[特発性正常圧水頭症(iNPH)とは] 2014/11/21[金]

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中山先生浜松医療センター 救命救急センター長 
兼 脳神経外科科長 中山 禎司先生

 「アルツハイマー型認知症などと間違われることもある特発性正常圧水頭症(以下、iNPH)ですが、患者さんご自身で気がつかれて受診されるケースもあります。」と語るのは、浜松医療センター、救命救急センター長兼脳神経外科科長の中山禎司先生。
 「iNPHの一番の特徴は、歩きづらさにあります。まず最初にこれまでより歩くペースが遅くなった、ふらつきを感じるなど歩行障害があった後に、認知障害が起こります。こうした状況に気づいた時点で早めに脳神経外科や神経内科を受診していただければ、改善する可能性は上がります」(中山先生)。

 これまで多くのiNPHの患者さんを診療してきた中山先生に、患者さん本人や家族が早期に発見し、改善へとつながったケースを聞きました。

ケース1趣味の登山で変調に気づいた70歳(男性)の場合

趣味の登山で変調に気づいた70歳(男性)

Aさんは退職後から趣味である登山を積極的に楽んでいました。ある日いつものように妻と登山を楽しんでいるとどうも足の動きが悪いのです。疲れが溜まっているわけでもなく、調子は万全のつもりでした。自宅へ戻り休養をして後日登山に出かけましたが、やはり登りたいという気持ちとは裏腹に足元がおぼつきませんでした。基礎体力もあり、筋力も年齢の割には十分あると自負していたAさんですが、さすがに不安になり病院を受診。診察を受けるとiNPHの疑いがあると言われました。そこで持続髄液ドレナージ検査を行い、脳脊髄液を体外に排出したことで症状は改善。その後、髄液シャント手術によりこれまで感じていた足の運びの悪さが解消され、これまで通り登山を楽しむことができるようになりました。

ケース2たまたま見たテレビの特集をきっかけに受診した80歳(男性)の場合

たまたま見たテレビの特集をきっかけに受診した80歳

Bさんは、病院を受診する4ヶ月前からすり足で歩くようになりました。家族はBさんの歩き方が変わったことに気がついていましたが「年のせいかもしれない」と様子を見るだけにしていました。するとこれまで自力でトイレにも行けていたはずなのに、トイレの手前で失禁してしまうことが増え、家族の負担も増えていきました。また1ヶ月前からはおしゃべり好きだったはずなのに、ボーッとしていたり、物忘れなどが目立つようになったりしてきました。その時テレビで特発性正常圧水頭症の特集をやっていたのを家族で見たときに「おじいちゃんと似ているね」という孫の発言から家族同伴で病院を受診。LPシャント術を行ったところ症状が改善。家族の負担も軽減し、一家が毎日笑顔で過ごせるようになりました。

持続髄液ドレナージ検査でよりiNPHの診断が確実に

 iNPHの診断には、歩行障害や認知障害などの症状があり、MRIやCTの画像でiNPHを疑えば通常、「髄液タップテスト」という腰から過剰に溜まっている脳脊髄液を30ml排出する検査を行います。これによって症状が改善するかでiNPHかどうかの診断を行います。

 中山先生の在籍する浜松医療センターでは、タップテストに加えて、持続髄液ドレナージ検査も行っています。これは腰椎のくも膜下腔に腰椎カテーテルを挿入し、過剰に溜まった脳脊髄液を持続的に体外に排出する方法です。タップテストでは排出する髄液の量が限られていますが、持続髄液ドレナージは2日間で300~400ccの髄液を持続的に体外に排出します。5日間程度とタップテストに比べて検査入院期間は長くなりますが、持続的に髄液を排除していくため、より髄液シャント術に近い状態を作ることができ、患者さんやご家族もその効果を実感しやすい検査です。

不安に感じることがあればまずは脳神経外科や神経内科などの専門医へ受診を

 「今回、ご紹介した2人の患者さんのほかにも、以前に診察した90歳の男性は、10年間認知症と言われ治療を行っていたのですが改善せずに家族がiNPHを疑って受診されました。この方はiNPHの治療を行うことで認知症も改善、元気に暮らされています。」(中山先生)

 高齢になるとさまざまな要因で歩行障害や認知症、尿失禁といった症状が現れることがあります。一概に歩行障害や認知症と言えども、症状の特徴や経過に違いがあり、それらに気づくことがとても重要です。例えば、アルツハイマー型認知症はゆっくりと進行しますが、iNPHの場合は数ヶ月単位で進行するといった具合。疾患について知ることは気づきの源泉。iNPHに関する特集記事で確認してみてください。

 「適切な診断を受けることでその後のQOLも大きく変わってきます。不安に感じることがあればまずは脳神経外科や神経内科などの専門医を受診してほしいですね」(中山先生)

浜松医療センター 救命救急センター長 兼 脳神経外科科長 中山 禎司(なかやま ていじ)先生

1983年3月 浜松医科大学医学部卒業
日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医
救急科専門医 
日本脳卒中学会認定 脳卒中専門医
浜松医科大学臨床教授

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