要注意!いきなり慢性肝炎から肝がんを発病させる人も
慢性肝炎患者の年齢は過去30年間で16歳上昇し、50歳から66歳に
取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト
カルナの豆知識2007年4/5月号特集より
感染していることに気づいていない患者が多いC型慢性肝炎
肝炎とは、なんらかの原因で肝臓に炎症が起こる病気です。炎症が生じると肝細胞は破壊され、それが1~2ヵ月以内で治るものを急性肝炎、6ヵ月以上続くものを慢性肝炎といいます。
「慢性肝炎のほとんどは肝炎ウイルスが原因で、肝臓の細胞に何十年間もウイルス感染が持続することから生じます。その代表的なものが、C型肝炎ウイルスによって起こるC型慢性肝炎で、慢性肝炎全体の8割以上を占めます」
と、虎の門病院肝臓科の池田健次部長は指摘します。
現在、日本では150~200万人のC型慢性肝炎の患者がいる、と推定されています。
石川県の調査によると、C型肝炎ウイルスの感染者と診断されても、精密検査を受けない患者は3割にものぼります。しかも、せっかくC型慢性肝炎の治療を受けても、3年後には約半分の患者が病院に来なくなる、と報告されています。
まち構えている「肝臓がん」という真の病気
精密検査を受けなかったり、治療を継続できなかったりするC型慢性肝炎の患者が多いのは、その進行が非常にゆっくりとしていることや、「体がだるい」「疲れやすい」といった自覚症状がほとんど現れないからです。
「C型肝炎ウイルスによる炎症が続くと、肝臓の細胞は破壊されては再生し、その修復のために線維化が繰り返し生じます。そして、非常に長い時間をかけて線維化が進行するに従って肝臓は硬くなり、やがて凝り(結節)ができて肝硬変となります」(池田部長)
厄介なのは肝硬変となっても症状が現れず、C型肝炎ウイルスに感染していることに気づかないまま、普通の生活を送っている方も少なからずいるということです。
「しかし、C型肝炎ウイルスが駆除されない限り、慢性肝炎や肝硬変は進行し続け、その行き着く先に『肝臓がん』という真の病気が待ちかまえているところに大きな問題があるのです」(池田部長)
慢性肝炎から肝がん発病ま平均期間は35年
わが国では1975年以降、肝がんの発生がうなぎのぼりに急増し、いまや年間の死亡者数は3万5000人近くにのぼっています。肺がん、胃がん、大腸がんに次いでがん死の第4位を占め、おそらく2010年まではこのピークの状態が続くと予想されています。
「肝がんの5年生存率は40数%です。『肝がんになったら半年の命』といわれたのは昔の話ですが、それでも発がん後3年くらいで亡くなるケースが少なくありません」(池田部長)
C型肝炎ウイルスに感染してから、肝臓がんを発病するまでの平均期間は35年といわれています。通常、①軽度慢性肝炎→②中等度慢性肝炎→③重度慢性肝炎→④肝硬変→⑤肝がんへと至ります。ただし、個 人差が大きく、進行が早い患者は10~20年で肝がんとなるケースもあります。一方、若い時期に感染し、50年経っても発病しない患者もいます。
「最近は肝硬変をスキップし、いきなり慢性肝炎から肝がんを発病させてしまう高齢の患者さんもいらっしゃいます」(池田部長)
治療成績を飛躍的に向上させたペグインターフェロン+リバビリン併用療法
C型慢性肝炎の治療法は、2004年にペグインターフェロン+リバビリンの2剤併用療法が保険適用され、飛躍的に進歩しました。
「C型慢性肝炎はC型肝炎ウイルスを体内から駆除すれば治癒します。ペグインターフェロン+リバビリン併用療法は、日本人に多い難治性の『1b型高ウイルス量』タイプの肝炎でも、45~50%の非常 に高い確率でウイルスが駆除できるようになったのです」(池田部長)
ペグインターフェロン(商品名ペグイントロン、ペガシス)はC型肝炎ウイルスを体内から駆除するインターフェロンのもっとも新しいタイプの薬です。体内でゆっくり作用するようにつくられています。従来のインターフェロンの効果は投与後約20時間程度で消えてしまうのに、ペグインターフェロンの効果は約180時間持続するため、週1回の投与で十分な抗ウイルス作用が発揮されます。
リバビリン(商品名『レベトール』)は、もともとインフルエンザや帯状疱疹などの治療に用いられてきた経口のウイルス薬です。インターフェロンと一緒に用いると、それ単独よりもウイルス駆除効果 が2~3倍高められることから併用されるようになりました。
「ペグインターフェロンの注射を週1回受け、リバビリンを毎日2回服用する、これを1年間継続するのが現在の国際的標準治療法です」(池田部長)
「1b高ウイルス量」タイプでもウイルス駆除率が2倍以上に
一方、インターフェロンによるウイルスの駆除率は、C型肝炎ウイルスの種類と量によって異なります。
「日本人の患者のうちもっとも多いのがジェノタイプ1bといわれる種類のウイルスで、75%を占めます。次にジェノタイプ2aが22%、ジェノタイプ2bがほんのわずかです。始末に悪いのはインター フェロンが効きやすいのは2a、2bのタイプで、ジェノタイプ1bは効きにくいことです」(池田部長)
また、ウイルスの量が少なければ少ないほどインターフェロンは効きやすく、多ければ多いほど効きにくくなります。
実際、従来型インターフェロン+リバビリンの併用療法では、「2a」タイプのウイルス駆除率は80%、「1b低ウイルス量」タイプは40~60%にのぼるものの、「1b高ウイルス量」タイプはわずか20%にとどまっていたのです。
「ペグインターフェロン+リバビリン併用療法が画期的なのは、こうした限界を大きく突き破り、『1b高ウイルス量』タイプでもいっきに2倍以上(45~50%)の駆除率をあげたからなのです」(池田部長)
インターフェロンやリバビリンの副作用が出やすい高齢患者
インターフェロンはC型肝炎ウイルスを体内から駆除できる唯一の優れた薬ですが、難点は副作用が出やすいということです。
「インフルエンザのような症状をはじめ、ほぼ100%の患者に発熱が起こります。ほかに、ウツなどの精神症状や甲状腺機能異常、視力障害、脱毛などの副作用が出ることもあります」(池田部長)
ペグインターフェロン+リバビリン併用療法も例外ではありません。リバビリンの副作用である貧血や全身倦怠感などが加わることから、ペグインターフェロン+リバビリン併用療法を受ける際は治療に よるメリットと、副作用による生活の質(QOL)の低下などのデメリットについて、医師と十分に相談することが求められます。
「重要なのはここ30年間で、病院へ通院しているC型慢性肝炎の患者さんの年齢(中央値)が、50歳から66歳へと16歳も上昇していることです。日本社会全体が高齢化しているためですが、高齢になれば なるほどインターフェロンやリバビリンの副作用が現れやすくなります」(池田部長)
60歳以上のC型慢性肝炎の患者に対しては、ほんの少し前までインターフェロンによる治療を迷うことが少なくありませんでした。
慢性肝炎がそれほど進行していない高齢患者の場合、重度慢性肝炎↓肝硬変↓肝がんへと進行するまでに20年以上を要します。天寿をまっとうするまでに肝がんを発病させる可能性が少ないのであれば、な にもQOLを低下させるなどの副作用に耐えてインターフェロンによる治療を受ける必要はないからです。
60歳以上の患者でも血小板数が15万を切るならば併用療法がお勧め
慢性肝炎の進行の程度は、血小板の数によってわかります。
「健康な人の血小板は血液1ccあたり20万以上ありますが、C型慢性肝炎になると血小板数が下がり、その進行とともに低下していきます」(池田部長)
軽度慢性肝炎は血小板数がおおよそ17万以上、中等度慢性肝炎は15万以上、重度慢性肝炎は13万以上、肝硬変になると10万以下になります。血小板が15万を切ると発がんの可能性は一挙に高まり、肝がん発病の高危険群と考えられます。
「最近の研究では60歳以上の患者さんでも、血小板数が15万以上の中等度慢性肝炎ならば、ペグインターフェロン+リバビリン併用療法を受けたほうがよいとされています。まして血小板数が15万を切る発がん高危険群の患者さんは、インターフェロンによる治療によって予後が大きく改善される可能性があります」(池田部長)
池田部長がこう指摘するのは、60歳以降、C型慢性肝炎の進行が加速されがちであるというデータが発表されているからです。加えて、60歳以上の患者の場合、肝硬変を経ないで、いきなり慢性肝炎から 肝がんを発病させる患者が増えていることも大きな理由です。
ただし、65歳を超えると副作用が強く現れるため、よほど体力的に若いとか、どうしても受けたいと望む患者以外に、ペグインターフェロン+リバビリン併用療法を行うことは滅多にありません。行う場合も投与量を減らしたり、ペグインターフェロンのみの投与にしたりするなど工夫しながら進めます。
3カ月以内のウイルス消失なら、70~75%の確率でウイルス駆除に成功する
ペグインターフェロン+リバビリン併用療法は、治療開始から2週間まで入院して行い、その後は外来で継続します。1年間の治療期間の途中で、体内からウイルスを駆除できるか否かの、おおよその判断がつけられます。
「なによりも治療開始3ヵ月以内にC型肝炎ウイルスが消失した患者の場合、70~75%の確率で体内からウイルスを駆除することができます」(池田部長)
一方、ウイルスが消失するまでに治療開始から3~6ヵ月を要した患者の場合、ウイルスの駆除率は20~30%に落ちます。加えて、ウイルス消失まで6ヵ月以上を要した患者の場合、体内からウイルスを駆除することはほとんどできません。
C型肝炎ウイルスを体内から駆除できた場合、慢性肝炎は治癒し、肝がんの発病リスクも大幅に減らせます。しかし、ウイルスを完全に駆除できなくても、肝機能が正常化すれば慢性肝炎の進行は抑えられ発がんリスクも減らせます。
「ペグインターフェロン+リバビリン併用療法の優れているところは、ウイルスを駆除できなくても、従来のインターフェロン療法よりも肝機能の正常化する患者さんが多いことです」(池田部長)
いろいろな治療法が用意されている慢性肝炎
C型慢性肝炎に対する治療法は、ペグインターフェロン+リバビリン併用療法だけではありません。
「ウイルスを駆除できなかったり、インターフェロンによる副作用が強く現れてしまったりする患者さんには、ウルソデオキコール酸(商品名『ウルソ』)の服用や、グリチルリチン製剤(商品名『強力ネオミノファーゲンC』)の注射、あるいは献血の要領で血液を抜き、肝臓内の鉄分を減らす瀉血療法など、いろいろな治療法が用意されています」(池田部長)
いずれも、肝機能の改善によって慢性肝炎の進行を抑え、ひいては肝がんの発病を遅らせる治療法です。
C型慢性肝炎は自覚症状がきわめて乏しい病気です。日常生活で、とくに支障が出るということも多くありません。しかし、それが進行した先には「肝臓がん」という真の病気が控えています。C型慢性肝炎と診断されたら、かならず治療を受けることが大切です。
池田健次部長
虎の門病院肝臓科
いけだけんじ 1978年岐阜大学医学部卒業後、虎の門病院内科へ。84年虎の門病院消化器科を経て、現在、同病院肝臓科部長。慢性肝炎をはじめ、肝硬変、肝臓がんの診療・治療のスペシャリストとして広く知られ、患者サイドに立った丁寧な診療で多くの患者から慕われている。『B型慢性肝炎Q&A』(共著、医薬ジャーナル社)『肝細胞癌の予知・診断・治療―集学的治療の考え方とノウハウ』(メディカルレビュー社)など。
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