうため、この部分の椎間関節を取り除いても、あとに影響はありません。

●背中の筋肉を分けてスクリューを入れる
図4●背中の筋肉を分けてスクリューを入れる

 除圧の次に、手技を進める位置を筋肉と筋肉の間に戻し、椎間関節を取り除いたところから手術器具を入れて、つぶれた椎間板を取り除きます。この間に、先に採取して保存しておいた腸骨の骨を細かく砕き、2個のケージに詰めておきます。

 準備ができたら、椎間板を除いたあとの空間の奥に砕いた骨を移植し、そこに移植骨を詰めたケージと、さらに十分な量の腸骨を移植します。この処置によって、数カ月後には上下の椎骨どうしがくっつき、腰椎が安定することになります。

 骨の移植が終わったら、ロッドと呼ばれる金属の棒で、最初に入れておいた上下2本のスクリューを、左右それぞれで連結して固定します。

 最後に体液や血液を排出するためにドレーンと呼ばれるチューブを設置し、切開した筋膜などをもとのように縫合し、皮膚の傷口を縫って手術を終了します。

 手術時間は2時間程度です。

●神経の除圧と椎骨の固定(手術)
図5神経の除圧と椎骨の固定(手術)

術後10日~2週間で退院可能。約6カ月で骨がくっつく

●入院から退院まで
図6
入院
手術2日前か前日
・手術前検査
・手術内容の説明
手術当日 ・手術室に入る。麻酔開始
・手術
・ベッド上安静
・排尿は管で、排便はベッド上で
術後1~2日目 ・腸が動けば食事開始
・トイレ歩行可(1日目)
・ドレーンを抜く
術後3日目 ・病院内フリー歩行可
・足底部(そくていぶ)のポンプ使用終了
術後4日目~ ・傷の状態に応じ入浴可
退院
術後10~14日目 
・手術の傷、日常の動作に問題がないなどを目安に退院
・次回外来予約
・術後5~6カ月間コルセット着用


●ミニオープン腰椎固定術の基本情報
図7
全身麻酔
手術時間 ―――――― 約2時間
入院期間 ―――――― 12~17日間
費用――総額300万~400万円程度(健康保険適用、高額療養費制度の対象のため、実際の自己負担額は10万円程度、年齢や所得によってはさらに安くなる)

*費用は2013年1月現在のもの。今後変更の可能性がある。

(獨協医科大学病院の場合)

 術後は翌日から歩いてトイレに行くことができます。ただし、術後3日目までは、トイレに行く以外は安静に過ごしてもらいます。

 また、術後3日目までは、足底部(そくていぶ)をポンプで加圧する器械を取りつけておきます。これは、足の静脈に血栓ができるのを予防するためのものです。術後3日目からは、病棟内を自由に歩き回ることができるので、この時点で加圧の器械は必要なくなります。

 術後10日~2週間で、手術部の皮膚がしっかりついたことを確認すれば退院できます。

 術後3~4カ月までは硬めのコルセット、その後、術後5~6カ月までは軟らかいコルセットをつけてもらっています。6カ月ほどたつと、移植した骨が上下の椎骨としっかりくっつきます。骨がしっかりつけば、肉体労働やスポーツをしても大丈夫です。

 退院後、1カ月の時点で一度、外来で経過をみます。その後は、術後3カ月、術後4カ月半、術後6カ月のタイミングで受診してもらいます。その時点で問題がなければ、以後は3カ月おき、術後1年を経過したら1年に1回のペースで診察をしています。体内にスクリューを入れたままなので、特に変わりがなくても、1年に1回は受診してもらっています。

術後6カ月で体の機能は回復。2年で体を使う仕事も問題なし

 手術後の経過については、SF-36という尺度を用いて調べたことあります。

 SF-36は健康状態を測る尺度として、世界で最も普及している方法で、健康や日常の活動にかかわるアンケートに答えてもらい、その結果を点数化したものです。(1)身体機能、(2)日常役割機能(身体)、(3)体の痛み、(4)全体的健康感、(5)活力、(6)社会生活機能、(7)日常役割機能(精神)、(8)心の健康、以上8項目をそれぞれ100点満点で評価しています。点数が高いほど、健康状態は良好であると考えます。

 図8のグラフはミニオープン腰椎固定術をした患者さんを対象にした結果です。また表1には、それぞれの項目の説明がなされています。

 グラフの身体機能のところを見てみましょう。術後6カ月の時点で、一般の人とほぼ変わらない状態になっていることがわかります。

●術後6カ月で日常生活に問題なし
図8健康状態を測る世界的な尺度SF-36で調べた、ミニオープン腰椎固定術の術前、術後6カ月、1年、2年、日本人の標準値を比較したもの。点数が高いほど、状態がよい。術後6カ月で日常生活に問題なし

●SF-36の各項目の内容
表1
項目 点数が低い 点数が高い
身体機能 入浴または着替えなどの活動を自力で行うことがとても難しい 激しい活動を含むあらゆるタイプの活動を行うことが可能である
日常役割機能
(身体)
過去1カ月間に仕事や普段の活動をしたときに、身体的な理由で問題があった 過去1カ月間に仕事や普段の活動をしたときに、身体的な理由で問題がなかった
体の痛み 過去1カ月間に非常に激しい体の痛みのためにいつもの仕事が非常に妨げられた 過去1カ月間に体の痛みは全然なく、体の痛みのためにいつもの仕事が妨げられることは全然なかった
全体的健康感 健康状態がよくなく、徐々に悪くなっていく 健康状態は非常によい
活力 過去1カ月間、いつでも疲れを感じ、疲れ果てていた 過去1カ月間、いつでも活力にあふれていた
社会生活機能 過去1カ月間に家族、友人、近所の人、その他の仲間との普段のつきあいが、身体的あるいは心理的な理由で非常に妨げられた 過去1カ月間に家族、友人、近所の人、その他の仲間との普段のつきあいが、身体的あるいは心理的な理由で妨げられることは全然なかった
日常役割機能
(精神)
過去1カ月間、仕事や普段の活動をしたときに、心理的な理由で問題があった 過去1カ月間、仕事や普段の活動をしたときに、心理的な理由で問題がなかった
心の健康 過去1カ月間、いつも神経質でゆううつな気分であった 過去1カ月間、落ち着いていて、楽しく、穏やかな気分であった
出典:福原俊一、鈴鴨よしみ:SF-36v2日本語版マニュアル.NPO健康医療評価研究機構.2004.

 日常役割機能(身体)は、仕事や日常的な活動をしたときに、身体的な問題が生じたかどうかを質問したものです。これを見ると、術後順調に回復していき、術後2年たつと一般の人とほぼ同じレベルになることがわかります。

 同様の傾向は、日常役割機能(精神)のところでもみられます。これは仕事や日常的な活動をしたときに、心理的な問題が生じたかどうかを質問したものです。

 術後の経過を診察した経験からいっても、術後6カ月で日常生活に困るようなことはほぼなくなります。ただ、農作業などの体を使った重労働を、健康だったときと同じようにこなせるようになるには、2年くらいかかります。

 私の勤務する獨協医科大学は農村部に立地しているため、患者さんには農家の女性が多く、このような説明をして、よく理解してもらっています。

種市 洋 獨協医科大学 整形外科教授
1960年北海道生まれ。86年千葉大学医学部卒業。94年北海道大学医学部附属病院(現北海道大学病院)整形外科助手。95年から約半年文部省(当時)在外研究員としてドイツ・ハイデルベルク大学整形外科留学。98年北海道大学医学部附属病院整形外科講師、99年労働者健康福祉機構美唄労災病院整形外科部長、2006年獨協医科大学整形外科准教授、12年から現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。

「痛み」の注目記事