花粉症の季節が再び到来!
花粉症の季節が再び到来!
いよいよ花粉症に悩まされる時期が到来しました。
「早いところでは2月の上旬から飛散し始め、5月の中旬までスギ花粉が飛び交います。この約3カ月間をどのように乗りきればいいのか。最新の医療情報で武装すれば、可能な限り症状を抑え、より快適に過ごすことができます」と、日本医科大学附属病院耳鼻咽喉科の大久保公裕助教授は指摘します。
スギ花粉症はスギ花粉によってもたらされるアレルギー性疾患の総称です。主にアレルギー性鼻炎とアレルギー性結膜炎を引き起こし、前者はくしゃみ、鼻水、鼻づまりが三大症状で、後者は眼のかゆみや涙目、眼の充血が生じます。ときには鼻づまりから頭痛を招いたりします。スギ花粉が鼻や眼から喉へ流れ、喉のかゆみや咳を引き起こし、ひどくなると微熱や全身倦怠感などの風邪症状を招いたりすることもあります。
くしゃみ・鼻水などを引き起こす、肥満細胞からの化学伝達物質の放出
ご存じのように、鼻は呼吸のための空気の吸入口で、吸いこんだ空気を温め、湿り気を与え、埃を除いてきれいにします。
大久保助教授:「鼻の穴の中(鼻腔)は血管の密集した粘膜に覆われ、その表面にはうぶ毛のような線毛が生えています。鼻の穴(鼻孔)に入ってきたスギ花粉は粘膜から分泌される粘液にとらえられ、線毛の働きによって鼻孔の外か、喉の方向へ運ばれて除かれます」
しかし、線毛によって除去されきれなかったスギ花粉は、アレルギーの原因となる「抗原」と呼ばれるタンパク成分を鼻粘膜に浸透させます。この抗原は白血球の一種であるマクロファージによって貪食され、その情報がT細胞(白血球の一種)からB細胞(同)へ送られます。
大久保助教授:「B細胞は、スギ花粉の抗原にピッタリと合う「抗体」(スギ特異的IgE抗体)を大量につくり、このスギ特異的IgE抗体が肥満細胞の細胞膜表面に結合します。肥満細胞は鼻の粘膜や眼の結膜をはじめ体のどこにでも存在する細胞で、IgE抗体と肥満細胞が結合した状態を『感作』といいます」
一旦、感作が生じたら、肥満細胞と一体となったスギ特異的IgE抗体は、鼻や眼の中に入ってきたスギ花粉の抗原を素早くつかまえるようになります。それがスイッチとなって肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が体内へ放出され、くしゃみ・鼻水・鼻づまりや、眼の痒み・涙目・眼の充血などのアレルギー症状が引き起こされるのです。
症状の程度によって適切な対処療法を
アレルギー症状は、スギ花粉が鼻や眼に入ったらすぐに生じる「即時相反応」と、即時相反応の6~8時間後に生じる「遅発相反応」の2段階によって引き起こされます。
大久保助教授:「即時相反応は、肥満細胞から放出される化学伝達物質のうちのヒスタミンなどが中心となり、くしゃみや鼻水などを起こします。遅発相反応はロイコトリエンなどの化学伝達物質が軸となり、鼻づまりなどを引き起こします」
アレルギー症状が起きる時期は、個々の患者ごとに異なります。スギ花粉が飛び始めるとすぐに症状が現れる人もいれば、たくさんのスギ花粉が飛ばないと症状が出ない人もいます。
症状の程度もさまざまで、症状の軽い人もいれば症状の重い人もいます。飛散するスギ花粉の多寡によって症状の程度も変わってきますから、スギ花粉の飛散数が少ない年は症状がまったく出ない患者もいます。
大久保助教授:「現在、スギ花粉症によるアレルギー性鼻炎の症状は、(1)軽症、(2)中等症、(3)重症、(4)最重症の4段階に分けられています」
症状の程度によって適切な対症療法を行うことで、より快適な生活を送ることができます。

第一世代抗ヒスタミン薬は即効性を有するが、眠気などの副作用も大きい
スギ花粉症の治療法としては、症状を抑える対症療法と、治癒を目的とした根治療法があります。
軽症のスギ花粉症の場合、化学伝達物質遊離抑制薬(酸性系抗アレルギー剤)と抗ヒスタミン薬(第一世代抗ヒスタミン薬)などによる対症療法で十分に症状が抑えられます。
大久保助教授:「化学伝達物質遊離抑制薬は、肥満細胞からの化学伝達物質の放出を抑えるために『肥満細胞安定薬』とも呼ばれます。即効性はありませんが、眠気などの副作用もありません」
化学伝達物質遊離抑制薬は狭義の意味の抗アレルギー薬で、トラニラスト(商品名「リザベン」)やペミロラストカリウム(同「アレギサール」「ペミラストン」)などの経口薬と、クリモグリク酸ナトリウム(同「インタール」)などの点鼻噴霧薬があります。
一方、肥満細胞から放出される化学伝達物質のひとつであるヒスタミンは、鼻粘膜中のヒスタミン受容体と結合してくしゃみや鼻水を起こします。しかし、第一世代抗ヒスタミン薬は両者の結合を阻害することで症状の発現を抑えます。
大久保助教授:「第一世代抗ヒスタミン薬はくしゃみや鼻水などの症状を素早く抑える即効性があります。ただし、眠気や喉の渇きなどの副作用も強く現れるのが難点です」
スギ花粉が飛散する2週間前から服用を始める初期療法
中等症以上のスギ花粉症の対症療法は、なによりもスギ花粉が飛散する2週間前から抗アレルギー薬を服用する初期療法が基軸となります。ここでいう抗アレルギー薬とは広義の意味のもので、先の化学伝達物質遊離抑制薬やロイコトリエンの作用を抑えるロイコトリエン拮抗薬のほかに、第一世代抗ヒスタミン薬より眠気などの副作用が弱く、化学伝達物質の放出を抑える作用を併せ持つ第二世代抗ヒスタミン薬(塩基性系抗アレルギー剤)などが含まれます。
大久保助教授:「現在、初期療法に用いられる抗アレルギー剤のほとんどは第二世代抗ヒスタミン薬です。肥満細胞からのヒスタミンなどの化学伝達物質の放出を抑えると同時に、あらかじめ鼻粘膜中のヒスタミン受容体に結合してしまいます。その結果、ヒスタミンが肥満細胞から鼻粘膜中に放出されても、ヒスタミン受容体と結合できないためにくしゃみや鼻水などの症状が発現しにくくなるのです」
実際、第二世代抗ヒスタミン薬を用いた初期療法は、ほとんどのスギ花粉症の患者に効果があります。とりわけ半数近くの患者に症状の軽減が認められるのは画期的といえます。また、鼻づまりを和らげるなど、ほかの治療薬の効き目がよくなったり、点鼻の使用回数が減らせたりするなどの効果を実感できる患者も少なくありません。中等症以上のスギ花粉症の場合、ぜひ初期療法を行うようにするとよいでしょう。
治療効果が不十分なときは薬を代えてみるのもひとつの方法
初期療法は、第二世代抗ヒスタミン薬などをスギ花粉の飛散開始2週間前から服用し始めます。そして、花粉が飛散している間は服用し続けます。
初期療法に用いる第二世代抗ヒスタミン薬は、メキタジン(商品名「ゼスラン」「ニポラジン」)、フマル酸エメダスチン(同「ダレン」「レミカット」)、塩酸エピナスチン(同「アレジオン」)、エバスチン(同「エバステル」)、塩酸オロパタジン(同「アレロック」)など数多くの種類があり、1日1回服用の薬と1日2回服用の経口薬があります。ほかに、1日4回鼻の中に噴霧する塩酸レボカバスチン(同「リボスチン」)という点鼻薬もあります。
大久保助教授:「数多くの種類がある第二世代抗ヒスタミン薬は、個々の薬ごとに治療効果や副作用の程度がそれぞれ異なります。あまり効かなかったり、眠気などの副作用が強く現れたりしたときは主治医と相談し、よりよい薬を処方してもらうようにするとよいでしょう」
副作用がほとんどない、点鼻噴霧用の局所ステロイド薬
初期療法だけでは症状が治まらないときは、点鼻噴霧用の局所ステロイド薬を併用します。点鼻噴霧用ステロイド薬は、くしゃみ・鼻水・鼻づまりに素早く効くので、中等症以上のスギ花粉症に対しては不可欠な薬といえます。プロピオン酸ベクロメタゾン(商品名「ベコナーゼ」「アルデシン」等)や、プロピオン酸フルチカゾン(同「フルナーゼ」)などの点鼻噴霧用ステロイド薬があります。
大久保助教授:「ステロイドと聞くと、副作用を心配される方もいらっしゃると思いますが、鼻へ噴霧する局所ステロイド薬は経口の全身ステロイド薬と異なり、体表のみで効果を示し血液中に入ることはないので副作用がほとんどありません。安心して使えるステロイドといえます」
点鼻噴霧用の局所ステロイド薬でも症状が治まらないときは、経口の全身ステロイド薬を服用します。かなり重症な鼻水や鼻づまりなどでも、経口の全身ステロイド薬ならばすみやかに解消できます。
大久保助教授:「ただし、わが国では花粉症の全身ステロイド薬として用いられているのは、ステロイド薬と抗ヒスタミン薬の合剤であるベタメタゾン・d-クロルフェニラミン合剤(商品名『セレスタミン』)です。これは優れた効果が認められる反面、ステロイド薬と抗ヒスタミン薬の両方の副作用が強く現れることもあります。長期の連用を避け、服用期間は2週間以内にとどめなければなりません」
ひどい鼻づまりのときは、硝酸ナファゾリン(商品名「プリビナ」)やエンサオキシメタゾリン(同「ナシビン」)などの点鼻噴霧用血管収縮薬を用います。
大久保助教授:「血管収縮薬は、交感神経の興奮を抑えることで血管を拡張し、鼻づまりを解消する薬です。使いすぎると薬剤に反応しなくなり、逆に血管を拡張させ続けて鼻づまりをひどくすることがありますから注意しなければなりません」
重要なのは、以上の薬を上手に使い分ければ、約7~8割の患者が花粉症の症状や薬の副作用に悩むこともなく、花粉症の季節を過ごせることです。
減感作療法は根治療法の主軸
花粉症の根治療法としては「減感作療法」があげられます。抗原特異的免疫療法とも呼ばれ、スギ花粉の抽出液(エキス)を体内に投与し、体をスギ花粉に慣らしていく治療法です。
減感作療法は当初、濃度の低いエキスから投与し始め、次第に濃度の高いエキスに代えていきます。
大久保助教授:「投与の頻度も最初の3カ月間は週に1回行い、次の2カ月間は2週間に1回の投与を行います。さらにその後は1カ月に1回の頻度で注射を続け、合計2年以上、スギ花粉のエキスの投与を行います」
減感作療法は体質を改善する治療法で、やめた後も効果が持続するのが特長です。治療効果も非常に高く、2年以上続けた患者のうち約60%の方が効果を持続させています。
ただし、減感作療法の大きな難点は、スギ花粉のエキスを注射で投与しなければならないことです。そのたびに病院やクリニックへ通院するのは大変で、途中でやめてしまう患者が後を絶ちませんでしたが、この難点を克服する新たな「舌下減感作療法」が登場し大きな注目を集めています。
患者にとって大きな福音となる舌下減感作療法
舌下減感作療法は、スギ花粉のエキスを口の中の舌下から体内へ吸収させ、従来の皮下注射による減感作療法と同じ効果が得られる治療法です。具体的には、1日1回パン片を舌下に置き、そのパン片にスギ花粉のエキスを点眼する要領で垂らし、2分間じっと待った後、飲み込んでしまえば投与は完了します。
大久保助教授:「最初の4週間は毎日投与しますが、それ以降は週に2回の投与となります。そして、さらに1~2週間に1回の投与へと間隔をあけて、合計2年間投与し続けます」
舌下減感作療法の利点は、患者にとって長期間にわたる継続が容易なことです。 すでに欧米では、カモガヤやブタクサ、シラカバなどの花粉が原因のアレルギー性鼻炎に、舌下減感作療法が広く普及し大きな成果をあげています。日本では現在臨床試験が行われており、早ければ2009年ごろに厚生労動省からの承認が得られる予定です。
スギ花粉症は新たな薬や治療法も登場し、より確実な効果が期待できるようになりました。個々の患者ごとにもっとも適切な薬や治療法を選択することで、より快適な日々が保障されるのです。

大久保公裕助教授
日本医科大学附属病院耳鼻咽喉科
1959年9月8日生まれ。1984年日本医科大学卒業後、同大学大学院耳鼻咽喉科へ。89年アメリカ国立衛生研究所(NIH)へ留学。93年日本医科大学附属病院耳鼻咽喉科講師、2000年同大学耳鼻咽喉科助教授に。専門領域は鼻腔生理学と免疫アレルギー学で、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の専門医として広く知られている。厚生労働省免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業の花粉症班の主任研究員や東京都花粉症対策委員などを務め、幅広く活躍している。
※掲載内容は2007年1月の情報です。
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取材協力/大久保公裕助教授・日本医科大学附属病院耳鼻咽喉科







