[選択肢が拡大する脳卒中予防の現在] 2013/10/29[火]

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年間3万3000人もの患者さんが経口抗凝固薬の服薬を中止している

 脳梗塞発症リスクの高い心房細動の患者さんは全国で約130万人と推定されています。しかし「健康日本21推進フォーラム」が行ったレセプトデータの分析によると、1年間の観察期間における服用中止率が4.3%、患者数にして3万3000人近くもの患者さんが、心房細動を原因とする脳梗塞発症予防のための経口抗凝固薬の服薬を中止しています。期間は「1年未満」が最も多く55.9%と過半数を占めました。その一方、一般的には薬の服用を中止する際には1年未満が多いとされる中、長期服用者の中止も少なくないことがわかりました。服用中止の理由として最も多かったのが「副作用・出血の可能性があるから」「毎日継続して服用するのが嫌」「規則的に服用することが難しい」「1日の服用頻度が多い」など薬自体の理由が問題となって服薬を中止しているケース。「通院するのが面倒」「診察・血液検査の頻度が多く面倒」など通院の要因が25%程度であったのに対し、薬剤を要因にした服薬中止は54.9%と、倍以上にも上りました。
 この結果について、弘前大学の奥村謙先生は、「他の薬と違い、効果を実感できないことが大きな要因になっていると思います。痛みなどの症状があれば服用を継続されることが多いですが、経口抗凝固薬は脳梗塞予防のための薬。何十年も飲み続けていても、身体の実感としては何も変化がないわけですから、安易な気持ちで服用を中止してしまうのだと思います」と分析。薬への不満が服薬中止に大きく影響していることが明らかになりました

母集団87万1975人のレセプトデータを分析した拡大推計値。2011年1月~9月にワルファリンを処方されていた心房細動または心房粗動患者のうち、服用を中止した者を抽出。他の経口抗凝固薬へのスイッチ後の服用中止を含む。2ヵ月間処方がなくても3ヵ月後に再び処方された者は服用中止に含めず、厳密な意味で治療を中止したと推定される者の数を算出。

【健康日本21フォーラム「心房細動患者のコンプライアンス実態調査」より】

自己判断による経口抗凝固薬の服用中止は大きなリスク

奥村謙先生 自己判断による経口抗凝固薬の服薬中止は脳梗塞のリスクを高めてしまい、危険があると奥村先生は警鐘を鳴らします。
 「保険適用の範囲内で予防医療が行えるのはこの経口抗凝固薬だけです。脳卒中による死亡は年間約13万人です。心房細動を原因とする脳梗塞で病院へ搬送された患者さんのうち、約30%が寝たきりになってしまいますが、この方たちの多くが1年以内に亡くなっているというデータもあります。このことからも、心房細動による脳梗塞は死につながる非常に危険な病気であるといえます。脳梗塞を発症する前に予防をしておく必要があるため、予防医療として経口抗凝固薬が保険適用となっているのです」
 しかし、この調査によれば、服薬中止者の8割強もの人が「起こるかもしれないが、そんなに高い確率ではないと思っていた」「起こるとしても遠い将来のことだと思った」「特に何も考えずに服用を中止した」など、発症の危険性を軽視していることがわかりました。
 「服用を継続していたとしても、薬物相互作用や出血リスクの問題もあるので、新しい治療を始める際には、必ず経口抗凝固薬を服用していることは医師や薬剤師などに伝えていただく必要があります。ですから服薬を中止する場合、服薬を継続している場合でも自己判断は非常に危険なのです」

1日あたりの飲むお薬の数を減らす、という考え方

 高齢者は複数の疾患で医療機関を受診し、服用する薬剤が多くなる一方、飲み込む力が弱くなるために服薬自体を苦痛と感じてしまう場合も少なくありません。だからこそ、上記のような自己判断による服薬中止ということにもなりかねないのです。また、複数の薬剤を服用するために相互作用などのリスクも高まります。それを解消するためのひとつの手段として、抗凝固薬以外も含め、処方されている全てのお薬の「棚卸し」を考えてみてもよいでしょう。
 「ご自身で現在、何の薬をどのくらい飲んでいるのか、そして相互作用はどうなっているのか、一度整理されることをおすすめします。まずはずっと飲み続けるお薬をベースとして考えてみるのがいいのではないでしょうか。そのお薬について『飲みやすい大きさ、形かどうか』『相互作用や、食事制限など我慢することがないかどうか』『飲む回数・量が多くないかどうか』などを考慮し、そのベースのお薬との相性などを考えて、他の薬を『そのまま』もしくは『変更』というように整理していけば、全体の薬の量や飲みやすさなどを変えていくことができます」(奥村先生)
 いつまでも健康に暮らしていくために、現在服用しているお薬を自己判断で中止するのは危険、と言うのは先ほども解説した通りです。中止するのではなく、どうやって苦痛なく確実に飲み続けていくか、そのためにもまずは現在のお薬の棚卸しは大切なのです。

抗凝固薬は「飲み続ける」ことが大事。そのためには「飲みやすさ」を重視することも選択のひとつ

 「多くの患者さんはワルファリンを服用されているかと思いますが、他の生活習慣病のお薬と比較して、まだまだ経口抗凝固薬の選択肢は少なかったのです。2011年以降相次いで、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンという新しい経口抗凝固薬が登場しました。例えば1日の服用回数が少なく、お薬の形自体も他と比べて小さい薬剤であれば、患者さんの負担も軽減できるかと思います。複数のお薬を飲んでいる方にとっては『ベース薬』として考えれば、負担も減るのではないでしょうか」(奥村先生)
 服薬管理の問題は、患者さん本人でなく、家族にとっても重要な問題です。
 「当たり前のことですが、お薬は体内に入れなければその効果を発揮しません。複数の疾患で多くの薬剤が処方され、また飲みこむ力が弱っている高齢の患者さんにとっては『1回に飲む薬の全体量』や形や大きさなどの『飲みやすさ』も大切な要素のひとつです。現在服薬自体に負担を感じている方は『現在飲んでいる薬の量を減らしたい』とかかりつけ医などに相談してみてはいかがでしょうか」

奥村謙(おくむら・けん)先生 弘前大学大学院医学研究科循環呼吸腎臓内科学教授

奥村謙先生

1976年 熊本大学医学部卒業
1979年~83年 熊本大学大学院医学研究科(医学博士)
1983年~85年 米国アラバマ大学医学部内科循環器部門
1987年 熊本大学医学部循環器内科講師
1993年 同助教授
1996年 弘前大学医学部内科学第二講座(現循環呼吸腎臓内科学)教授
現在に至る
所属学会・認定・資格
日本不整脈学会会頭、日本内科学会評議員(認定内科医・指導医)、日本循環器学会評議員(専門医)、日本心電学会理事、日本脳卒中学会専門医、日本脳卒中協会青森県支部長
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