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胆石症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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胆石症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 胆汁の成分が固まったものを胆石といいます。胆石のできた位置によって、胆のう胆石、肝内胆石、総胆管胆石に分けられます。また胆石の主成分によって、コレステロール結石、ビリルビンカルシウム結石、黒色石があります。胆石症特有の疝痛発作と呼ばれる右上腹部の強い痛みが特徴です。みぞおちや背部が痛んだり、右肩へと放散する痛み(放散痛)がでたりすることもあります。

 夕食をとって数時間後にしばしばおこり、1時間ほど続きますが、おさまるとしばらくはなんともありません。嘔吐、黄疸、発熱がみられることもあります。胆石の種類、数、大きさ、症状などに応じてさまざまな治療があります。また、画像診断技術の進歩で、最近は無症状の胆石(サイレントストーン)もよく見つかるようになりました。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 食事からとったコレステロールは、肝臓で合成されて胆汁に溶け込みますが、過剰にとった分は胆汁内に溶けきらずに結晶となってしまいます。この結晶の成長したものがコレステロール結石です。

 一方、細菌の感染によって胆汁中のビリルビンが変化してできるのがビリルビンカルシウム結石です。黒色石がなぜできるのかはくわしくわかっていません。

 痛みの発作は、食事でとった脂肪分を処理するために胆のうが収縮し、その圧力で胆石が胆のうから胆管へ押し出されるときに、一時的につまるからです。このため、脂肪分の多い食事をとったあとに、発作がおこりやすくなります。

 また、胆石が胆道をふさぐと肝臓内に胆汁がたまり、胆汁中の成分が血液中に逆流するため黄疸を引きおこします。黄疸の黄色はビリルビンによるものです。さらに、胆のうや胆管に感染症がおきると発熱します。

病気の特徴

 胆石症は中年以降の太った人に多く、女性は男性の2倍です。胆石ができやすくなる要因としては胆のう機能低下をもたらす脂質異常症(高トリグリセリド血症)や急激な体重減少、腸管機能低下(食物の腸管通過時間の遅延)、食生活習慣(1日の摂取総カロリー数・炭水化物・糖質・動物性脂肪の過剰摂取)があげられています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
コレステロール結石溶解療法を行う ★5 胆汁酸利胆薬を用いて、胆のうにあるコレステロール結石を溶かす方法です。一般に対象となるのは、結石の大きさが10~15ミリメートルより小さく、胆のう機能が良好で、症状が強くなく、CTで結石の石灰化が進んでいないと認められる場合です。これらの条件のもとで行われた非常に信頼性の高い臨床研究では、多くの人で結石の溶解を認めたと報告されています。 根拠(1)
体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を行う ★4 超音波による衝撃波を体外から患部に照射して、結石を小さく砕き、体の外へと自然排出させる方法です。単発で、直径20ミリメートル以下の石灰化のないコレステロール結石をもつ人が適応となります。薬による副作用もなく、体を切ることもないので安全で、入院期間が短く患者さんの負担が少ない療法です。効果については信頼性の高い臨床研究によると、およそ80パーセントの人で症状がやわらいだとの結果が報告されています。 根拠(2)(3)
内視鏡的胆石除去術を行う ★5 結石が総胆管にある場合、内視鏡を用いて結石を取り除くことがあります。内視鏡的乳頭切開術や内視鏡的乳頭拡張術は、内視鏡を使い総胆管の出口(ファーター乳頭)から結石を摘出する方法です。さらにバスケット鉗子という網のような器具やバルーンを使って、結石を除去することもあります。内視鏡による胆石除去術の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で認められています。 根拠(4)
腹腔鏡下胆のう摘出術/開腹術を行う ★5 おなかに小さな穴を数カ所あけ、そこから内部を映し出すカメラや手術器具を挿入して胆のうを切除するのが、腹腔鏡下胆のう摘出術です。開腹手術と比較した非常に信頼性の高い臨床研究によると、腹腔鏡下胆のう摘出術では入院期間が短く、術後の痛みも軽いと報告されています。 根拠(5)(6)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

胆汁酸利胆薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ウルソ(ウルソデオキシコール酸) ★5 胆汁酸利胆薬は、石灰化の進んでいないコレステロール結石で、大きさが10~15ミリメートルより小さく症状の強くない患者さんに用いられます。これらの条件で、ウルソデオキシコール酸を用いた場合、多くの患者さんで結石の溶解が認められたことが非常に信頼性の高い臨床研究によって報告されています。以前はケノデオキシコール酸も用いられていましたが、下痢、一過性の肝機能障害を認めることからウルソデオキシコール酸が選択されるようになりました。 根拠(1)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

比較的軽症なら結石溶解療法を

 治療方針は、胆石の種類、大きさ、数、部位、疝痛発作や以前に胆のう炎をおこしているかどうかなどを考慮して、決められます。

 大きさが10~15ミリメートルより小さい結石で、CT画像で石灰化が著明でなく、胆のう機能が良好で、症状が強くない場合には、胆汁酸利胆薬の服用による結石溶解療法が試みられます。

体外衝撃波結石破砕術が適応となる場合もある

 20ミリメートル以下の単発で石灰化のないコレステロール結石で、胆のう胆管機能が良好な場合には、体外衝撃波結石破砕術が適応とされます。しかしながらその後の経過で約3分の1の患者さんが胆のう摘出術を受けたとの報告もあり、(7)選択については担当の医師とよく相談されることをお勧めします。

 また、この治療に用いられる機器は高価でおおがかりなものですから、施設によっては受けられない場合もあります。

腹腔鏡下胆のう摘出術が一般的

 疝痛発作を何度もおこしたり、胆のうの壁がいびつな場合などには、腹腔鏡下胆のう摘出術を行うのが、現在では一般的な治療です。ただし、炎症などが原因で胆のうと周囲の癒着が強い場合などでは、手術開始後に腹腔鏡下胆のう摘出術から開腹手術に変更される場合もあります。

無症状の胆のう結石に原則として手術は行いません

 胆のう結石が胆のうがん発生の危険因子となるという明確な証拠は現時点ではなく、症状がない胆のう結石に予防的に胆のう摘出術を行うことは勧められていません。しかし、複数の胆のう結石、胆のう機能低下(胆のう造影陰性)、がんの疑いのある胆のう壁の厚み(肥厚)、腹部超音波で胆のうが十分に観察できないなどの人は、症状がない場合でも担当の医師と手術の必要性や手術に伴う危険性についてよく相談のうえ、治療法を選択されるといいでしょう。

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根拠(参考文献)

  • (1) Rubin RA, Kowalski TE, Khandelwal M, et al. Ursodiol for hepatobiliary disorders. Ann Intern Med. 1994;121:207-218.
  • (2) Maton PN, Iser JH, Reuben A, et al. Outcome of chenodeoxycholic acid (CDCA) treatment in 125 patients with radiolucent gallstones. Factors influencing efficacy, withdrawal, symptoms and side effects and post-dissolution recurrence. Medicine (Baltimore). 1982;61:86-97.
  • (3) Stolzel U, Koszka C, Wolfer B, et al. Relief of heterogeneous symptoms after successful gall bladder stone lithotripsy and complete stone disappearance. Gut. 1994;35:819-821.
  • (4) Adamek HE, Sorg S, Bachor OA, et al. Symptoms of post-extracorporeal shock wave lithotripsy: long-term analysis of gallstone patients before and after successful shock wave lithotripsy. Am J Gastroenterol. 1995;90:1125-1129.
  • (5) Bergman JJ, Rauws EA, Fockens P, et al. Randomised trial of endoscopic balloon dilation versus endoscopic sphincterotomy for removal of bileduct stones. Lancet. 1997;349:1124-1129.
  • (6) Hendolin HI, Paakonen ME, Alhava EM, et al. Laparoscopic or open cholecystectomy: a prospective randomised trial to compare postoperative pain, pulmonary function, and stress response. Eur J Surg. 2000;166:394-399.
  • (7) Huang SM, Wu CW, Lui WY, et al. A prospective randomised study of laparoscopic v. open cholecystectomy in aged patients with cholecystolithiasis. S Afr J Surg. 1996;34:177-179.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)