認知症の人の気持ちを教えてほしい
[よくわかる「認知症」] 2010/07/30[金]
認知症の人の気持ちを教えてほしい
認知症の人はどんな気持ちなのですか?
認知症は病気が進んでくると、最近の記憶が失われます。財布や眼鏡などをどこに置いたのかわからなくなってしまい、1日中家の中を探し回ることも珍しくありません。直前の記憶がはっきりしないため、時間や周囲の状況もどこか曖昧な感じがして不安になります。このため家族に同じことを何度も確かめて安心しようとします。
日常的な挨拶や会話はできるのですが、鍋を焦がす、同じ物を何度も買ってしまう、人と約束したこと自体を忘れてしまう、といった行動面の失敗が目立ちます。周囲の人はなかなか認知症とは気づかないため、注意を受けることも少なくありません。その結果、仕事や生活について自信を失い、不安な気持ちになります。
当たり前のようにできていたことができなくなるため、認知症の人は自分はどうなってしまうのだろうかというおびえも感じています。家族や周囲の人は認知症の人がこうした不安やおびえの中にいることをよく理解することが大切です。
認知症の人の不安はどんなものですか?
散歩にでたら、そのまま家への帰り道がわからなくなってしまったり、自分から電話をかけたのに相手がでたとたんに、なんの用件だったか忘れてしまったり---。当たり前のようにできていたことができなくなると、自分はどうしてしまったのだろうかと不安になります。認知症の人は、このまま自分が壊れていくのではないか、という不安のまっただなかにあるといえるでしょう。
また、認知症の人は同じことを何度もたずねる傾向がありますが、これは忘れてしまうという理由だけでなく、不安感の表れでもあると考えられます。何事にも自信が持てないため、不安感にさいなまれ、身近な人を頼ろうとするわけです。ときには信頼できると思う相手について回ることもあります。夫や妻の浮気を疑うなど、不安が高じて妄想的な嫉妬を覚えることもあります。
認知症のお年寄りの自尊心を大切にするには?
認知症の人は当たり前のことができなくなるため、家族や周囲の人が認知症の人を“何もわかっていない”と決めつけがちです。しかし、認知症の人は直前の記憶を失っているだけで、感情は豊かにあります。褒められれば嬉しいし、叱られれば悔しい。人間なら誰でも持っているこの感情は以前とまったく変わらないのです。介護にあたる家族や周囲の人は、この点を踏まえて上手に接する必要があります。
認知症の人の介護にあたっている人は、つい叱ったり、間違いを正そうと説得したりしがちですが、こうした行為は意味を持ちません。なぜ叱られたのか、なぜ間違っていたのか、その理由をすぐに忘れてしまうからです。その一方で、自分が叱られたのだという屈辱的な感情だけは残ります。何度も叱られたり、注意されたりすると、感情的に反発したり、逆にうつ状態になったりするので注意が必要です。
認知症の人に対する話し方のコツはありますか?
認知症の人は会話をしなくなりがちです。しかし、話をすることで脳が活性化され、会話量が増えることで気持ちも明るくなります。そこで、認知症の人には積極的に声をかけ、話を引き出すようにしましょう。その際、ゆっくり、わかりやすく話すのがコツです。
また、認知症の人は、いくつものことを同時に理解することが苦手です。「さっき外出から帰ったから、手が汚れているかもしれませんね。手を洗いましょう」と言うと、「外出」「汚れ」「手を洗う」と三つの話がでてくるので大混乱してしまいます。こういう場合は「手を洗いましょう」と声をかけるだけでいいでしょう。
認知症の人は最近使うようになったカタカナ言葉も苦手です。年齢にもよりますが、「トイレ」と言うよりも「便所」と言ったほうが、理解されやすい場合があります。認知症の人の出身地の方言が有効なこともあります。故郷のなまりには、いくつになっても親しみを感じるようです。
「ご飯を食べさせてもらっていない」と騒ぐお年寄りには、どう接すればいいですか?
食事をしたばかりなのに、そのことをすっかり忘れてしまい、「ご飯を食べさせてもらっていない」と言いふらしたり、騒いだりするお年寄りをしばしばみかけます。認知症が軽度から中度のときに、よくみられる症状です。
近所の人に聞かれると、まるで虐待しているように思われるので、家族もつい「人聞きの悪いことを言わないで!」と怒ってしまいがちですが、よくあることですから冷静に対応しましょう。
「いま支度していますからね」と声をかけると、納得して安心してくれます。本当にお腹がすいていると思われるときは、お茶を入れたり、果物を添えたりして、少しお腹を満たすようにするといいでしょう。あまり食べすぎると、次の食事のときに食べられなくなってしまいます。食事が不規則になるのは好ましくないので、ごく少量にとどめるのがコツです。
また、寂しさを訴える代わりに食事を持ちだしている場合もあるので、話し相手になるように努めるのも効果があります。
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