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[クリニックインタビュー] 2009/11/06[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第41回
蒲田西口クリニック
菅澤恵子院長

医者に文句を言うために医者になりたい

kamata_clinic01.jpg 医者になりたいと思うようになったのは、幼稚園のときでした。私は沖縄県の出身なのですが、沖縄では学校の成績が良い子は、将来は医者になるものだと思われていたのですね。医者の仕事についてよくわかっていない、幼稚園くらいの頃から、利発な子供だったのでしょうか、周囲の大人からたびたび「恵子ちゃんはお医者さんになるんでしょ?」と言われ、当たり前のように「はい」と答えていました。私は小児喘息でしょっちゅう医者にかかっていたので医者は身近な存在だったことも影響していたと思います。
 もう少し大きくなると、医者に対する憧れというよりも、自分が診療を受けて気に食わなかった医者を見返してやりたいという気持ちが強くなりました。気に食わないというのは、患者に対して冷たい医者ですね。小学校6年生の頃に、喘息の発作を起こして救急病院を受診したのですが、そのときの医師が、まぁ、そっけなかったですね。今思えば、忙しかったのでしょうけど、「こんなに苦しんでいるのに、なんて冷たいのだろう」と子供心に非常にショックでした。それで「医者に文句を言うには医者にならなきゃ駄目だ」と強く思うようになったのです。
 私の父は輸入家具を扱う自営業で、母は専業主婦。沖縄は貧しい県なので、女性でも自立するために、手に職を持たなければいけないという風潮があり、両親もそういう考えを持っていました。それと、母の知人の子供たちで医師になっている人が多くて、医師という職業は選択肢としては身近でした。普通の女の子のようにスチュワーデスなどに憧れる気持ちもありましたが、ほとんど迷わずに医師を目指していました。
 私が大学進学をする当時は、沖縄に医学部がなかったことと、父の実家が東京なので関東にある大学が良いだろうと考え、群馬大学医学部に入学しました。卒後は自分が喘息を持っていたので、内科や小児科でアレルギーの診療をしたいと思っていたのですが、自分の性格では大きな医局は向かないと思ったことと、大学の友人から研修制度が良いという評判を聞き、東京大学耳鼻咽喉科に入局しました。耳鼻科で鼻アレルギーの研究をしようと思っていましたが、結局、今専門としているのは鼻アレルギーではなく“めまい平衡”です。

フランス留学の思い出

 医師になって3年後に同じ医局の先輩と結婚しました。研修医時代に悩み事の相談にのってくれたり、励ましてくれたことがきっかけです。平成5年から7年まで、夫と一緒にフランスのボルドーに留学しました。そのときは2歳と3歳の子供がいましたが、フランスという国は日本とは比べ物にならないくらい、社会システムが優れていて、子供連れでもなんにも困りませんでしたね。外国人でも保育園で子供を預かってくれますし、夏休みのときなどは大学生のボランティアが地域で組織されていて、やはり1日中面倒を見てくれます。費用も所得に応じているので無料の家庭もありました。
 留学先の研究所は前任者と入れ替わりになるので、直接の知り合いはいませんでしたが、親切な人がたくさんいたので友だちにも恵まれました。もちろん東洋人ということで差別する人もいましたが、日本とフランスは第二次世界大戦で直接戦っていないので、日本人に対する感情はそんなに悪くありませんでした。住んでいたのはボルドーだったので、素朴で暖かいひとたちばかりでしたね。パリだと事情が違ったと思います。フランスにいた2年3ヶ月は、本当に楽しかったです。今はもう忙しくて旅行する暇もありませんが、その2年で20年分くらい遊んだような気がします。

若い先生たちに学ぶ患者とのコミュニケーション

最新のシステムを揃えた診察室。最新のシステムを揃えた診察室。

 フランスから帰国して、一時期は土浦にある夫の実家の耳鼻科を継いだのですが、文京区の自宅から通勤するには無理があり、あらためて都内で開業することになりました。開業医として患者さんを診ていて、一番怖いのは重大な病気を見逃すことです。夫は埼玉医大の頭頚部腫瘍の教授なのですが、先輩でもあり知識も経験も豊富なので、何か疑問があればすぐに相談することができ、そういう意味で同業者と結婚したのはすごく楽ですね(笑)。家でも会話のほとんどは仕事の話ですが、私は楽しく思っています。
 患者さんに対して心がけているのは、簡潔に分かりやすく説明することです。風邪など軽い症状の患者さんに対してあまりくどくど説明しても意味がないですから。“めまい”の治療に関しては、原因がはっきりしないことが多いので、分からないことは分からないと正直にお話します。そのうえで患者さん自身が、治療方針を理解できるように説明するようにしています。
 週に1度、大学のめまい外来に勤務していますが、患者さんへの接し方は、若い医師たちの態度から学ぶことが多いですね。今の先生たちは「医者はサービス業」という気持ちもあって、患者さんに対してとても優しいです。たとえば診察の前に「治療を担当するナニナニです」と、きちんと自己紹介をする。そんなことすら、昔は考えられませんでした。彼らの診察風景をみていて、こういう風に話しかければ、患者さんとコミュニケーションを取りやすくなるんだなと、とても参考になります。
 病気を治すのは患者さん自身で、医者はその手伝いをすることしかできません。ですから本当に患者さんとのコミュニケーションは本当に大切なことなのですが、時にはどうしても説明を受け入れてもらえない患者さんもいます。そういうときは、つい言葉がきつくなってしまい、後から「もっと違う言い方をすれば、分かってもらえたかもしれない」と反省することもよくあります。
 たとえば、ある病院で治らなかった方が、私のところにきたとします。そうした場合に、前の医師がどういう診断をして、どういう薬を出したのかという情報がなくては、上手く治療ができません。ある症状に対してどんな薬を出すのかというのは、ほとんど決まっていて、病院ごとに特別な処方を出すわけではないのです。「この薬を飲んでも治らなかった」という情報があれば、他に有効な薬を探すことができるのです。また、症状を詳しく聞くことによって、治療方法が変わってくることがあります。医者は患者を選べませんが、患者は医者を選べます。症状が良くならなければ、医者を変えるのはかまいませんが、前医がどんな治療をしたのか、患者さん自身が把握していることが大事です。逆に私の患者さんで症状がよくならないときには、どんどん質問していただきたいし、相談してほしいと思います。

ゆっくりと楽しむピアノで気分転換

待合室にある飾り棚には院長先生のコレクションがいっぱい。待合室にある飾り棚には院長先生のコレクションがいっぱい。

 プライベートで楽しみにしているのはピアノです。子供の頃にも習っていたのですが、バイエルくらいでやめてしまったので、40歳を過ぎてからまたはじめました。2年に1度は、同じ教室の子供たちと一緒に発表会にも出るのですが、発表会はとても緊張するから嫌なんです(笑)。人前に出るのは苦手で今でも学会発表では緊張します。家で練習していていると、夫から「そんな音のはずれる演奏はやめてくれ」と言われるのですけど(笑)。すごくいい気分転換になります。今はドビュッシーの「夢」という曲を練習しています。もう子供と違ってそれほど上達はしないのですが、先生もそれを考えてくれて、好きな曲ばかりをゆっくりとやらせてもらっています。
 クリニックを開設して今年で7年目。年齢からいって私が現役でいられるのは、あと10年か15年かというところですから、そろそろ次をどうするか考えているところです。地域医療というのは続いていることが大事なことなのです。ここは駅前でわかりやすい場所ですし、急に具合が悪くなったときにも来院しやすい便利なところです。私の代でこの診療所がなくなると地域の方々が困ると思うので、できれば後輩の医師に継承して欲しいですね。今の若い先生たちは、患者さんに親身に接する優しい先生ばかりなので、誰に任せても大丈夫だと思っています。

取材・文/松本春子(まつもと はるこ)
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。

蒲田西口クリニック

医院ホームページ:http://www.kamatanishiguchi-cli.com/
kamata_clinic_b01.jpg kamata_clinic_b02.jpg kamata_clinic_b03.jpg
患者さんには子供も多く、可愛らしいマグネットが飾られている。
JR蒲田駅西口から徒歩1分。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

耳鼻咽喉科

菅澤恵子(すがさわ・けいこ)院長略歴
菅澤恵子院長
昭和61年 群馬大学医学部卒業、東京大学耳鼻咽喉科学教室入局
勤務歴:東大病院、都職青山病院、武蔵野赤十字病院 など
平成3年~5年 東京大学医学部研究生
平成5年~7年 ボルドー大学(フランス) Laboratoire d’Audiologie Experimentale
平成15年10月 蒲田西口クリニック開設 院長
兼務:東大病院耳鼻咽喉科めまい外来 非常勤医(毎週金曜日) 、都立神経病院神経耳科 非常勤医(毎週水曜日)

■資格
平成3年 日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医
平成8年 補聴器適合判定医
平成9年 音声言語機能等判定医
平成13年 学位取得(東大医学部)



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