前立腺肥大症は男性に運命づけられた病気~おしっこに勢いがなくなったら前立腺肥大症を疑おう~

[教えて!ドクター] 2010/07/02[金]

諦めてはいけない 排尿障害は解消できる!

男性にとって避けられない排尿障害の原因=前立腺肥大症
取材協力/滝本至得教授・駿河台日本大学病院泌尿器科
取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト

カルナの豆知識2007年2・3月号特集より

男性にとって避けられない排尿障害の原因
=前立腺肥大症

 「夜、頻繁にトイレへ行くようになった」
 「おしっこがすぐに出ない」
 「おしっこが終わるまで時間がかかる」
 「排尿後もすっきりしない。膀胱に尿が残っているような感じがする」
 50歳になるとおしっこに関する、こんな悩みを訴える男性が急増してきます。男性特有の器官である前立腺の肥大から生じるさまざまな排尿障害の1つで、年を重ねるごとに増えていきます。
 「前立腺は膀胱の真下にあり、その中心部を尿道が貫通しています。年をとると前立腺の中にこぶ(良性腫瘍)が発生し、こぶの発育によって前立腺が肥大していきます。夜間頻尿や排尿困難などの症状は、前立腺の肥大によってその中を通る尿道が圧迫され、スムーズな排尿を妨げることから生じるのです」と、駿河台日本大学病院の滝本至得教授(泌尿器科)は指摘します。
 実際、40歳代の前立腺はクルミ大のサイズで、重さも約15gしかありません。しかし、年とともに次第に大きくなり、それにつれて前立腺の中心部を通っている尿道への圧迫が強まり、さまざまな前立腺肥大症の症状が引き起こされるのです。
 いまや50歳以上の男性の3~4人に1人は排尿の悩みを抱えています。前立腺肥大症は一大国民病といえるでしょう。

蓄尿時は交感神経、排尿時は副交感神経が作用

 前立腺肥大症によるさまざまな症状は、前立腺の肥大によって尿道が圧迫されることから生じると先述しましたが、それだけではありません。前立腺の肥大によって、おしっこをコントロールする自律神経が、スムーズに切り替わらなくなることも大きな要因です。
 ご存じのように前立腺は精液の一部(前立腺液)をつくる臓器ですが、おしっこの出方をコントロールする役割も担っています。
 滝本教授「腎臓でつくられたおしっこは、尿管を下って膀胱に入り、膀胱が風船のようにふくらんで蓄尿されます。ある程度蓄尿されると膀胱壁に圧力がかかり、尿意をもよおします。そして、尿道を囲む前立腺や尿道括約筋がゆるみ、膀胱の収縮によって尿が押し出されて排尿されるのです」
 膀胱の蓄尿と排尿のメカニズムは、交感神経と副交感神経の2つの神経からなる、自律神経によってコントロールされています。
 滝本教授「蓄尿時には、交感神経が働いて膀胱をふくらます一方、前立腺を緊張させて尿道を狭くすると同時に、尿道括約筋を収縮させて尿が漏れ出ないようにします」
 逆に、排尿時には副交感神経が働いて膀胱を収縮させる一方、前立腺を弛緩させて尿道を広げると同時に、尿道括約筋をゆるめて尿を排出させます。
 いわば膀胱は「ポンプ」、尿道括約筋は「バルブ」、尿道は「ホース」にたとえられ、その中で前立腺は「調節バルブ」のような役割を担い、交感神経と副交感神経の下に蓄尿と排尿がコントロールされているのです。

交感神経を過敏にさせる前立腺のα1受容体の増大

 ところで、前立腺の構造は「外腺(周辺ゾーン)」と「内腺(移行・中心ゾーン)」の2つに大きく分けられます。果物のミカンとよく似ており、ミカンの「皮」にあたるところが外腺、ミカンの「房」にあたるところが内腺で、内腺の真ん中を尿道が通っています。
 前立腺の内腺の25~40%は平滑筋という筋肉からできており、この平滑筋の細胞にα1受容体が存在します。α1受容体に刺激が加わると交感神経が緊張し、前立腺は収縮して尿道を狭めて締めつけます。
 滝本教授「前立腺肥大症によるこぶができるのは、この内腺です。こぶの発育から内腺が肥大すると平滑筋細胞は増大し、α1受容体も増えていきます。α1受容体が増えた分だけ交感神経は敏感となり、前立腺が収縮し尿道を圧迫しやすくなるのです」
 やたらに前立腺の交感神経が過敏になりすぎると、蓄尿から排尿への自律神経の切り替えがスムーズにいかなくなります。
 滝本教授「すなわち、排尿するときは交感神経から副交感神経に切り替わるのですが、前立腺だけは交感神経に敏感になりすぎていることから副交感神経になかなか切り替わらず、尿道を締め続けてしまうのです」
 その結果、いつまでも交感神経と前立腺の緊張がゆるまないために尿道は圧迫され続け、おしっこが出にくくなったり、膀胱にたまった尿がすべて排出できず残尿感を覚えたりするなどのさまざまな症状が現れるのです。

3段階に分けられる前立腺肥大症の進行病期

 前立腺肥大症による排尿障害やその程度は、1人ひとりの患者さんごとに異なります。かならずしも、前立腺の肥大が大きいほど症状も強く現れるというわけではありません。前立腺の肥大が小さくても、前立腺の尿道を締めつける力が強ければおしっこの出は悪くなります。逆に、前立腺の肥大が大きくても、前立腺の尿道を締めつける力が弱ければ軽微な症状にとどまることもあります。
 滝本教授「尿道のどの部分が前立腺に圧迫されるのかによっても症状やその程度が異なってきます。たとえば、膀胱の出口のところを圧迫されると症状が強く出ます」
 前立腺肥大症は、おおよそ3つの段階を経て進行していきます。
 第1段階は刺激期で、大きくなり始めた前立腺が膀胱の出口を刺激する時期です。夜、2回以上トイレに立つといった夜間頻尿をはじめ、排尿開始まで時間がかかったり、尿線が細く勢いがなくなったり、おしっこが間に合わずに漏らしたりします。

症状の程度が判定できる国際前立腺症状スコアで

 前立腺肥大症の第2段階は残尿発生期で、膀胱の筋肉が弱って尿をすべて排出できない時期です。1回の排尿では、わずかなおしっこしか出ないので残尿感を覚えたり、おしっこが終わった後にチョロッとパンツの中に漏らしたりします。ときにはおしっこを出したくてたまらないのに、一滴も出ない急性尿閉を起こしたりします。
 滝本教授「急性尿閉は飲酒や寒さ、刺激性の食べ物、極度の緊張などがきっかけに生じます。ひどい痛みと苦しさにのたうちまわり、救急車で病院へ運ばれてくる患者さんが後を絶ちません。尿道へカテーテル(細い管)を挿し入れて排尿すれば嘘のようにすっきりするものの、強い恐怖感が残ります」
 第3段階は慢性尿閉期で、膀胱の収縮力は弱り、前立腺がしっかりと尿道を挟み、トイレでいきんでみてもなかなか排尿できない時期です。頻尿が激しくなるのをはじめ、膀胱がおしっこで満杯となり気がつかないうちにダラダラと漏れ出す溢流性尿失禁を起こしたり、おしっこが尿管や腎臓へ逆流して水腎症から腎不全に至り、重大な生命の危機を招いたりします。
 前立腺肥大症による症状は、国際前立腺症状スコア(I-PSS)で判定します。7つの症状ごとにその程度を6段階(0~5)で評価し、合計点数で1人ひとりの患者さんの前立腺肥大症の症状の程度を判定するのです。初診のときはもちろん、治療の途中や治療後もI‐PSSで判定し、症状の改善具合をしっかりと確認するとよいでしょう。

α1ブロッカーによる薬物療法が第1選択肢の治療法

 前立腺肥大症は前立腺がん(悪性腫瘍)と異なり、良性腫瘍による疾患です。良性腫瘍から悪性腫瘍に変化することもなく、慢性尿閉期まで進行しない限り、生命にかかわることはほとんどありません。従って、前立腺肥大症の治療は症状の改善をはかり、排尿障害などによる生活の質(QOL)の低下を防ぐことが主な目的となります。
 滝本教授「前立腺肥大症の治療は薬物療法と手術の2つに大きく分けられます。症状が軽いうちは薬による薬物療法を行い、薬物療法だけでは症状の改善がはかれず、急性尿閉などを繰り返した場合に手術を行います」
 前立腺肥大症の治療に用いる薬としては、α1ブロッカーや抗男性ホルモン薬、漢方薬・生薬などがあります。
 α1ブロッカーは、前立腺の平滑筋細胞に存在するα1受容体をブロックし、交感神経と前立腺の緊張をゆるめ、尿道への圧迫を妨げる薬です。「ハルナール」(商品名、以下同)や「アビショット」「エブランチル」「フリパス」「ユリーフ」などが用いられています。
 滝本教授「現在、α1ブロッカーはさまざまな症状がとれるため、前立腺肥大症の第1選択肢の薬とされています。かつてより前立腺肥大症の手術は大きく減りましたが、α1ブロッカーによって症状の改善がはかれるようになったからです」
 ただし、α1ブロッカーは肥大した前立腺を縮小させたり、その肥大を抑えたりすることはできません。年とともに前立腺が肥大してくると、しばしば症状が抑えられなくなります。どのくらいの期間、α1ブロッカーが効くのかは個々の患者さんごとに異なります。
 滝本教授「また、α1ブロッカーは副作用の少ない薬ですが、血圧を低下させるという副作用があります。降圧剤を服用中の高血圧の患者さんが、α1ブロッカーを併用すると、血圧を下げすぎてしまうことも少なくありません。降圧剤を服用している場合、かならずそのことを主治医に伝えておく必要があります」
 また、α1Aに選択性の高い薬(α1ブロッカー)では精嚢の弛緩による射精障害が起こることも報告されています。
 抗男性ホルモン薬は、前立腺の肥大を抑えたり、肥大した前立腺を縮小させたりして症状の軽減をはかろうとする薬です。男性ホルモンが前立腺の肥大に大きくかかわっているため、この男性ホルモンの働きを妨げることで前立腺の肥大が抑えられたり縮小したりするのです。「プロスタール」「パーセリン」「ペリアス」などが用いられます。
 前立腺肥大症に使用される漢方・生薬としては、「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」や「八味地黄丸(はちみじおうがん)」「エビプロスタット(生薬配合剤)」などがあります。肥大した前立腺はその周囲粘膜にむくみや炎症などを起こしたりするのですが、それらを抑える効果があります。

経尿道的前立腺切除術がもっともポピュラーな手術

 前立腺肥大症の手術には、経尿道的前立腺切除術や開腹手術、尿道ステント術、高温度療法などがあります。その中で経尿道的前立腺切除術がもっともポピュラーな前立腺肥大症の手術として定着しています。
 滝本教授「経尿道的前立腺切除術は、尿道に内視鏡を挿入し、肥大した前立腺を内側から切除する手術です。切除する手段によっていろいろな方法がありますが、電気メスで肥大した前立腺を削り取るTURPがゴールデンスタンダード(主流)とされています」
 最近ではほかに、ホルミウム・ヤグレーザーを用いて前立腺を切り取る前立腺核出術(HoLEP)や、同じくホルミウム・ヤグレーザーで前立腺を蒸散させる前立腺蒸散術(HoLAP)なども行われています。
 滝本教授「電気メスを用いるTURPは、灌流液(かんりゅうえき)で患部を洗いながら前立腺を少しずつ削り取っていきます。前立腺を削りとった瞬間に出血するものの、ただちに止血も行われることからわずかな出血量にとどまります」
 TURPの対象となるのは30~50gまでの前立腺です。それ以上のサイズの前立腺の場合、手術時間が1時間以上となるため後述する開腹手術など他の治療法が行われることが多いといえます。1時間以上を要するTURPは体内に灌流液が吸収され、水分過剰状態から肺水腫や心不全を招くこともあるからです。
 「TURPは術後5~7日間、カテーテルを尿道から膀胱へ挿入しておく必要がありますから、その間は病院へ入院してもらいます。日帰りのTURPも行われていますが、同じようにカテーテルを挿入しておかなければならないので、翌日から会社へ出勤できるというわけではありません」

TURPなどができない場合は尿道ステント術を

 前立腺肥大症の開腹手術は、お腹を開いて前立腺の内腺を切除する手術です。100g以上に肥大した前立腺は、開腹手術で切除するのが基本です。開腹手術は2~3週間の入院が必要となりますが、しばしば症状が劇的に改善します。
 TURPや開腹手術の副作用としては尿失禁や、精液が膀胱内に射出される逆行性射精、あるいはインポテンスなどがあげられます。尿失禁などはそのほとんどが術後、時間の経過とともに改善しますが、逆行性射精やインポテンスは後遺症として残ることが多いといえます。
 尿道ステント術は直径7~8mmの円筒形のコイル(ステント)を前立腺に挟まれた尿道に置き、おしっこの流れをよくしようとする手術です。
 高温度治療は前立腺をマイクロ波やラジオ波などで45℃以上の高温度に加熱し、組織に凝固壊死を引き起こして前立腺を縮小させる治療です。
 滝本教授「尿道ステント術や高温度治療は肉体的負担が少ないため、高齢や糖尿病などでTURPや開腹手術を受けられない患者さんに行うものです」
 前立腺肥大症の治療法としては、このほかにもいくつかのバリエーションがあります。1つひとつの治療法の特長をはじめ、副作用や後遺症、どれくらい治療効果が持続するのかなどについて医師から説明を受け、もっとも適切な治療法を選ぶことが大切です。

滝本 至得教授(たきもと ゆきえ)教授
1965年日本大学医学部卒業後、同大学院医学研究科へ。70年日大医学部附属病院泌尿器科、74年同泌尿器科専任講師、78年同泌尿器科助教授、95年同泌尿器科教授、同年駿河台日本大学病院副病院長、03年から現職。専門は尿路再建術、神経泌尿器科学、性機能障害など。著書として「尿路再建」(『骨盤外科』日本医歯薬出版)、「機能性インポテンスの薬物療法」(『性機能障害』南山堂)「尿失禁」(『今日の治療指針』医学書院)など多数。日本排尿機能学会理事、日本性機能学会理事、日本泌尿器学会専門医試験委員などを務めると同時に、日本排尿機能学会会長を歴任し、わが国を代表する泌尿器科医の1人として知られている。

※掲載内容は2007年2月の情報です。

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