[特発性正常圧水頭症(iNPH)とは] 2012/02/21[火]

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関西電力病院 脳神経外科副部長 羽柴 哲夫先生
関西電力病院 脳神経外科副部長
羽柴 哲夫先生

 特発性正常圧水頭症(以下、iNPH)は「特発性」という名称が示す通り、明らかな誘因が無く発症する病気です。それはつまり、「こういう病気になったからiNPHになりやすい」といった、はっきりとした“方程式”のようなものはありません。しかしながら「歩行障害」や「認知症」、「尿失禁」がいわば“病気のサイン”となります。そして、CTやMRIなどの画像診断、そして“髄液タップテスト”と呼ばれる、腰から髄液を抜いた後の症状などを見ることによって診断されるのです。
 iNPHは70歳以上の高齢者に多く見られる病気であることから、これらの症状を患者さん本人や周囲の方が「老化現象」と判断したり、「アルツハイマー型認知症やパーキンソン病が進行した」と診断され、見過ごされてしまうケースも見受けられます。最近、当院ではこういったiNPHが疑われる患者さんが、かかりつけ医の先生方からの紹介で受診されることが多くなってきました。

 かつては患者さんはもちろん、専門でない医師にはあまり馴染みがなかったこのiNPHですが、2004年に診断・治療のガイドラインが策定され、さらに地域の医師に対する勉強会なども頻繁に開かれており、多くの先生方にiNPHという病気を知って頂けるようになりました。また、治療法である髄液シャント手術の効果も多くのデータで確認されており、安心して治療・検査に臨むことができます。
 そこで出てくるのが「どのようにしてiNPHを別の疾患と見分けるのか」ということです。
 重要なのは本人や周囲の方がどれだけ「症状の変化に気づく」かになります。実際の問診では、「どのくらいの期間の間で歩行困難が進行したのか」「物忘れで困るようになったのはいつからか」など、普段の生活を通した変化を聞いてiNPHの特徴をつかんでいきます。患者さん本人が、そして家族をはじめ周囲の方が、普段生活するうえで、どんな部分に気をつければいいのか、それを今回はお伝えしようと思います。

iNPHが疑われる3つの症状

サインその1「歩行障害」~初期段階に最も現れやすい症状

 iNPHの初期症状として最も現れやすいのがこの「歩行障害」です。すり足気味の歩行になり、歩幅も小刻みになります。加えて特徴的なのが、やや足を広げ、がに股のような姿勢で歩くようになります。Uターンをするときなどに特に歩みが不安定になるほか、症状が進行すると、第一歩が踏み出しづらくなったり、バランスが悪くなるなど、転倒の大きな原因になることもあります。

サインその2「認知症」~意欲・集中力の大幅な低下が特徴的

 iNPHによる「認知症」は全体的な意欲・集中力の低下と、物忘れが多くなることの2点が特徴で、アルツハイマー型認知症とは異なる部分もあります。ある一定の期間において、それ以前と比べてさまざまな活動の速度が下がったり、意欲が低下しているかどうかが見極めるポイントとなります。このようなタイプの認知症と上記の歩行障害が合併している場合にはさらに可能性が高まります。

サインその3「尿失禁」~他の2症状と付随して現れることも

 尿失禁はどちらかといえば、「歩行障害」や「認知症」よりは遅れて自覚することが多い症状といえます。トイレが非常に近くなったり、我慢できる時間が短くなったりするのが、その主な症状です。また、「歩行障害」の進行により、トイレへの移動時間が長くなってしまうことも尿失禁を誘発する原因の1つとなっています。

「年のせいだから」とあきらめずに、まずは相談してみることが大事。
認知症が改善するケースも。

関西電力病院 脳神経外科副部長 羽柴 哲夫先生

 iNPHはすぐさま患者さんの生命に関わる病気ではありません。しかしながら、転倒による骨折で「寝たきり」になってしまったり、認知症や尿失禁など、患者さん本人の辛さだけでなく、サポートする周囲の方の負担をさらに増大させてしまう可能性があります。もし、上記の症状で患者さん本人や周囲の方が著しくQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を低下させてしまっているならば、まずはかかりつけの先生や脳神経外科・神経内科のある病院に相談されることをおすすめします。

 過去に診察した例では、著しい歩行困難を伴っていた患者さんに髄液タップテストを行ったところ、その時点で歩行能力が大きく回復し、シャント手術によって患者さん本人だけでなく、家族の方の負担も大きく軽減したことがあります。iNPHの治療では、検査から手術に至るまで、保険が適用されます。iNPHは改善する可能性がある病気であるだけに「年のせいだから」と自己判断する前に、まずは相談してみてはいかがでしょうか?

関西電力病院 脳神経外科副部長 羽柴哲夫先生

医学博士。1998年大阪大学医学部卒業。現在、関西電力病院脳神経外科副部長。日本脳神経外科学会専門医。日本脳卒中学会認定脳卒中専門医。日本頭痛学会認定医。日本正常圧水頭症学会会員。

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