[CTEPH(シーテフ)ってどんな病気?] 2014/12/01[月]

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原因不明の息切れ・・・その陰に潜むCTEPH(シーテフ)ってどんな病気?

 階段を上ったり、重いものを持ったり、ちょっとした日常の動作で息切れや息苦しさを感じる・・・。年齢を重ねるごとに、身体は少しずつ衰えをみせてゆくものですが、息切れは全て加齢によるものとは限りません。肥満、運動不足、疲労の蓄積などに加え、命にかかわる重大な病気が隠れている可能性があるのです。

 息切れを伴う病気で近年、注目を集めているのが「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH:シーテフ)」です。そこで、循環器を専門とする日本最先端の医療機関「独立行政法人 国立循環器病研究センター病院」の心臓血管内科部門 肺循環科 医長・大郷剛先生に、CTEPH(シーテフ)についてお話をうかがいました。

大郷剛(おおごう・たけし)先生 国立循環器病研究センター病院

大郷剛先生

1996年 香川医科大学卒業
1996年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科医局入局
2002年 国立循環器病センター 心臓血管内科 レジデント
2007年 医学博士
2007年 Department of Medical and Molecular Genetics, King’s College London, UK
    (ロンドン大学キングスカレッジ臨床分子遺伝学教室)臨床研究員
2010年 国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門 肺循環科 医師
2012年 国立循環器病研究センター病院 心臓血管内科部門 肺循環科 医長
2014年 岡山大学客員准教授 (兼務)

息切れの原因は呼吸器以外にも

息切れの原因は呼吸器以外にも

 「息切れや息苦しさを引き起こす原因は、肺や気道といった呼吸器の疾患だけではありません。心臓・血管からなる循環器の疾患、脳血管の障害などでも息切れは起こります」(大郷先生)

 また、病気の種類もさまざま。呼吸器で言えばCOPD(慢性閉塞性肺疾患)やぜんそく、循環器では心不全や肺高血圧症、脳血管障害では、くも膜下出血や脳梗塞などがあります。「更年期障害や貧血などといった部位が特定できないような病気も考えられるので、治療のためには原因疾患を正しく診断することが非常に重要となります」と大郷先生は語ります。

 このように、原因の特定が難しい「息切れ」。なかでも国によって難治性呼吸器疾患(難病)に指定されている慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH:シーテフ)は、診断が難しく、治療の開始が遅くなってしまうことも多いため、時には死に至る可能性があるといいます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH:シーテフ)ってどんな病気?

 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH:シーテフ)を含む肺高血圧症について「肺高血圧症と生活習慣病の高血圧症は全く異なるものです」と大郷先生。「高血圧症は、全身の血管が硬くなったり細くなったりすることで血圧が上がりますが、肺高血圧症では、心臓の右側から肺へ血液を送る肺動脈という血管の圧が何らかの原因により高くなります」(大郷先生)

国立循環器病研究センター病院心臓血管内科部門 肺循環科医長・大郷剛先生
国立循環器病研究センター病院
心臓血管内科部門 肺循環科
医長・大郷剛先生

 肺高血圧症の中でも、CTEPH(シーテフ)は「慢性」の名の通り、血栓が慢性化して肺の血管を塞ぎ、肺高血圧症が起こる病気です。「急性の肺血栓症は、『エコノミークラス症候群』の中のひとつとして知られていますが、多くの場合、この血栓は自然に無くなったり、治療により解消することができます。しかし、一部の患者さん(およそ4%)では、肺動脈に残った血栓が慢性化し、肺高血圧が引き起こされます」(大郷先生)。一方でCTEPH(シーテフ)患者さんの半数は、過去に急性の肺血栓症を経験しておらず、CTEPH(シーテフ)を引き起こす原因については、詳しくわかっていないのが現状です。

 まだまだ、その全容が解明されていないCTEPH(シーテフ)。では、CTEPH(シーテフ)はどうして怖い病気なのでしょうか。その理由は、「右心不全」を引き起こすことにあります。心臓の右心室は、全身を循環し、酸素が少なくなった血液を肺に送り込む役割を担っています。「CTEPH(シーテフ)になると心臓から肺へ血液を送りにくくなります。これにより、全身へと送られる酸素の量が減り、息切れや息苦しさを感じるようになるのです。それでも、体は酸素を求め続けることから、より強い力で血液を送ろうとするため、右心室の壁が厚くなり、大きくなることで機能不全(心不全)を起こすのです」(大郷先生)

新たなお薬も登場するなど治療選択肢が広がっている

 生死にかかわる病気である慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH:シーテフ)ですが、肺の血管に詰まった血栓を手術で取り除くことで治癒が可能な病気です。「慢性化した血栓は、ガムのように血管の壁にこびりついています。これを血管の内膜と一緒にはがし取るのがこの手術の特徴です」と大郷先生。しかし、ほかに重い病気を併発していたり、年齢等の理由で手術が行えず、また、手術の後に肺高血圧の再発がみられることもあります。

 このような患者さんの治療法として登場したのがバルーン肺動脈拡張術(BPA)や経皮経管的肺動脈拡張術(PTPA)と呼ばれるカテーテル治療です。「カテーテル治療では、先端に風船のように膨らむバルーンがついた特殊なカテーテルをくびや腕、脚などの太い血管から挿入します。そして血栓のある場所をバルーンで広げて、血液の流れを改善します」(大郷先生)。しかし、この治療法は熟練した技術を持つ医師が行うことが望ましいとされ、どこの医療機関でも治療を行えるわけではありません。

 こうした状況を受け、近年期待されているのが薬物療法です。これまでも脳卒中や心筋梗塞の予防・再発防止に使われている抗凝固薬がCTEPH(シーテフ)の悪化抑制や再発防止に用いられていました。また、右心不全に対する治療薬も使用されてきましたが、CTEPH(シーテフ)自体に効果的な治療薬はありませんでした。しかし、今年から肺の血管を拡張することで肺血管の血圧を低下させるお薬(肺血管拡張薬)がCTEPH(シーテフ)患者さんに使用できるようになりました。

CTEPHの主な治療方法

 「検査方法の進歩により、近年ではより多くのCTEPH(シーテフ)患者さんが診断されるようになってきました。手術の他にカテーテル治療や新しいお薬が登場したおかげで、以前に比べて治療のハードルが低くなったといえます。息切れなどを感じ、何かおかしいと思ったら循環器科など専門のお医者さんに相談するのがよいでしょう。また、すでに病院にかかっているのに、症状が改善しない場合は、再診やセカンドオピニオンの活用も考えてみてはいかがでしょうか」(大郷先生)

プロサッカー選手 細貝 萌 選手といっしょに走ろう!
CTEPH啓発イベント「6 Minutes Run for CTEPH」が大阪・札幌で開催

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH:シーテフ)を多くの方に知ってもらい、患者さんたちの支援につなげていくことを目的とした啓発プログラム「6 Minutes Run for CTEPH」が12月、大阪・札幌の両都市で行われます。このイベントには、プロサッカー選手の細貝萌選手が「CTEPH啓発大使」として昨年に続き参加します。

「6 Minutes Run (6分間走)」は、CTEPH(シーテフ)の検査法のひとつである「6分間歩行試験」にちなんだもの。細貝選手と参加者全員が6分間に走った合計距離、1kmにつき1,000円で換算した金額を、CTEPH(シーテフ)など肺高血圧症患者さんのQOL(生活の質)をサポートする支援プログラムや活動団体などに助成します。昨年のイベントでは、東京、福岡の両会場を合わせて、70万円以上の助成金が集まりました。

「6 Minutes Run for CTEPH」では、細貝選手と一緒に走れるだけでなく、細貝選手が普段行っているウォーミングアップを一緒に行ったり、参加者全員で集合写真を撮ったりするなど、細貝選手との楽しい交流も企画されています。アギーレジャパンで活躍する細貝選手と共に、楽しみながらチャリティー活動ができるこのイベント、是非ご参加ください。

6 Minutes Run for CTEPH 開催概要

 日時・場所
  大阪会場:2014年12月25日(木)18~20時 ヤンマースタジアム長居
  札幌会場:2014年12月27日(土)15~17時 札幌市スポーツ交流施設 コミュニティドーム(愛称:つどーむ)
 定員:各会場200名(応募多数の場合は抽選となります)
 参加費:無料(会場までの交通費は自己負担です)
 参加申し込みURL: www.run-for-cteph.jp

細貝 萌 選手 プロフィール

細貝 萌 選手

1986年6月10日生まれ(28歳)群馬県出身
経歴:前橋育英高-浦和レッズ-バイエル04レバークーゼン-FCアウクスブルク(レンタル)-バイエル04レバークーゼン-ヘルタ・ベルリン
日本代表歴:2010年9月4日パラグアイ戦でフル代表デビュー。
30試合出場/1得点(2014年10月1日現在)

参考サイト

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