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末梢動脈疾患の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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末梢動脈疾患とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 末梢動脈疾患は、おもに足の動脈が動脈硬化によって狭まり、血流が悪くなるためにおこる病気です。日本では過去、喫煙とより関連が強く、若い人に起こるバージャー病と区別するために、「閉塞性動脈硬化症」という言葉を使用していましたが、現在はバージャー病が減少したため、海外のガイドラインで使用されている「末梢動脈疾患」という病名を使っています。末梢という言葉は正確に定義されていませんが、手足だけでなく、心臓の冠動脈以外の臓器(たとえば胃や腸など)に酸素や栄養を供給する血管も含まれます。

 この病気では、手足が冷える、歩いているときに下肢がしびれる、下肢が蒼白に変色するといった症状が現れます。とくに「歩いていると足が痛くなり、しばらく休むと再び歩けるようになる」といった独特の症状がみられます。これを間欠性跛行といいます。痛みは太ももの外側やお尻などに現れることが多いようです。進行すると足のつま先の血流が悪くなって潰瘍ができたり、組織が壊死したりして、重症の場合は足を切断することもあります。

 心筋梗塞や腎臓病、脳血管障害、糖尿病、脂質異常症などを合併することが多いので、これらの病気の管理を十分に行う必要があります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 動脈硬化による血管の閉塞、それに伴う血流の低下が、それぞれの症状の主たる要因です。

病気の特徴

 50歳以上の男性、あるいは喫煙や糖尿病、高血圧、脂質異常症などの動脈硬化の危険因子をもっている患者さんにおこりやすいとされています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
禁煙する ★5 喫煙が末梢動脈疾患の危険性を高めることは、多くの非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。禁煙することで歩行時の足の痛みを軽減させることができ、バイパス術後の経過を良好にする可能性を示す臨床研究もあります。 根拠(1)~(3)
外傷や感染に気を配る ★2 外傷や感染は、手足の血流の悪い状態をさらに悪化させます。この病気では、血管が狭まっているため、抗菌薬が血流にのって届きにくく、治療も通常と比べて難しくなることは専門家の意見や経験から知られています。日常的にケガには気をつけ、皮膚の色調などに変化があれば、早めにかかりつけ医に相談し、早期対応が悪化を防ぎます。
脂質異常症を併発している場合は治療を行う ★3 血中の脂質濃度を下げることによって、末梢動脈疾患の進行を遅らせることができることが、いくつかの臨床研究で確認されています。スタチン系の薬剤がおもに使用されます。 根拠(4)
糖尿病、高血圧を併発している場合はそれらの治療を行う ★3 糖尿病が末梢動脈疾患による下肢切断の危険性を高め、死亡率を高めることが臨床研究で確認されています。また、高血圧も末梢動脈疾患の危険性を高めることが臨床研究で確認されています。 根拠(5)(6)
適切な運動を行う ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によってすべての末梢動脈疾患の患者さんに運動が有効とされており、海外のガイドラインでも積極的に推奨されています。歩行によって負荷をかけて、中等度の痛みを自覚したら安静にするという方法を繰り返します。これを1回30分から60分、週に3回程度続けます。ただし、この運動は心臓の負担になるおそれがあるため、事前に医師など医療従事者に安全性を確認してもらう必要があります。 根拠(7)
血管拡張薬、抗血小板薬を中心にした薬物療法を行う ★5 心臓の機能が安定していれば、シロスタゾールを内服します。これは運動負荷、QOL(生活の質)の双方に改善効果が認められています。 根拠(8)
血管内治療もしくはバイパス術を行う ★4 運動や薬物療法を行っても症状が改善しない場合は、血行再建術が考慮されます。血行再建術には、カテーテルでステントという金属製の筒を血管内に留置して、細くなった血管を広げる血管内治療と、手術で細くなった血管に体の別のところから採取した血管(グラフト)をつなげて、血流を確保する方法があります。血管形成術後にはアスピリンの内服が推奨されています。これはアスピリンの内服によって、ステントやつないだ血管が閉塞するのを予防する効果があるためです。アスピリンが内服できない人には、クロピドグレルの内服が推奨されています。 根拠(9)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗血小板薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
プレタール(シロスタゾール) ★5 シロスタゾールは、間欠跛行の改善やバイパスでつないだ血管(グラフト)の開存性(閉塞するのを予防する効果)を高める効果があることが示されています。アスピリンやチクロピジンは、跛行の改善効果は示されてはいないものの、グラフトの開存性に対しては効果があることが示されています。 根拠(10)(8)
バイアスピリン(アスピリン) ★5
パナルジン(チクロピジン塩酸塩) ★5
アンプラーグ(サルポグレラート塩酸塩) ★5

血管拡張薬(プロスタグランジン製剤)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
プロサイリン/ドルナー(ベラプロストナトリウム) ★3 プロスタグランジン製剤には血管拡張効果と血小板凝集抑制作用があります。間欠跛行や安静時の疼痛に対する改善効果があるという報告があります。 根拠(11)
オパルモン/プロレナール(リマプロストアルファデクス) ★3

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

足の動脈硬化が原因

 手足が冷える、歩いているときに足がしびれる、といった症状が現れる病気で、おもに足の動脈が動脈硬化によって狭くなったり、血栓がつまったりすることによっておこります。動脈硬化が原因となる病気で、動脈硬化の要因(高血圧や脂質異常症、糖尿病など)や危険因子(喫煙、運動不足など)をもっているケースが多くみられます。糖尿病や高血圧、脂質異常症(とくに高LDLコレステロール症)があれば、それらの治療を積極的に行うことが前提となります。

まずは禁煙すること、そして運動を行う

 基本的な生活上の注意としては、まずは禁煙を。定期的に運動を行うことで歩く時の痛みを軽減させることが可能です。

薬物療法も有効

 抗血小板薬や血管拡張薬については、痛みの少ない限局性潰瘍、間欠性跛行など軽症のときは経口薬を使用し、安静時疼痛、激しい痛みを伴う潰瘍、壊死や急性増悪期には即効性のある静脈注射で治療を行います。

バイパス術や血管形成術も有効

 手術には手術で細くなった血管に体の別のところから採取した血管(グラフト)をつなげて、血流を確保するバイパス術と、壊死した部分を切断する方法がとられます。カテーテルでステントという金属製の筒を留置して、細くなった血管を広げる血管内治療も行われます。

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根拠(参考文献)

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  • (4)Leng GC, Price JF, Jepson RG. Lipid-lowering for lower limb atherosclerosis (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 3, 2003. Oxford: Update Software.
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  • (9)Zannetti S, L'Italien GJ, Cambria RP. Functional outcome after surgical treatment for intermittent claudication. J Vasc Surg. 1996;24:65-73.
  • (10)Tangelder MJD, Lawson JA, Algra A, et al. Systematic review of randomized controlled trials of aspirin and oral anticoagulants in the prevention of graft occlusion and ischemic events after infrainguinal bypass surgery. J Vasc Surg. 1999;30:701-709.
  • (11)Reiter M, Bucek RA, Stumpflen A, et al. Prostanoids in the treatment of intermittent claudication--a meta-analysis. Vasa. 2002;31:219-224.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)