[脳卒中] 2015/05/29[金]

 昭和50年代半ばまでは日本人の死因の第1位だった脳卒中(脳血管疾患)。最新の統計(厚生労働省「平成25年人口動態統計」)でも、死亡原因の第4位にあります。脳卒中にはさまざまな種類がありますが、最も気を付けなければならないものの1つが、心房細動が原因となって発症する心原性脳塞栓症です。死亡率が高いことに加え、たとえ最悪の事態を回避できたとしても、寝たきり等の重度障害になる可能性が高くなります。心原性脳塞栓症は心房細動などが原因で心臓にできた血の塊が、脳まで移動し、脳血管を塞ぐことで起こります。その予防のためには、血液を固まりにくくするお薬(抗凝固薬)を飲む抗凝固療法を行うことが主流となっています。

医療者・患者合計650人に心房細動治療(抗凝固療法)における意識・実態調査を実施

 死に直結する重篤な病気である脳卒中。それを予防する手段の1つである抗凝固療法を中断してしまう背景には何があるのでしょうか?QLifeでは、心臓血管研究所付属病院所長の山下武志先生をはじめ、国内の心房細動治療のトップドクターが在籍するNVAF(非弁膜症性心房細動)アドヒアランス向上委員会監修のもと、医師、薬剤師、看護師、介護士など脳卒中予防に携わる医療者と、抗凝固療法を行っている患者さんならびにその家族、さらには抗凝固療法を中断した患者さんを対象に、心房細動治療(抗凝固療法)における意識・実態調査を実施しました。その調査結果を紹介するとともに、監修者の1人である山下先生に解説いただきました。

医師の3人に2人が抗凝固療法について医療者・患者間に意識のギャップがあると感じている

 死に直結する脳卒中を予防する主要な方法の1つであるのにも関わらず、多くの患者さんが服薬を中断してしまう抗凝固療法。継続してもらうことについて、医療者と患者さんの間に意識のギャップがあるかどうかを聞いたところ、医師のじつに3人に2人が「ギャップがある」という結果になりました。一方、患者さん側も約4人に1人がギャップを感じていることが分かりました。

抗凝固療法の継続について、医療者(医師、看護師、薬剤師)と患者に意識のギャップはあると思いますか?
抗凝固療法の継続について、医療者(医師、看護師、薬剤師)と患者に意識のギャップはあると思いますか?
医師が感じるギャップ
  • 薬を一生飲まなければならないことを理解していただくことが難しい。
  • 予防なので、効果を実感しにくく、いかに想像力を働かせてもらえるか、に苦心している。
  • 私たち医療者は脳梗塞になった方を何人も見ているが、患者さんはみていないことが多いので、脳梗塞のリスクを説明しても大変さを感じにくい。
薬剤師が感じるギャップ
  • 説明を一生懸命に聞いているが、理解しているかどうかわからないことがある。
  • 患者さんは服薬の目的や意義を理解できてないことが多い。
  • 家に帰ってから、問い合わせの電話をかけてくるが、その内容は服薬指導時に話したことの繰り返しになることが多い。
看護師が感じるギャップ
  • 処方されているから服薬しているだけ。なんの薬かわからないと答える高齢の方が多い。
  • 患者さんは医師や薬剤師に対して、服薬できていないことが言いづらいのでは。
患者が感じるギャップ
  • 一生飲み続けなければならないのか、という質問に答えがなかった、医師同士の判断が統一していない。
  • 簡単な出血時の処置。鼻血が出やすいので(強くかむと)恐怖心がある。車に乗るため、事故の場合や意識がない場合など、薬の服用をどのように伝えるのかについて考慮すべき点がある。
  • 医者側には完治しない認識があるが、患者側には完治するかもという思いがある。
  • 少々服薬期間が長すぎて、うんざりしている。

「脳卒中は発症してしまうと、たとえ命が助かっても、麻痺や言葉障害などが後遺症として出てしまうことが多く、予防の意識を欠かさないことが重要です。さらに、心房細動が原因となる脳梗塞は重症となる可能性が高く、抗凝固薬を飲むことが不可欠です」(山下先生)

短い時間で多くのことを伝える医療者、受け取る患者さん

 抗凝固療法は文字通り「血を固まりにくくして、脳卒中を予防する」療法なので、服薬を継続することはもちろん、転倒などによる内出血や、歯の治療など出血を伴うような他科受診など、気を付けなければならないことがあります。また、お薬によっては、納豆が食べられない、青汁が飲めないなど食事面でも注意しなければならないことがあります。治療開始時、医師や薬剤師は、心房細動のメカニズムや抗凝固療法の目的と併せてこれらの注意など多くの事柄を説明しますが、伝える側と受け取る側でギャップがあることが今回の調査で分かりました。抗凝固療法で説明にかける時間の平均値は、医師で9.0分、薬剤師で8.1分の合計17.1分でした。一方、患者さん側が感じた「説明された時間」の長さは14.9分でした。その内容にもギャップがありました。「抗凝固薬の副作用」について、医師の76.0%が「説明した」と回答した一方で、患者さんは41.2%しか「説明された」と回答していません。同様に「飲み忘れた時のリスク」も薬剤師の72.7%が「説明した」のに対し、「説明された」と回答した患者さんは半数以下の31.1%にとどまっています。

抗凝固療法について説明した、説明された時間はどのくらいですか?
抗凝固療法について説明した、説明された時間はどのくらいですか?
抗凝固療法を開始するにあたり、説明した、説明された事柄を教えてください
抗凝固療法を開始するにあたり、説明した、説明された事柄を教えてください

患者さんは、医師や薬剤師の話を「理解」している。でも「実践」は難しい?

 調査によると、医療者側の説明を、患者さんの98.0%は「十分に理解できた」「まあ理解できた」と回答しています。しかし、前述のとおり、その情報量にはギャップがあり、そのギャップは治療開始後に、オモテに出てきます。治療開始後に患者さんの約3人に1人が医療者に対して質問・要望を伝えたことが「ある」と回答。医師の7割以上が患者さん側の理由でお薬や治療計画を変更したことが「ある」と回答しました。

説明された内容は理解できましたか? 抗凝固療法について質問・要望を伝えたことはありますか
説明された内容は理解できましたか? 抗凝固療法について質問・要望を伝えたことはありますか
患者さんからの要望一例
  • 採血のいらない薬にしてほしい
  • 納豆を食べたいので薬を変更してほしい
  • 1日2回は忘れてしまうので1回にしてほしい
  • 金額的なことで継続が難しい

患者さんと医療者のさまざまなギャップを埋めることが重要

 今回の調査結果について、山下先生は「抗凝固療法は、その意義や目的はもちろん、日常生活や他科受診時の注意など、治療開始時に伝えるべきことが多くあります。ところが、その情報があまりにも多岐に、そして短い時間に一度に提供されます。“一度説明してもらったから聞きづらい”などと思わずに、分からないことがあったら、遠慮せずにどんどん医師や薬剤師に質問してください」と患者さんにアドバイスしました。

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