帝京大学が地元診療所と連携して開始「医学生が地域診療を実践的に学ぶ」画期的プログラム

[病院を知ろう!プロジェクト] 2010/01/29[金]
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 帝京大学医学部が地元診療所の協力を得て、学生を「地域医療」の現場に送り込んで実習をさせるなど、斬新な取り組みを始めました。仕掛け人は、井上教授。東京大学の准教授だった井上氏が、帝京大学に移って新たに「地域医療学」講座を立ち上げたのです。早速、その実習を行っている「ちば総合医療センター」にお邪魔して、実際の様子を取材しました。

プライマリ・ケア医とは、私達と同じ目線で考えてくれる人

Q:なぜ今、「地域医療」なのですか?

A:まず、「プライマリ・ケアを復権したい」という想いが、根底にあります。
 図は1961年に医学雑誌New Englad Journal of Medicineに掲載された有名な論文の図を理解しやすいように改変したものです。ある地域に在住する1,000人を1ヶ月観察していると、1度以上体調不良になったのは750人で、うち医療機関にかかったのは250人です。ですが、そのうち入院になったのはわずか9名で、大学病院での診療を受けたのはわずか1名でした。
 この図が示唆しているのは、人々の健康問題のほとんどは最初に医療機関にかかるレベル、言い換えると「プライマリ・ケアあるいはそれ以前のセルフ・ケア」で対処されているということです。人間は元気な時もあれば病気の時もあり、その中間の“未病”と呼ばれる段階もあります。人々はその連続した状態の中で生活しています。無論、専門医療を必要とする場合もありますが、多くは「プライマリ・ケアあるいはそれ以前のセルフ・ケア」のところを行ったり来たりしているのです。であれば、最初に受診する段階を中心としてプライマリ・ケアに携わる医師は、必要であればその双方向にスムーズに受診した方を導かねばならない。右下への動きつまり専門医療へのシフト、あるいは左上への動きつまり地域へ戻っていく、どちらもです。これにとどまらず、プライマリ・ケア医に要求される技能は右下の領域で要求されるものとは違ってくるのです。
 ところがこれまでの医療はややもすれば右下の領域を志向しがちでした。その領域、たとえば大学病院は、皆さんにとってあまり気軽に受診できる場所ではありませんよね。そのため医師の側も「経過観察」という武器が使いにくいですから、どうしても一回の受診時に多くを調べて結論をつけようとします。これが検査漬け・薬漬けといわれる医療批判の一つの原因になっている可能性があります。もっと、健康問題を抱える患者さんの近所にいて、同じ目線で考え、その人達のリアルな希望に応えるような、プライマリ・ケアを実践する医師が必要です。

Q:先生は、「プライマリ・ケアは、医療費増大の解決策になる」とおっしゃっていますね?

A:はい、際限なく増大する医療費の一解決策になると思っています。皆さんに健康上の問題が起きたとき、プライマリ・ケア医は、複雑な「医療の森」を迷わずに適切な道へ連れて行く道先案内人になれますから。ただしそれには、日本の医療報酬制度が狭義の医療行為が積算される「出来高払い」一辺倒でなく、例えば「セルフ・ケアの支援」でも医療者の収入になるように変わることが前提です。
 今は、プライマリ・ケアからセルフ・ケア、つまり図の左上に誘導する医師は少数派です。なぜなら「プライマリ・ケア」より右下に進まないと、医療者の収入にはならないからです。
 また、医療費の適正化メリットもあります。プライマリ・ケアの周辺を行ったり来たりしている間も医師がケアをしていれば、医療に連続性が生まれます。患者さんとの相互理解が進んで、患者さん別のQOLに最適な医療を効率的に提供できるようになるのです。

Q:その「プライマリ・ケア」を推進するために、なぜ「学生教育」に取り組むのですか?

A:今の医学部の学生は、可哀想なくらいに勉強しています。どんどん医学が進歩するので医療情報が増えて、専門分化が進んでいるからです。大学卒業後も、専門医に向けてのトレーニングならば充実しています。ところが、プライマリ・ケア医に求められる能力は、専門医とは違います。例えば「内視鏡で胃癌が見つかった、どう治療すべきか?」というところからスタートするのが専門医です。でもプライマリ・ケア医では、腹痛を訴える患者さんの問題を同定するところに能力が求められます。癌かもしれませんし、別の消化器系の病気が隠れているかもしれませんし、もしかするとうつ病かもしれません。良いプライマリ・ケア医を輩出するには、こうした能力を鍛えるプログラムが必要です。

Q:なるほど。他にプライマリ・ケア医に特徴的な能力はありますか?

A:まず述べたいのは「保健」や「福祉」あるいは「介護」との連携です。前出の図でいうと「プライマリ・ケアより左上」の領域です。地域医療では、「医療」と「保健」「福祉」との間に垣根はありません。特にへき地のような場所では、一人の医師が予防接種や小児健診もしますし、あるいは福祉サービスの調整役にもなります。私自身の経験ですが、脳卒中の後でパーキンソン症候群を患った方の歩行訓練も往診時にしました。でも病院の中だけで研修をしていると、保健や福祉領域の関係者と交わることさえ、ほとんどチャンスがありません。これでは若い医師達が実際に独り立ちして地域で仕事をするときに、連携をしようと思っても困難です。

Q:大学で「プライマリ・ケア」を志向する学生はいるのですか?

A:医学部に入るときには、意外に多くの学生が地域医療やプライマリ・ケアを目指すようですが、そのうち減ってきます。それはほぼ世界的に共通のようですね。原因のひとつは、地域医療の実体験がある教員が少ないからです。リアルな経験がない指導者では、学生をその分野へ興味を持つように刺激できませんよね。私は、自分自身で「へき地医療」を14年間実践してきましたし、そこでの生活の素晴らしさや、医師キャリアへの好影響について、リアルに語ることができます。「地域医療のやりがい・楽しみ・喜び」を心から感じているし、それを若い人達に伝えていきたいと思っています。
 また私は、3年間はホスピス長として全人的医療に取り組んだ経験もあります。「病気になった人やその手間にいる人」「障害をもつ人」「死を待つ状態の人」がそれぞれ地域で生活するにはどうすればよいか、という連携医療の実体験を、この帝京大学の教育の中で出していきたいと思っています。

Q:ところで「プライマリ・ケア」って、そもそも定義はあるのですか?

A:欧米では明確な定義があります。学生にはみっちりと教えますが、その基本要素は「ACCCA」と言われています。ACCCAは、良きプライマリ・ケアが提供できているかの指標にもなると思っていますし、私自身の感触として、「ACCCAを備えた開業医は、患者さんが増えて経営的にも良好」という感があります。言い換えれば、ACCCAは地域医療における患者ニーズや社会ニーズを示しているのかもしれませんね。

Q:そうした先生のお考えに賛同して、「診療所実習」に協力する医院は、どれくらいあるのですか?

A:ちば総合医療センターの周辺で10ほどの病院や診療所を訪問してお願いに上がりました。心強いことに、全ての院長が日程など合うかぎりは受け入れてくださるとの回答でした。このような先生方がいてくださることは、地域医療教育にとってかけがえのない財産です。そのため私は実習後に必ず学生のレポートを、受け入れ先の先生方に送り、この取り組みに関するご理解を深めていただこうとしています。
 地域医療に携わっておられる素晴らしい先生方に、じかに接するのは学生にとって貴重な機会です。触発されることもあるでしょう。そうした体験は、学生達がどのような道を歩むとも、学部時代の後にまで残る有意義なものとなるでしょう。私はそんな出会いの橋渡し役です。

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帝京大学が地元診療所と連携して開始「医学生が地域診療を実践的に学ぶ」画期的プログラム

  1. プライマリ・ケア医とは、私達と同じ目線で考えてくれる人 ≪
  2. 診療所での実地診療研修
  3. 「地域医療の診察室さながら」の講義
  4. 受講した学生のナマの声

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