『年齢のせい」とは限らない』 肺の生活習慣病=COPDが急増中!

[教えて!ドクター] 2010/01/29[金]
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スパイロメーターによる肺機能検査が不可欠

取材協力/村田 朗・日本医科大学内科学
講座准教授・同大学呼吸ケアクリニック副所長
取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト

カルナの豆知識2007年8/9月号特集より

肺の中の空気の流れが悪くなるCOPD

 「COPD」という病気をご存じでしょうか。日本語では「慢性閉塞性肺疾患」といいます。呼吸の際、肺の中の空気の流れが慢性的に悪くなり、呼吸がしにくくなる病気のことです。
 ご存じのように肺の中は、枝分かれした細かな気管支と、数億個の肺胞で占められています。鼻や口から吸い込まれた空気は、気管や気管支などの気道を通って肺の中へ入ります。そして、行き着いたところの肺胞で血液中に酸素が取り込まれ、同時に血液中から二酸化炭素が放出されてガス交換を行います。
 「しかし、COPDになると肺胞と気管支の壁に炎症が生じ、肺胞の壁は破壊され、気管支の壁も厚く腫れてきます。肺胞の壁が破壊されると、数百から数千もの肺胞は1つにつながって袋状になり、弾力性を失って空気を十分に吐き出せなくなります。一方、気管支などの気道が厚く腫れると過剰に痰もつくられ、空気の通りが悪くなってしまうのです。両者が相まって体を動かしたときの息切れや咳、痰などの症状を招くのがCOPD(慢性閉塞性肺疾患)なのです」と指摘するのは日本医科大学呼吸ケアクリニックの村田朗副所長です。
 かつては肺胞の壁が炎症で破壊される病気を「肺気腫」、気管支の壁が炎症によって厚くなり、空気の流れを悪化させる病気を「慢性気管支炎」と呼んでいました。いずれもタバコが主な原因で、両者はしばしば混在し、気流制限を起こすことから、COPDとまとめて呼ばれるようになったのです。

息切れで生活が困難に 寝たきりになることも

 COPDが厄介なのは、動いたときの息切れなどで日常生活が困難となるからです。少し歩いただけで苦しくなり、近くの商店街へ買い物に行くのも難しくなります。
 村田副所長:「COPDが進行すると、呼吸すること自体に余分なエネルギーが必要となります。加えて、肺が膨らんで横隔膜が下がり、胃が圧迫されることから食事量も減っていきます。運動量の減少から食欲もなくなり、次第に痩せていく患者さんが少なくありません」
 患者の中には自宅に引き籠もりがちとなり、家の中でも動くのが苦しくなる人もいます。さらに悪化すると寝たきりとなってしまうこともあります。
 村田副所長:「COPDは動脈硬化の進行や骨粗鬆症、うつ病などの発生とも密接に関係しています。息苦しさだけではなく、全身的な病気になるところにCOPDの怖さがあります」

「年齢のせいではないか」と見過ごす患者が多い

 現在、COPDの患者数は、日本ではおよそ500万人以上と推測されています。そのうち病院やクリニックで治療を受けているのは20数万人にとどまっています。
 村田副所長:「なぜ、きちんと治療を受けている患者さんが1割にも満たないのかというと、『息切れは年齢のせいではないか?』と勘違いしてCOPDを見過ごしている患者さんが非常に多いからです」
 確かに年をとり、加齢現象の1つとして息切れも生じます。しかし、若い頃にタバコを吸ったことがあり、咳や痰も多いとなるとCOPDの可能性が大きくなります。
 村田副所長:「喫煙経験を持つ人のすべてが、COPDを発病するわけではありません。そのうちの15~20%の人がCOPDとなるのですが、COPDの患者さんの90~95%は喫煙経験を持っているのです」
 喫煙者はもちろん、かつて喫煙したことのある中高年は、息切れを覚えたら、一度は「COPDではないか」と病院やクリニックで確かめることが求められています。

スパイロメーターによる肺機能検査が決め手

 COPDの患者さんのほとんどは、咳や軽い息切れを覚えながら、息苦しさがひどくなるまで何年も放置しがちです。中には日常生活に支障をきたすほどひどくなって初めて受診し、その日から在宅酸素療法を勧められる重症の患者もいます。
 村田副所長:「今までにない息苦しさを覚えたり、咳が1カ月以上続いたりしたら、早めに病院やクリニックに受診し、COPDか否かを確かめる必要があります」
 病院などでは問診から始まり、喫煙歴や病歴、レントゲン検査などを受けますが、COPDか否かを判別するのはスパイロメーターによる肺機能検査が決め手となります。
 村田副所長:「肺機能検査は息を可能な限り吸いこんだあと、一気にスパイロメーターのマウスピース(筒)に息を吐き出す検査です。そして、最初の1秒間に吐き出した息の量(1秒量・FEV1)と、その『1秒量』が吐ききったあとのすべての息の量(努力性肺活量・FVC)の何%にあたるかという『1秒率』(FEV1/FVC)を測定し、COPDの診断に役立てます」

「1秒率」が70%未満ならCOPDと診断

 COPDの重症度は0期から4期の5段階の病期に分けられ、スパイロメーターによる肺機能検査によって、COPDか否かの診断とCOPDの病期が決められます。
 スパイロメーターの「1秒率」の測定値が70%以上の場合、肺機能は正常で0期と判定されます。今のところ肺機能に異常は認められないものの、咳や痰などの慢性症状を有するため、将来、COPDに進展する可能性がある状態と考えられるわけです。
 村田副所長:「『1秒率』が70%未満の場合、COPDと診断されます。そして、『1秒量』の多寡によって1期(軽症)、2期(中等症)、3期(重症)、4期(最重症)の病期に分類されます」
 COPDの病期が決まったら、病期ごとの推奨される治療法を軸に、個々の患者にもっとも適切な治療の計画が立てられます。

症状が喘息と酷似 スパイロメーターで判別を

 気をつけなければならないのは、COPDなのに気管支喘息と誤診される患者が少なくないことです。
 村田副所長:「COPDと喘息はいずれも気道が閉塞する病気です。COPDが悪化すると喘息と同じように胸のあたりが『ヒューヒュー』と鳴ります。しかも喘息の薬でCOPDの症状も改善するものですから、てっきり喘息と勘違いしてしまうのです」
 しかし、喘息と間違われると、COPDの進行は見逃されてしまいます。そして、COPDと気づいたときは、かなり重症化していたという患者が後を絶たないのです。
 村田副所長:「スパイロメーターは早期の段階でも、COPDと喘息を明確に判別することができます」
 喘息と誤診されないためにも、スパイロメーターによる肺機能検査は不可欠なものといえるでしょう。

治療によって症状の改善とよりよい生活が可能になる

 喫煙者の場合、COPDの治療でもっとも重要なのは禁煙です。
 「今さら禁煙しても仕方がない」と思うかもしれませんが、決してそうではありません。たとえ長期間タバコを吸い続けてきた人でも、禁煙によって症状の改善がはかれます。
 村田副所長:「最近はニコチンガムやニコチンパッチを用いたニコチン代替療法が、禁煙の成功率を飛躍的に高めています」
 ぜひ医師と密接に連携し、禁煙に向けて敢然と挑戦することが求められます。
 COPDの治療目的は、病気の進行を食い止め、日常生活の質(QOL)を高めることです。一旦、炎症で壊れた肺胞などは修復されないものの、治療によって症状の改善がはかられ、より良い生活を送れるようになるのです。
 村田副所長:「COPDに対する治療方法は、運動療法や栄養指導、呼吸理学療法、酸素療法、日常生活の指導など多岐にわたりますが、その基軸となるのは薬による薬物療法です」
 薬物療法はCOPDの病期によって、もっとも適切な薬を使用することで進められます。

生活の質を維持し高める抗コリン薬などの吸入

 薬物療法は気管支拡張薬やステロイド薬などの吸入薬による、治療が第一選択肢の治療法です。
 気管支拡張薬は気管支を広げ、少しでも呼吸を楽にする薬です。抗コリン薬とβ2刺激薬、メチルキサンチン薬の3種類に大きく分けられます。
 村田副所長:「抗コリン薬は気管支を収縮させるアセチルコリンの働きを抑える薬です。吸入後約30~90分で効果が現れ始め、穏やかに作用するのが特長です。最近は『スピリーバ』(一般名チオトロピウム)など1日1回吸入するだけですむ長時間作用型抗コリン薬が使用できるようになり、患者さんのQOLの向上に役立っています」
 ただし、前立腺肥大症や緑内障を悪化させることがありますから注意が必要です。
 β2刺激薬は肺の中の気管支を拡張させる薬で、抗コリン薬と同等の効果があります。吸入後15~20分で効果を示す速効性に特長があります。短時間作用型である「サルタノール」「メプチン」や長時間作用型である「セレベント」、貼付薬である「ホクナリンテープ」などが販売されています。
 メチルキサンチン薬は、ゆっくり効いてくる経口の気管支拡張薬です。

医師と連携し、きちんと管理していくことが大切

 ステロイド薬は気管支を広げる作用と同時に、強力に炎症を鎮め、気管支の粘膜のむくみを減らす作用があり、急性増悪を繰り返すような3期(重症)以上の場合に適応になります。「フルタイド」などが使用されています。
 村田副所長:「最近はステロイドと気管支拡張薬(β2刺激薬)の2種類の薬が配合された『アドエア』という合剤も発売されました。患者さんは2種類の薬を一度に吸入できるため、利便性も高まっています」
 ちなみに「アドエア」は「フルタイド」と「セレベント」の合剤です。
 また、一日一回の吸入ステロイド薬である「オルベスコ」も発売されました。ステロイド薬には吸入薬のほかに、口から服用する経口のステロイド薬もあります。しかし、吸入ステロイド薬と比べ副作用も強いので、できるだけ短期間の使用にとどめることが大切です。
 COPDの薬としては、ほかに痰を出しやすくする去痰薬や、感染を予防するためのインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン、細菌感染の際の抗生物質などが用いられることもあります。
 世界保健機関(WHO)によると、COPDによる死亡者(2004年)は、(1)心筋梗塞などの虚血性心疾患、(2)脳卒中、(3)肺炎に次いで第4位にランクされています。そして、2020年には肺炎を抜き、第3位にランクされるだろうと予測されています。
 COPDは肺の生活習慣病です。薬物療法を軸としたさまざまな治療法でQOLを維持し、高めることができます。医師と連携し、きちんと管理していくことが切実に求められています。


村田 朗(むらた あきら)
日本医科大学内科学講座(呼吸器・感染・腫瘍部門)准教授
日本医科大学呼吸ケアクリニック副所長

1983年日本医科大学卒業後、89年同大学院卒業後、同大呼吸器内科助手、97年同大呼吸器内科講師、02年同大呼吸ケアクリニック副所長、2007年同大呼吸器内科准教授。COPDの診断・治療のエキスパートであり、新進気鋭の研究者として広く知られている。『たばこ好きが危ない! COPDの早期発見と治し方』、(共著、主婦と生活社)、『血液ガステキスト』(共著、文光堂)。

※掲載内容は2007年7月の情報です。


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