[特発性正常圧水頭症(iNPH)とは] 2014/10/29[水]

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老夫婦

 記憶や判断力に障害が起こる認知症。高齢化が進展すると共にその患者数も増加し、現在国内では462万人、高齢者の約15%を占めていると言われています。認知症の疾患として、最も多いパターンである「アルツハイマー型認知症」、脳梗塞や脳出血が原因となる「脳血管性認知症」、幻視や筋肉のこわばりなどを伴う「レビー小体型認知症」、社交性が欠如する「前頭側頭型認知症」がありますが、その中でもまだあまり知られていないのが、治療によって症状を大幅に改善できるのが特発性正常圧水頭症(以下、iNPH)です。iNPHの症状や間違われやすい病気、治療法などについて、多くのiNPHの患者さんの症状を改善させてきた河北総合病院 脳外科部長の仲間秀幸先生にお話をうかがいました。
 「iNPHは、60歳以上の高齢者に多く見られる病気です。その原因は“特発性”という名前が示す通りはっきりとわかっていませんが、髄液の循環や吸収が悪くなり脳室が拡大することで脳を圧迫したり、血流の低下をひきおこして、認知障害や歩行障害、尿失禁などの症状が起こる病気です。特に歩行障害による転倒の原因疾患としても重要で、高齢者の大腿骨骨折のうち、iNPHが原因となっているものが7%あるとも言われています。」(仲間先生)

仲間先生

 iNPHの初期にもっとも現れやすい症状は歩行障害です。すり足気味の歩行になり、歩幅が狭くなります。
 「患者さんからは歩くスピードが遅くなった、不安定で何度も転ぶようになったなどの訴えが多くなります。特徴的なのは、前かがみになってやや足を広げ、小刻みでがに股のような姿勢で歩くようになること。症状が進行すると第一歩が踏み出しづらくなったり、バランスが悪くなるなど、転倒の大きな原因になることもあります。」(仲間先生)

 またiNPHによる認知症は、全体的な意欲・集中力の低下と物忘れの2点が特徴です。呼びかけに対して反応が悪くなったり、表情が乏しくなる、一日中ボーッとしているなどアルツハイマー型認知症とは異なる部分もあり、これらがiNPHかどうかを見極めるポイントともなります。さらにこれらの2症状と付随して、トイレが非常に近くなる、我慢できる時間が短くなるなど尿失禁症状が現れることもあります。
 「尿失禁は歩行障害や認知症よりは遅れて自覚することが多い症状ですが、歩行障害の進行によって、こうした症状を誘発する原因ともなっています。

 ただし当院での経験では、iNPHは単独で発症するケースが全体の3~4割くらいであり、多くは様々な疾患と合併して発症するので見逃されていることも少なくありません。」(仲間先生)

iNPHと間違えられやすい病気

アルツハイマー型認知症

パーキンソン病

過活動膀胱

脊柱管狭窄症

レビー小体型認知症

進行性核上性麻痺    など

体への負担が少ないシャント手術で認知症が改善する

 iNPHは、CTやMRIなどの画像診断と、「髄液タップテスト」と呼ばれる腰から髄液を抜く前後の症状を診ることによって診断されます。髄液を少量抜くことで、歩行や認知症、失禁回数が改善すればiNPHと診断されます。
 「このタップテストを行っただけでそれまで全く歩けなかった方が、スイスイ歩けるようになったり表情がしっかりするなど明らかな変化が現れる場合もあります。」(仲間先生)

 iNPHと診断されれば、髄液シャント手術という方法を用いることで症状の改善が見込めます。
 シャント手術とは皮膚の下に細いチューブを埋め込み、髄液が流れるバイパスを作る方法です。このシャント手術には脳室から髄液を腹腔に導く「VPシャント」と、腰椎くも膜下腔から腹腔へ髄液を導く「LPシャント」という方法の2種類があります。これまではVPシャントが一般的でしたが、現在はより患者さんの負担が少ないLPシャントが選択されることが増えてきています。
 「手術時間は1人の医師で行えば35分程度、2人の医師で行えば最短で20分。今後は日帰りでも手術が行えるのではないかと期待しています。」(仲間先生)

シャント手術とは

手術時間は30分~1時間程度、入院期間は10日程度。

厚生省難治性水頭症調査研究班「特発性正常圧水頭症の病態と治療方針」を元にQLife編集部で作成

早期発見は周囲の負担も軽減させる。患者さんに「質よく老いる」サポートを

 仲間先生は「“質良く老いる”ためにも、そして家族も含めた周囲の方の負担を減らすためにも、iNPHをいかに早期に発見し、早期に治療できるかが重要です」と語り、早期発見のポイントに歩行障害、物忘れ、転倒の3点を挙げました。

 「80代の男性が転倒し、頭をぶつけて受診されたことがありました。しかしMRIやCTの画像ではそこまでの脳室拡大が見られませんでした。しかし4~5年前に撮った画像と比較することで脳室の拡大が確認でき、LPシャントをすることによって、早期に改善をすることができました。一般的な“老い”は年単位ですが、iNPHの場合は月単位で進行していくので悩む前に早めの受診が大切です。」(仲間先生)

 治療を行い、患者さん本人の認知症が改善することで、家族などの周囲も介護の負担が減ったケースは数多くあるそう。「“質よく老いる”ためにも、悩んでいる症状を少しでも減らすことはとても重要です。“iNPHかな?”と思ったら、まずは脳外科もしくは神経内科に受診してみてください。」(仲間先生)

iNPH早期発見のポイント

歩行障害

トイレに行くのが間に合わず尿失禁をするケースも

物忘れ

“ものわすれ外来”から病気が見つかった患者さんも

転倒

家庭内の段差につまづくなど

上記3ポイントが「月単位」で悪化した場合、iNPHである可能性もあります。

河北総合病院 脳神経外科部長 仲間 秀幸(なかまひでゆき)先生

琉球大学卒
主な専門分野:脳神経外科一般、機能的脳神経外科(てんかん、不随意運動など)
日本脳神経外科学会専門医

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