産業医のやりがいとは:専属ケース

[病院を知ろう!プロジェクト] 2010/06/04[金]
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 川崎市にある富士通病院(6月に改称予定)。富士通グループ従業員や家族はもとより、地域住民の診療も行い、一日平均外来患者数250名、人間ドック1日受診者数150名、病床数30の病院です。その病院長の三宅仁先生は、富士通の産業医のトップでもあります。社員総勢18万人の大所帯だけに、グループ合計で医療スタッフは非常勤を含め800名に及び、専属の産業医は約20名在籍しています。
 三宅先生の役職名は、「健康推進本部」の本部長であり常務理事。つまり、大企業のなかで産業医の責任と地位が上がっている好例です。健康推進本部は、「財務経理本部」「総務人事本部」らと並列した組織で、人事権も予算も独立しています。それだけ会社が社員の健康推進を重視しているというメッセージングにもなっているでしょうし、人事総務の管轄下にないぶん、社員から見ても安心して自分の健康データや背景の悩み情報を預けやすい利点があるでしょう。

産業医は、「企業の家庭医」

 製造業での産業医活動は、「アスベスト対応」「メンタルヘルス」「リスクアセスメント」「過重労働対策」の4つが基本(頭文字を並べて“アメリカ”)といわれます。ただし、生活習慣病対策も重要性を増していますし、地域や職場ごとでも課題は変化します。富士通の場合も、かつては工場がある地方が産業医の活躍の中心でしたが、最近は東京・神奈川に専属産業医は集中して、また医師ごとの専門領域を組み合わせて組織的に対処する体制に変貌を遂げているそうです。
 三宅先生は、「我々は企業の家庭医みたいなもの」といいます。それは、悩みを抱える社員の上司や同僚、家族らと一緒に解決策を探す時があるから、だけではありません。予防や健康改善で成果を上げるためには、「組織文化」の理解や、部門ごと巻き込んでの対策が必要になるからです。最近の例では、社員500名に1人の割合で定年後の役職者を「職場づくり支援スタッフ」として配置する制度を導入し、相談役になってもらった結果、メンタルケアの面で成果が見られました。
 近年は若い人の間でも終身雇用志向が再び高まっており、また、経営陣にも「社員の健康=投資対象」と考える人が増えてきたため、ますます「企業の家庭医」への期待は高まっているそうです。会社にとっては将来の労働資源の確保につながりますから、産業医の存在感は大きいでしょう。

健康サービスの外販も

【健康推進本部の取り組み内容】
※クリックすると大きな画像を見ることができます。
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 富士通ならではの特徴もあります。一つは「有識者会議」の設置。組織内の医療専門家というと、治外法権の特異な存在になりがちです。そのため年に数回、外部の有識者に監査してもらう場を持つことで、自律性を高めています。最近も、精神疾患への対応力を高めるべきとの勧告に従って、精神科医を拡充したそうです。
 もう一つは、IT活用。例えばメンタルヘルスに関するイーラーニングを管理職向けと一般社員向けに導入し、「早期発見のポイント」「自己主張をするトレーニング」などのプログラムで、健康リスク指標が下がるなど、成果が上がっているそうです。
 こうしたツールや、プロジェクト運営ノウハウは外販も進めているそうです。大企業の人事部門や健保組合を対象にコンサルテーションや健診関連サービスを提供したり、ローカル放送局へのコンテンツ提供の商談もあり、ビジネスの道も模索中です。

「産業衛生」は、地域医療、老人介護と並ぶ「今後の日本の医療」3本柱

 もちろん、集団規模の仕事ばかりではなく、個人診療的な仕事もあります。例えば、「健診データの異常見過ごし」「うつ病患者の復職に失敗」などのケースでは、集団規模では確率論になりがちですが、当人や家族にとっては苦しみも大きいだけに、三宅先生は率直に力不足を思い悩まざるを得ないようです。
 こうした足元の現場を持ちながら、公衆衛生ビジョンを語るという両極ができるのは、産業医ならではでしょう。日本の医療のなかで、生活習慣病予防やメンタル領域対策の重要性が増すにつれ、「職場での健康管理」が果たす役割は大きくなる、と三宅先生は考えています。
 特に予防活動は、個人レベルでは三日坊主になってしまいがちですが、産業医の場合は、組織の命令系統の力を借りたり、部門ごとで達成率が見えるようにして競争意識に働きかけることが可能です。また血圧など健康上のデータも、個人単位では日によって測定値にブレが出ますが、集団データならば統計的に確かな判断ができます。グラフが動いていくさまを確認しながらPDCAを行うのは、産業医ならではの醍醐味でしょう。大勢の人達の健康管理を担う責任感は、個々人の診療とはまた違った意味で、医療者魂が揺さぶられている様子でした。

三宅仁(みやけ・ひとし)先生のプロフィール先生のプロフィール

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1984年 北里大学医学部卒業 
1986年 関東労災病院内科勤務
1987年 フィラデルフィア・シティサイエンスセンター(米国ペンシルバニア州)留学
1998年 北里大学医学部公衆衛生学非常勤講師
2000年 富士通川崎病院健康推進部担当部長
2007年 産業医科大学医学部非常勤講師
2009年 富士通株式会社健康推進本部長兼富士通病院長兼常務理事

主な資格、所属など

日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント、中央労働災害防止協会健康測定研修修了産業医、神奈川産業保健推進センター基幹相談員

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