[頭痛外来の先生を訪問しました「1人で悩まないで、慢性頭痛」] 2009/08/07[金]

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永関慶重先生

【プロフィール】
専門:頭痛、脳神経外科、精神身体医学
医学博士、日本脳神経外科学会専門医、日本頭痛学会専門医・評議員
1977年 群馬大学医学部付属病院脳神経外科入局
1990年 山梨医科大学(現山梨大学医学部)脳神経外科講師
1993年 同医学部脳神経外科助教授
1993年 文部省在外研究員として米国(ジョージワシントン大学)留学
1998年 医療法人社団輝城会沼田脳神経外科循環器科病院 病院長
2003年 「ながせき頭痛クリニック」開院

 

QLife:医院名に「頭痛クリニック」とはっきり書かれているところは珍しいと思います。なぜ、そうしたのですか?

永関先生(以下先生):頭痛に悩んでおられる方は本当にたくさんいらっしゃいますし、脳を専門とする医師が一番診ている症状も頭痛なんですが、これまでは、なかなか頭痛そのものが病気として捉えられなかった。その時の痛みがおさまれば、気にならなくなりますからね。私自身もそうでしたし、患者さんも他の医師もそうだったと思います。最近は頭痛の研究が進み、経験の蓄積や症例の活用もできるようになって、きちんとした診断と治療が可能になってきた。開業にあたり、そのことを患者さんに伝えたいという想いがあったのです。

QLife:なるほど、頭痛についてもっとお互いが知っていかなければならないと。

先生:まさにそうです。日頃患者さんを診ていると、自分の症状について、自己流の診断を下している方が多いという印象があります。ですので初診では、その症状そのものを細かく問診しながら、国際頭痛分類というしっかりした基準をお見せし、それに基づいて診断し理解いただくというプロセスが重要となります。頭痛はさまざまな原因で起こりますので、最初の診察での丁寧な対応がとても重要なんです。

QLife:具体的には初診でどのようなことを聞くのですか。

先生:20項目くらいお聞きしますよ。いつから、頭のどの場所が、どのように、どれくらいの強さで、どれくらいの頻度で起こるのか。同時に起きる他の症状とか、今回以外の頭痛は経験したことがあるかとか、近親者で頭痛持ちの方は、とか。必要な場合は検査もしますし、女性の場合は月経のことなども必ず確認しますし、これらは先に申し上げた、国際頭痛分類に基づく設問なんです。ここまで丁寧にお聞きしないと、きちんと診断ができないのです。

QLife:盛りだくさんですね。逆にいうと、しっかりとした答を出すためには、私達患者側もそこまで話さないといけない、ということですね。

先生:そうです。患者さんに理解していただきたいのはそこですね。風邪で頭が痛いだけ、肩こりが影響しているだけ、むちうちの影響、生理痛だ…など、自己診断ですませ、鎮痛薬に依存している方が本当に多い。確かにそういうケースもあるんですが、日常的に悩んでいるような方は、ほとんどの場合は他の原因があります。

QLife:頭痛は、痛んでいる時の一時的なもの…という意識が強いからでしょうか。痛む原因もその瞬間に思い当たるものだけを、考えがちです。

永関慶重先生先生:「点」ではなくて「線」で捉える必要があるんです。治療は、まずこの理解からはじまると言っても過言じゃないです。やり取りしているうちに、患者さんと押し問答になることもありますよ。「そんな前のこと思い出せない」とか「関係あるんですか?それ」って(笑)。

QLife:それでも頑張ってお聞きすると(笑)。最初が肝心ということですね。ではそのような流れで問診や検査をした結果、どんな診断を下すケースが多いのですか。

先生:全体の8割が、片頭痛や緊張型頭痛ですね。中でも片頭痛が最も多くて全体の半分以上を占めます。先ほど申し上げた基準で問診していくと、そうなってきます。特に女性に多いですね。

QLife:そんなに片頭痛の割合が多いんですか。

永関慶重先生先生:丁寧に診ていくと、そうなります。私は、診断する際には、患者さんに病気のメカニズムを図で示しながら説明するんですが…(と、資料を取り出しながら)…例えば片頭痛なら、要するにセロトニンという物質が不足している状態で、血管の異常拡張、血管周囲の炎症を引き起こして、その刺激が三叉神経を介して痛みが発生するというものですが、炎症ということで「火事」だと言ってます。それで、処方する薬は火を消す薬で消防隊ですよ、と。ここで患者さんに強調するのは、片頭痛に対して市販薬を飲むのは、火事に対して機動隊が出動して、火を消さずにバリケードの陰に隠れているようなもの、と言っています。

QLife:なるほど。ものすごく分かりやすい説明です。

先生:もちろん処方する薬についても、飲むタイミングなども含めて十分に説明しますが、市販薬についても正しい知識を持って正しく使っていただきたいと思ってるから、こういう説明をするわけです。薬物乱用頭痛のこともありますからね。片頭痛なのにそうではないと自己診断して、単に痛みを抑えようと市販薬に頼り切ってしまう患者さんを減らしたいですから。知っていれば防げることです。
それから次に多いのが、緊張型頭痛ですが、これと紛らわしいのが片頭痛と緊張型頭痛様の慢性連日性頭痛が混在している症例ですね。そこに抑うつ気分がからんで「抑うつ性」とも言えるものが、結構多いのにおどろきます。

QLife:薬物乱用頭痛とは、どう症状が違うのでしょうか?

永関慶重先生先生:あまり市販薬を飲んでいないのに、長期間そういった頭痛に悩まされているケースは、ほぼストレスからくる抑うつ性頭痛と言っていいですね。さらに言えば、そのストレスは学校、会社や家庭などの人間関係に起因している場合が極めて多いですね。また心身共に疲労状態も影響します。すぐに来院していただければ、心療内科的なアプローチで対処できるのですが、そのままストレスから来る頭痛を市販薬で抑えようとして薬物乱用頭痛になってしまうケースが多々見られます。そういうケースの患者さんには、「その薬を飲んでから、どのくらいの時間で効きますか?」と私はお聞きします。すると、たいてい「5分くらいでおさまる」、とおっしゃるのです。薬の成分が効き始めるには15分以上かかるので、薬が効いて痛みがなくなったのではなく、これはもう完全に気持ちの問題で、飲むと安心してストレスがなくなっているわけです。必要がないのに薬に精神的に依存している状態です。ですから頭痛の患者さんには、痛みだけではなく、身の周りの環境変化にも目を向けて欲しいですね。

QLife:こうしてお聞きしていると、頭痛がある人は本当に早めに受診した方がいいなと思いますね。専門の先生に聞いてもらわないと分からないことが多いですから。

先生:他にも分かりづらいケースがあるんです。女性特有の生理痛と片頭痛の区別、子供に多い起立性調節障害と片頭痛の区別というのもあります。これらも自己診断ではとても判別できないと思いますよ。対処を間違うと、ずっと悩むことになりますので、こじらせないためにも受診していただくことが大切です。

QLife:丁寧に説明してくださって、とても参考になりました。本当にありがとうございます。他にもぜひ受診がお薦めというケースがあったら、教えてください。

先生:たかが頭痛ではなく、されど頭痛なんですね。寝込んでしまうほどの激しい痛み、吐き気をともなう頭痛は、片頭痛ですので我慢する必要はありません。すぐ受診してください。また、月に15日以上市販の痛み止めを服用しているのに、3カ月経っても症状がおさまらないのは薬物乱用頭痛です。一度病院を受診して頭痛検査で異常なしと言われたケースでも、症状がおさまっていないのなら、頭痛外来を受診してみる価値は十分あります。専門家も増えて、きちんとした診断基準もできてきたので、新たに発見できることがあるかもしれません。ためらわずに、ぜひ受診していただければと思います。

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