日本の「胃が痛む時の治療」が変わろうとしている

[ヘルスケア] 2008/07/08[火]
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muneyake.jpgキリキリ痛む、チクチク痛む、胸やけする・・・ある調査(※1)によると、成人の4人に1人が、3ヶ月に一度は胃に何らかの異変を感じているという。胃炎は私達にとって身近な疾患のひとつであり、胃腸薬のTVCMも多い。こうした胃の痛みに対する治療アプローチが、いま変わろうとしている。アストラゼネカ社主催のセミナーで兵庫医科大学内科学教授:三輪先生に伺った話をもとに、その動きをお伝えする。


※1:Stanghelliniほか、Scandinavian Journal of Gastroenterology, Volume 34, Supplement 231

■「癌を見つけ、取り除く」医療の脇に置かれてきたもの

日本の胃癌治療技術は世界をリードしている。胃癌が最近までずっと死亡原因のNO1に挙げられ症例数が多かったのと、歴史的にも胃癌の発見・治療に熱心な医療体制がとられてきたのがその理由だ。象徴的なデータが、以下のグラフに現れている。内視鏡検査の取り組みが全国で進むなかで、胃癌による死亡率が減少している。
s1.jpgこの事実は間違いなく私達にとって大きな安心材料だ。ただ医師の間では、胃癌にばかり診療意欲が突出してきたことに反省もあるという。検査で癌が発見されなかった場合、患者は「よかった、命に別状はなさそう」と安堵し、医師側も緊迫感が薄れて「とりあえず粘膜を保護する薬を出しときましょう」で済ませられることも少なくなかったからだ。

ところが、適当に出された薬で症状は改善しない。患者は「やっぱり胃は、気持ちの持ちよう次第だ。薬じゃ治らない。」とあきらめて、病院から足が遠のいてしまう。日常生活に支障あっても、だましだまし毎日を過ごすことになる。

■木を見て森をみず?

「適当に薬を出す」とはいっても、一般的な診療現場では、患者が訴える内容別に3種の薬が使い分けられている。具体的には、「胸やけ」「胃の痛み」「胃のもたれ・お腹のはり」のどれかに症状を分類して、「胸やけ」系には胃酸を抑える薬を、「胃の痛み」系にはH2ブロッカーを、「胃のもたれ・お腹のはり」系には胃の動きを活発にする薬を投与することが多い。

一見、この治療法は合理的に見えるが、三輪先生は以下の点で実効性に乏しいと言う。

●患者の訴える症状は、重複していることが多い
(ほとんどのケースで症状は3つ以上にのぼる)

●症状の表現方法は、患者によって大きく異なる
(ひとくちに「胸やけ」といっても、その内容は、ムカムカしたり重かったり)

●そもそも症状発現のメカニズムはほとんど解明されていない
(慢性胃炎と逆流性食堂炎の症状は酷似する。症状からの究明は困難)

■「ディスペプシア」というとらえ方

では、個々の症状へ対処する意味が薄いならば、どうせよというのか?

三輪先生らは「上腹部(胃や食道およびその周辺)の不調は、総合的に捉えるべき」と提唱し、胸やけや様々な胃の痛みをまとめて「ディスペプシア症状」と呼んでいる。ディスペプシアの直訳は「消化不良」だが、医学的には胃の不快感や痛み全体を意味する。

s2.jpgそして、その症状が現れる原因に最も関与しているのは「胃酸」だと目されている。すでに世界的には、ディスペプシア症状に対しては胃酸をコントロールする薬をまず最初に投与するのが、標準的な治療方法になりつつあるそうだ。ちなみに胃酸分泌を抑制する薬はPPI(プロトン・ポンプ・インヒビター)と呼ばれ、日本で認可されているものは3つある。

s3.jpg

■日本初の大規模臨床試験

従来、日本人の胃酸は欧米人にくらべてずっと少ないと言われていた。ところが実際には、ここ20年で格段に分泌量が増えていることが調査でも裏づけられている。食事など生活習慣の欧米化が進んだことが背景にありそうだ。ということは、日本でも欧米と同様に、胃酸を抑えることを治療の第一選択肢とすべきという考えが生まれる。

taiwa.jpgそこで三輪先生らのグループは、日本人のディスペプシア症状に対する最適な治療薬を明らかにするため、臨床試験(J-FOCUS)を行った。全国の消化器専門医256名、162施設の協力を得た、大規模なものだ。その結果によると、まだ中間報告段階だが、すでに上腹部症状を改善するには胃酸のコントロールを第一に行う有意性が確認できたという。

■私達はどうしたらよいか

前述のとおり、胃に関する患者の訴えは主観的であいまいなため、2転3転することも珍しくない。「チクチク痛む?」「いや、キリキリかな?」・・・医師としては扱いにくい症状だろう。だが、そうした様々な訴えを軽んずることなく、かつ科学的なアプローチで治療にあたることを、医学界では追究されているわけだ。

勿論、医師によって考えは違うし、治療アプローチも異なるだろう。

私達生活者の側も、胃カメラで「異常なし」と言われた場合でも自分の胃の不調に関心を持ち続け、それを治すことに積極的になるべきだし、その治療法として”胃酸のコントロール”を医師に相談してみることを、覚えておくと良いだろう。


dr_miwa.jpg三輪 洋人(ひろと) 先生
兵庫医科大学内科学講座 教授
兵庫医科大学先端医学研究所 教授

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