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[クリニックインタビュー] 2014/12/19[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第172回
ひしかわ内科クリニック
菱川法之先生

祖父との約束で僧侶の資格を取得


蝶の研究・撮影家でもある気さくな人柄の菱川院長

 高校生の時、私が最初に目指したのは医学部ではなく理学部でした。蝶が好きで、その餌となる植物を学ぼうと思ったのです。東京の実家を出て北海道大学へ進もうとした時は、父親をはじめ親族中から「地元の大学に行け」と猛反対に遭いました。すると、在家(出家せずに普通の生活をしながら仏道に帰依する人)で僧侶資格を持つ祖父の「若いうちは何をやってもいいが、お前も僧侶の資格は取っておくように」という一言で、私は北大に進学できたのです。
しかし、当時の大学は学生運動が盛んで勉強どころではありませんでした。運動に熱中する友達もいましたが、私は在学中に外から日本を見てやろうと思い、船とシベリア鉄道を乗り継いで旧ソビエトからヨーロッパなどを回りました。まったくの貧乏旅行でしたが、国を知り、人を知り、憧れの蝶と出会って大学に戻ってきました。
 卒業後は祖父との約束を守って、2歳年下の弟と東京大谷専修学院に通い、僧侶の資格を取りました。その後は北大に戻って研究しようかと考えていたところ、弟から「勉強だけでは世間から後ろ指をさされるぞ。医師か弁護士にでもなればいいが」と言われて“なるほど”と思い、受験勉強をして札幌医科大学に合格したのです。

心療内科で“病気の根っこ”を考える


「先生の指導のおかげで、だんだん体重も減って健康になりました」定期的に検査を受けに来ているという女性

 札幌医大では消化器を専門に学ぶ第一内科に進み、血液検査でがんを早期発見する「腫瘍マーカーの遺伝子配列」を研究しました。かつて札幌医大の学長を務め、今は東京大学教授の今井浩三先生が直接の上司です。
 同じく元学長で、日本癌学会など多くの会長を務めた故・和田武雄教授も私の恩師でした。よくご自宅へ遊びに行っては医学全般について教えてもらい、医師になってからも親しく交流させていただきました。「病気の根っこが分からなければ本当の治療はできない。だから、どこが根っこかを探し当てることがまず大事だ」と、和田先生が繰り返し言われていたのを覚えています。
 卒業後は道内でいくつかの病院に勤めましたが、その中でも北海道では草分けの心療内科である札幌明和病院には5年ほど所属しました。当時、札幌医大の第一内科で教えていた奥瀬先生の強い勧めによるものです。先生は心身症について長年取り組んできた方で、後に札幌明和病院の院長を務めました。はじめは消化器の分野から離れてしまいハズレくじを引いたような気分でしたが、診療を続けるうちに心身症は消化器と関連の深いことに気づきました。
 胃腸などの消化器は、ストレスにとても弱い臓器です。奥瀬先生は自由にやらせてくれたので、私は抗不安薬などに加え、独学で漢方薬を使ってみてその効果を実感しました。例えば、過敏性大腸症候群や喘息などは治ったように見えてもまた繰り返すことが多い。そういった根の深い病気に対して、全身のバランスを整える漢方はかなり有用性が認められます。逆にいえば、表に出ている悪い部分だけを治療すればいいという医療の姿勢は、和田先生の言われる「病気の根っこを診ていない」ように感じました。

内科医は病気の“探偵”である


検査を重視するクリニックでは脈波計測や超音波診療器、レントゲンなどの診断機器をそろえている

 1992年には、札幌の緑豊かな住宅街に「ひしかわ内科クリニック」を開設しました。大学病院は診療科目が細分化していますが、私は患者さんを総合的に診られるようにしたいと思ったからです。
 医療で最大のサービスとは「的確な診断と適切な治療」に尽きると思っています。風邪や熱、発疹や腹痛で来たと患者さんが言っても、それは氷山の一角という場合もあります。適切な治療をするために、病気の“真犯人”を見つける。そういう意味で、内科医は探偵に似ていると思うこともあります。
 そのためにも、患者さんには聴診器を当てたりのどを診たりして、小さな異常にも気づけるように細心の注意を払っています。また、お酒やタバコの好きな人や長く病院にかかっていない人など、必要と思われる方には血液検査も行います。実際に「お腹がもたれる」といって来た患者さんに血液検査をしたところ、初期のすい臓がんが見つかった例もあります。
 さらに大事にしているのは、患者さんの表情や全体の様子をしっかりと観察することです。「どうも風邪らしい」という患者さんがご主人に連れられてきたことがありますが、私の見た目ではどうも様子がおかしい。これは脳か心臓だと思って、すぐタクシーで専門医に行ってもらいました。結果は腹部大動脈瘤、それも破裂寸前だったそうです。幸い、緊急手術をして命を取り留めました。そのためにも、当院では普段から信頼のおける各専門医を紹介できるようにしています。

ストレスで寝たきり、ということもある


患者さんが持ってきたという釣りたての鮭を夫人の事務長が見せてくれた

 患者さんの中には、ストレスが主因の方も来られます。診察や検査をして「何もないから大丈夫ですよ」と帰すところもあると聞きますが、やはり私としては患者さんのつらさを取り除いてあげたいと考えています。そこで、患者さんが訴える症状を聞きながらも、つらさの元を引き出すような世間話をしていきます。すると、その人の背景が見えてきます。
 数年前、体が動かずほぼ寝たきりの状態で、ようやくクリニックに来られた女性がいました。ストレスが原因と思われる動悸や不眠などが主訴です。自律神経の薬のほか、漢方の柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、便秘の症状に大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)も処方しました。さらに、適切な食事と運動などをアドバイスしたことで、彼女はなんとか少しずつ外に出始め、やがて出会った友達と釣りへ出かけるようになりました。今ではすっかり健康的な生活を送っています。彼女は「思い切って来てよかった、先生のおかげだ」と言って、毎年自分で釣った鮭を持ってきてくれるんですよ。

オフは蝶の専門家として活動中


生花や絵画が飾られた待合室は、調度品のソファもありサロンのような雰囲気だ

 私は医師のほかに肩書きがありまして、蝶の研究家・写真家でもあります。日本蝶類学会理事や北海道昆虫同好会会長も務めています。
 オフの時には近くの手稲山へ蝶の写真を撮りに行きます。物心ついたばかりのころに近所の庭先でクロアゲハに心を奪われてから、まさに蝶に魅入られた人生を送っています。これまでに、モンゴルやヒマラヤなどの現地調査にも出かけました。
 僧侶の資格を取ってからは蝶の採集はやめました。もっぱら写真に収めていて、個展を開いたり写真集を出版したりしています。自分の時間があることで、診療ではベストの状態でいられると思っています。やはり、ストレスをためたり体調を崩したりして、自分の目が曇った状態になるのは何よりも嫌ですから。
 僧侶の学校では「真実とは何か、生とは何か」を徹底的に探究しました。結局僧侶にはなりませんでしたが、うちのクリニックに来られる患者さんとはご縁があって巡り合ったと思っています。だから診療でのコミュニケーションを大切にしますし、何よりもご本人の病気を治すこと、つらさを取り除くことのために、日々一生懸命努力しています。

取材・文/高橋明子(たかはし・あきこ)
東京の業界紙や編集プロダクション勤務を経て、札幌移住を機にフリー。各種雑誌や書籍、ウェブサイトで地域情報や人物、住宅などの取材を行う。

医療法人社団 法真会 ひしかわ内科クリニック

医院ホームページ:http://hishikawa-clinic.com/

地下鉄東西線宮の沢駅、発寒南駅、琴似駅からJR北海道バス「西野8条8丁目」バス停前。駐車場10台完備。
詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科、小児科、リハビリテーション科

菱川法之(ひしかわ・のりゆき)院長略歴
1971年 北海道大学理学部卒業(理学士)
1975年 東京大谷専修学院卒業(浄土真宗東本願寺派教師)
1982年 札幌医科大学医学部卒業、札幌医科大学第一内科入局
1989年 医学博士号(内科学)取得
釧路市立病院、札幌明和病院、赤平市立病院内科医長を経て
1992年 ひしかわ内科クリニック開設


■所属・資格他
日本癌学会、日本内科学会、日本消化器病学会、ISOBM学会等
北海道保険医会常任理事、日本ユーラシア協会理事、日本蝶類学会理事、日本鱗翅学会評議員、北海道昆虫同好会会長


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