うつ病は早く治療を受ければ受けるほど治りやすい
うつ病の患者さんは500万人 治療を受けているのは5人のうち1人
うつ病は気力が低下したり、気分が落ちこんだりし、あるいは楽しい、嬉しいという気持ちが持てなくなり、それらを自分の力で回復させるのが難しくなる病気です。本人がとても辛いと感じたり、日常生活に支障が出る状態に陥ったりします。
うつ病は誰でもかかる可能性がある病気です。アメリカ精神医学会の『DSM-IV-TR』という精神疾患の診断・統計マニュアルによると、男性の5~12%、女性の10~25%が、一生のうち一度は本格的なうつ病を発病させると指摘しています。
問題はうつ病が気づきにくい病気であるということです。そもそも人間の気分や感情には波があり、気持ちが上向くときもあれば落ちこむときもあるのが普通です。うつ病が原因で気分が沈んだり、やる気がなくなったり、なにごとにも興味が持てなくなったりしても、本人はもちろん、周囲の人も「気のせい」「気持ちの持ちよう」「放っておけばそのうち元に戻る」と軽く考えて放置し、うつ病を悪化させてしまうことが多いのです。
「日本では少なくても500万人以上のうつ病の患者さんがいるといわれています。しかし、病院で治療を受けている患者さんは5人に1人くらいで、大半のうつ病の患者さんが適切な治療を受けずに苦しんでいます」と横浜労災病院の江花昭一部長(心療内科)は指摘します。
とくに多いのは最近、急増している軽症うつ病の患者さんです。うつ病は軽症・中等症・重症の3段階に分けられますが、軽症うつ病はうつ気分などの「病感」を有していても、うつ病であるという「病識」が得られないまましばしば病状を悪化させてしまいます。
気分の落ちこみ、憂うつ感と興味や楽しみの喪失が、うつ病の目安
うつ病が気づきにくいのは、日常的に経験する軽い気分の落ちこみから、うつ病と認められる強い抑うつ感まで連続的に変化するため、両者の間に明確な境界線が引きにくいからです。しかし、うつ病か否かを見分けることは可能で、2つの目安があげられます。
江花部長「1つは気分が落ちこみ、悲しくてしかたない、憂うつで、気分が晴れず、やる気が起きない状態が続くことです。しばしば朝から午前中にかけてこのような感情に強く支配され、午後から夕方にかけて気持ちが少し上向くというパターンを踏みます」
健康な場合は朝から午前中にかけて元気がみなぎり、疲労が蓄積する午後から夕方にかけて身体がだるくなったりします。ところが、うつ病の場合は朝方から午前中にかけて気分の落ちこみや憂うつ感が強く現れる「抑うつ気分の日内変動」を繰り返すのです。
江花部長「もう1つは興味を持っていたことに関心を示さず、楽しさを味わえなくなる状態が続くことです。テレビのサッカー中継をかならず見ていたのに見なくなったり、おしゃれだったのに身だしなみを気にしなくなったりなどします」
新聞の朝刊を読まなくなる「朝刊シンドローム」も、興味や関心を喪失するうつ病の典型的症状です。
江花部長「重要なのは、(1)気分の落ちこみや憂うつ感と、(2)興味や関心、楽しさの喪失の2つの目安が2週間以上続いた場合、うつ病の可能性が大きいと考えることです」
寝た気がしない、食欲がない。身体的症状の仮面をつけた仮面うつ病が急増中


うつ病か否かのもっとわかりやすい目安としては、身体症状があげられます。うつ病になるとさまざまな身体の症状が現れるからです。
江花部長「うつ病のもっとも多い身体症状としては、第1に寝た気がしないという睡眠障害があげられます。寝付きがよくないことはもちろん、入眠しても眠りが浅い、そのため深夜に目覚めてしまう、一旦、目覚めたらなかなか眠れないといったことが続いて寝た気がしないため、最悪の気分で朝を迎えることになるのです」
一方、十分な睡眠がとれていないため、なかなか布団の中から起きあがれません。いわゆる床離れが悪いので、家族はよく寝ているように見えることが少なくありません。
江花部長「第2の身体症状としては、食欲不振があげられます。食べてもおいしくない、砂を噛んでいるような感じで、食事を積極的に摂らなくなります」
家庭を持ち、妻のいる男性の場合、食卓に出されたものは食べるので気づきにくいといえます。独身の場合、食事を自分から作らなくなり、外食もしなくなるので痩せてきます。
江花部長「第3の身体的症状としては、全身倦怠感やおっくう感があげられます。身体がだるくて、なにごともやる気が起きないのです。とくに仕事などに取りかかるまでが大変で、気力がついていかない状態に陥ります。仕事を始めてもなかなか進まない、最後までやっても達成感がないという状態が続くのです」
第4の身体的症状としては、重苦しい痛みがあげられます。頭やこめかみが痛い、首筋が痛い、肩が張る、腰が痛いといった症状です。
江花部長「心の不調よりも身体的不調のほうが気づきやすいといえます。以上の4つの身体的症状などに気づいたら心のほうにも眼を向けて、うつ病の疑いが強いと思ったら、精神科や心療内科を受診することが大切です」
最近は睡眠障害や食欲不振、全身倦怠感などの身体的症状が前面に現れ、その背後に隠された抑うつ感や、興味や楽しみの喪失といった心の症状に気づかないケースが増えています。身体的症状という仮面をつけていることから「仮面うつ病」と呼ばれています。仮面うつ病は身体的症状が1つしか現れていないこともあります。
心が追いついていかない 環境が変化したときが要注意!
うつ病を発病させるのは、なにごとも真面目にきちんと取り組み、オーバーワークから心が疲れきり、バーンアウトして(燃え尽きて)しまうからです。どんなに辛くなっても自らを叱咤激励し、成果を出せないと自分を「ダメな人間」と思いこんでしまうところに大きな原因があります。
江花部長「とくに環境が変化したときに、うつ病を発病させやすいといえます。たとえば、転居するときに生じる『引っ越しうつ病』や、昇進を機に発病する『昇進うつ病』などがあげられます。引っ越しをするとその作業が大変なうえに、新たな土地で一から人間関係などをつくっていかねばなりません。もろもろのストレスに抗して頑張りすぎると、自分の許容量を超えてしまいうつ病を発病させてしまうのです」
昇進うつ病は昇進に伴う新たな責任が生じることに加え、仕事の内容が変わったり、社内序列の変更による人間関係の調整の気苦労などを背負ったりすることから発病します。
ほかに子どもの結婚を機に発病する「空の巣うつ病」や、両親や親しい人の死亡を機に生じるなどさまざまなきっかけで起こります。
心を休養させることが第一。「やりたいことだけをやる」という考え方に
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神経繊維と神経繊維の間の情報伝達は神経伝達物質(モノアミン)によって担われています。すなわち、神経繊維末端のシナプス小包からモノアミンがシナプス間隙に放出され、他の神経繊維末端のレセプター(受容体)がそのモノアミンを受けとめて情報を伝達します。あまったモノアミンは再び神経繊維末端に吸収されますが、多種多様なモノアミンのうちのセロトニンとノルアドレナリンの不足からうつ病が発病すると考えられています。神経繊維末端からセロトニンやノルアドレナリンが再吸収されるのを阻害し、シナプス間隙の中のそれを増やしてうつ病の治療に役立てようというのがSSRIやSNRIの働きです。
江花部長「うつ病の人をクルマにたとえると、いわばガソリン不足が生じている状態といえます。エンジンはもちろん、車体や電気系統も故障していないのだけれど、ガソリンがないから動けない状態に陥っているのです。まずガソリンを溜めこむ必要があります」
うつ病の治療は3つのポイントがあります。1つは心の休養をとること、もう1つは抗うつ薬などの薬物療法を受けること、あと1つは周りの人からのサポートを受けることです。
江花部長「心の休養をとるという治療の第1のポイントは、会いたくない人には会わない、出たくない電話には出ない、先に延ばせることは先に延ばしていまは行わない、といったことを実践することです」
もともとうつ病になるのは、なにもしないのが苦痛となる人です。しかし、そのため遮二無二頑張ってしまったからこそ、うつ病を発病させたのですから、なにもしないで心を休ませることがもっとも重要なのです。
江花部長「やらねばならない」という考え方から、「やりたいことをやる」という考え方に転換していくことです。
一方、うつ病の患者に対して、お酒を飲んで励ますというのは最悪といえます。
江花部長「気晴らしに温泉や旅行に連れ出したりするのもよくありません」
うつ病はストレスが溜まったから生じるのではありません。元気の素であるガソリンがなくなったから、発病したのです。ストレスの発散・解消という行動は疲れるだけで、うつ病を悪化させる要因となってしまうのです。
脳の疲れをとる抗うつ薬。医師の指示通りに服用すれば、副作用の少ないSSRI
江花部長「心が疲れているときは脳も疲れています。脳の疲れをとるのが抗うつ薬などによる薬物療法で、第2の治療のポイントです」
もう少し詳しく解説すると、脳は1000億以上の神経細胞の塊で、個々の神経細胞から神経繊維が伸び、神経繊維と神経繊維の隙間をシナプスと呼びます。シナプスは神経伝達物質によって情報が伝えられ、複雑な神経ネットワークを構成しています。数多くの種類の神経伝達物質がありますが、その中の一つであるセロトニンやノルアドレナリンの不足がうつ病の発病に大きく関係していると考えられています。
江花部長「セロトニンは気分や感情を安定させ、心の不安をとどめる働きがあります。ノルアドレナリンは心を元気にしたり、活力をアップさせたりする作用があります。抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリンの不足を補い、うつ病からの回復を助ける薬なのです」
抗うつ薬には1950年代から使われている三環系抗うつ薬と、60年代に開発された四環系抗うつ薬、SSRI、SNRIなどいくつかのタイプがあります。三環系抗うつ薬と四環系抗うつ薬は以前から長く使用されてきましたが、セロトニンやノルアドレナリンだけでなく、ほかの神経伝達物質などにも作用するため、口の渇きや動悸、便秘、眼のかすみ、全身倦怠感、眠気、体重増加、めまいなどのさまざまな副作用が生じます。
一方、SSRIは「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」というのが正式名称で、セロトニンのみを増やします。口渇感や便秘、全身倦怠感、眠気などの副作用が出にくく、長期に服用しても安全性が高いといわれています。
SNRIは「選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」というのが正式な名前で、セロトニンとノルアドレナリンの2つだけに作用して両者を増やします。SSRIより副作用があるものの、三環系抗うつ薬より口渇感や便秘、全身倦怠感などの副作用が少ないと考えられています。
江花部長「最近は副作用の少ないSSRIがもっともよく使われています。日本では『ルボックス』(アステラス製薬)、『デプロメール』(明治製菓)、『パキシル』(グラクソ・スミスクライン)の3種類が認可されています」
SNRIは「トレドミン」(旭化成、ヤンセン協和)が使用されていますが、意気消沈がひどく、気力を先に持ちあげる必要があるときなどは、まずSNRIが処方されます。
江花部長「心の休養を十分にとるだけでもうつ病はかなり治りますが、抗うつ薬を使用すると治療期間が3分の1から2分の1に短縮されるのです」
主治医の指示通りに服用すれば、副作用も軽微にとどめられ、安全な薬といえます。
具合の悪いことを素直に明かし、気楽に援助を求め、こころよく援助を受けること
うつ病の治療の第3のポイントは周りの人からのサポートを受けることです。患者本人は拒否的な態度をとらないことが大切です。
江花部長「『人に助けてもらったらすまない』という気持ちではなく、『助けてもらってありがたい』という気持ちを持つことが重要です。本調子に戻ったら仕事で返せばよいのですから……」
可能であれば、うつ病であることをカミングアウトしたほうがよいでしょう。もともとうつ病の人は仕事もできて、信頼されていることが多いのですから、周りの人から援助を受けやすいのです。
「ちょっと具合が悪いんだよ」
「手持ちの分を片づけてからでいいかなぁ」
と素直に自分の具合が悪いことを明かして、援助を求めることが必要です。
江花部長「(1)心の休養と、(2)抗うつ薬の服用、(3)サポートを受けるという3つの治療をきちんと受ければ、3ヵ月で半分の患者さんがうつ病から立ち直れます。半年で7割の患者が治ります」
うつ病は心の病気の中でもっとも治りやすい病といえます。早期に治療を受ければ受けるほど治りやすい病気なのです。
うつ病と思ったら、ためらわずに精神科や心療内科を受診するようにしてください。

江花昭一(えばな しょういち)部長
横浜労災病院心療内科
福島県生まれ。東北大学医学部卒業後、日本大学医学部第1内科助手、埼玉県東松山市民病院内科医長、横浜労災病院心療内科医長を経て現職に。ストレスから生じる「心が絡む身体の病気」の専門医として広く知られている。うつ病の診断・治療にも精通し、家庭や職場におけるメンタルヘルスケアの必要性を訴えてきた。『よくわかる心療内科』(金原出版)、『心の疲れを楽にする50のヒント』(編著、ぎょうせい)、『心療内科の時代』(ちくま新書)など著書多数。
※掲載内容は2006年3月の情報です。
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治療の意味がよくわかった
Posted on 2011.05.7 1:08:12 by 一言感想
服薬に少し不安をもっていましたが安心して飲んで、もっといっぱい笑える自分に戻りたい。
Posted on 2011.02.26 23:53:50 by 一言感想
うつ病かも・・・と、色々検索中に読ませていただきました。
Posted on 2010.12.28 12:00:28 by 一言感想
先日は小机センターの講演に参加しました。よいお話有難うございました。用事があり、後半聞け無かった事が心残りです。このサイトをお気に入りに入れます。
Posted on 2010.11.17 10:20:36 by 一言感想
自分が今ウツなのでとても参考になりました。
Posted on 2010.11.1 4:28:03 by 一言感想
薬は重度の人しか効かないという発表がアメリカでされました。心理療法が有効と言われる今、もう少し視野を広めた情報が欲しかったです。
Posted on 2010.09.6 15:20:31 by 一言感想
ありがとうございました。病院で診てもらうようにしたいです
Posted on 2010.06.18 8:09:23 by 一言感想
取材協力/江花昭一部長・横浜労災病院心療内科








うつ病を患っている家族お世話をしているうちに自分も変な症状が出てきて(食欲不振・脱力感)お医者さんに相談するかどうか迷ったが、相談しに行く気になりました。
Posted on 2012.01.2 0:17:24 by 一言感想