かぜ症候群の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
かぜ症候群とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
鼻腔、口腔、咽頭、喉頭などの上気道の粘膜にウイルスが感染し、急性の炎症をおこしている状態をかぜ症候群といいます。
のどが痛かったり、せきがでたりすると、子どもからお年寄りまで一般的に「かぜをひいた」と日常的に表現するほど、かぜは非常にありふれた病気です。
せき、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、発熱、全身の倦怠感、頭痛などの症状に加え、ときとして下痢や吐き気といった消化器症状がみられることもあり、症状は多様です。
本来、かぜそのものは経過が良好で、そのまま放置しておいてもほとんどが1週間くらいで自然に治ってしまいます。ただし、かぜに似た症状で始まるほかの病気や、かぜが直接、あるいは間接の原因やきっかけとなって発病する重い病気もありますので、注意が必要です。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
原因となるウイルスは数百種類にもおよび、一度に複数のウイルスに感染する場合もあります。かぜの原因ウイルスを特定することは難しく、また、特定したとしてもそれに直接効く薬はないので、それぞれの症状を抑えることが治療の目的となります。
ウイルスはせきやくしゃみによって飛散し、このとき近くにいた人の鼻やのどに付着します。およそ20分間で細胞のなかに入りこみ増殖して、18~20時間でウイルスの量はピークに達します。その時点で、本人の感染防御機能が正常かどうかによって、発病するかしないかが決まります。
病気の特徴
一般家庭の疾患調査によると、かぜは疾患全体の3分の2を占め、一人平均1年に、成人で2~3回、小児で7回かぜをひくといわれています。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
薬によって各種の症状を抑える | ★5 | かぜの症状に対する抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、抗コリン薬、充血改善薬、解熱鎮痛薬の有効性が複数の臨床研究で確認されています。これらは非常に信頼性の高い臨床研究です。 根拠(1)~(8) | |
まだ鼻のかめない乳幼児では保護者など鼻汁を取り除くようにする | ★2 | 日常診療での観察と経験から、当然有効であるとほとんどの医師は考えています。 | |
ビタミンCを摂取する | ★5 | ビタミンCを常用している人ではかぜ症状の期間が短いとする臨床研究がありますが、かぜにかかってからビタミンCを服用してもかぜの症状の程度や持続期間には影響をおよぼさないという結果がでています。同じ研究のなかで、かぜの予防効果について検討されていますが、予防効果はほとんどないと報告されています。 根拠(9) | |
消化のよい食べ物で栄養をとる | ★2 | 患者さんの体力を増すことから専門家によって支持されています。 | |
安静にする | ★3 | 治療上当然有効と考えられています。 | |
水分を十分にとる | ★2 | 治療上当然有効と考えられています。 | |
空気が乾燥している場合は加湿する | ★5 | 蒸気吸入が症状の緩和、とくに鼻閉に有効であるという信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(10) | |
外から帰ったらうがい、手洗いをする | ★4 | かぜウイルスは手の接触でも感染します。ヨウ素溶液で手を洗った群の感染率が低かったという信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(11) | |
人混みへの外出を避ける | ★4 | かぜウイルスは飛沫感染もします。かぜの患者さんと同じ部屋にいるだけで56パーセントの人が感染したという信頼性の高い研究もあります。 根拠(12) | |
熱のある場合でも入浴できる | ★3 | 子どものかぜ患者さんの入浴について、アンケート調査した研究があります。保護者はふだんと変わらない方法で風呂に入れる:14パーセント、入れ方を変えて風呂に入れる:40パーセント、入れない:46パーセント。一方、医師は入浴許可:4パーセント、条件付入浴許可:84パーセント、禁止:12パーセント。入浴の有無で比較したところ、症状に影響はありませんでした。微熱なら全身状態がよければ入浴してもあまり問題はないようです。 根拠(13) | |
寒気があるときは体を温める | ★2 | 専門家の意見や経験から治療上当然有効と考えられています。 | |
熱が上がって体が熱くなったときは着衣や布団を薄めにして熱を逃がすようにする | ★2 | 科学的な方法を用いた臨床研究によって効果が確認されているわけではありませんが、患者さん自身がもっとも楽に感じる対応であれば、そうすることが適切と考えられます。 |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
くしゃみ、鼻水、鼻づまりが強いとき
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
非ピリン系感冒薬 | PL顆粒 | ★2 | 臭化イプラトロピウム、クロモグリク酸ナトリウム、ジフェンヒドラミン、フマル酸クレマスチンについては、非常に信頼性の高い臨床研究によって鼻水、くしゃみ、のどの痛み、せきなどのかぜ症状に効果があると確認されています。また、非ピリン系感冒薬(PL顆粒)については、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(2)(3)(4) |
気管支拡張薬 | アトロベントエロゾル(臭化イプラトロピウム) | ★5 | |
抗アレルギー薬 | インタール(クロモグリク酸ナトリウム) | ★5 | |
抗ヒスタミン薬 | レスタミンコーワ(ジフェンヒドラミン) | ★5 | |
タベジール(フマル酸クレマスチン) | ★5 |
せきが激しいとき
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
鎮咳薬 | メジコン(臭化水素酸デキストロメトルファン) | ★5 | 臭化水素酸デキストロメトルファン、グアイフェネシンについては、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。また、イブプロフェン、塩化リゾチームについては、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(5)(6) |
リン酸コデイン(リン酸コデイン) | ★2 | ||
去痰剤 | フストジル(グアイフェネシン) | ★5 | |
抗炎症薬 | ブルフェン(イブプロフェン) | ★2 | |
消炎酵素 | ノイチーム/レフトーゼ(塩化リゾチーム) | ★2 |
ねっとりした痰がでるとき
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
消炎酵素 | ダーゼン(セラペプターゼ) | ★2 | セラペプターゼ、塩酸アンブロキソールについては、専門家の意見や経験から支持されています。また、抗菌薬は気管支炎などの合併症がなければ使用されません。 根拠(14) |
去痰薬 | ムコソルバン(塩酸アンブロキソール) | ★2 | |
抗菌薬 | ★1 |
せき、鼻汁などの症状を抑える薬(子どもによく使われている薬)
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
鎮咳薬 | アスベリン(チペピジンヒベンズ酸塩) | ★2 | いずれの薬も症状を緩和させる効果について、専門家の意見や経験から支持されています。 |
抗ヒスタミン薬(抗炎症薬) | ペリアクチン(塩酸シプロヘプタジン) | ★2 | |
去痰薬 | ムコダイン(カルボシステイン) | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
かぜの原因はウイルス感染
かぜは鼻腔、口腔、咽頭、喉頭などの上気道の粘膜にウイルスが感染することによって急性の炎症となり、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、発熱、全身のだるさ、頭痛、下痢、吐き気といったさまざまな症状を引きおこす病気です。
原因ウイルスは数百種類ある
かぜの原因となるウイルスは数百種類にもおよびます。また、一度に複数のウイルスに感染する場合もあります。こうしたことから、かぜの原因ウイルスを特定することは非常に困難です。
しかも、かぜの原因となっているウイルスを特定できたとしても、ウイルスそのものを死滅させたり排除したりする治療法は、現在のところありません。
症状に応じて対症療法を
かぜの症状を緩和したり、症状の持続期間を短縮したりするために、症状に応じて抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、抗コリン薬、などが使用されています。このような対症療法を行うかどうかは、症状によるつらさと薬物によって副作用がおこる可能性との兼ね合いで判断します。
抗菌薬は効果がない
抗菌薬については、ウイルス感染に合併しやすいと考えられている細菌感染を予防したり治療したりするとの理由でしばしば用いられます。しかし、信頼性の高い臨床研究(ランダム化比較試験)を6個まとめた分析では、合計1047人の患者さんについて、自覚症状は統計的に意味があるほど明らかには改善せず、副作用(吐き気や下痢、発疹など)の可能性は成人で2.6倍になると報告されています(14)。
リスクの高い人のみ抗菌薬を使用
したがって、もともと心臓や肺の病気のある患者さんやお年寄りなど、万が一細菌感染があるとただちに生命にかかわる状態になりうる場合を除けば、抗菌薬の使用は勧められません。
おすすめの記事
根拠(参考文献)
- (1) AlBalawi ZH, Othman SS, Alfaleh K. Intranasal ipratropium bromide for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2013; 6:CD008231.
- (2) Hayden FG, Diamond L, Wood PB, et al. Effectiveness and safety of intranasal ipratropium bromide in common colds. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Intern Med. 1996;125:89-97.
- (3) Aberg N, Aberg B, Alestig K. The effect of inhaled and intranasal sodium cromoglycate on symptoms of upper respiratory tract infections. ClinExp Allergy. 1996;26:1045-1050.
- (4) Sutter AI, Lemiengre M, Campbell H, Mackinnon HF. Antihistamines for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2003; :CD001267.
- (5)Pavesi L, Subburaj S, Porter-Shaw K. Application and validation of a computerized cough acquisition system for objective monitoring of acute cough: a meta-analysis. Chest 2001; 120:1121.
- (6)Taverner D, Latte J. Nasal decongestants for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2007; :CD001953.
- (7)Bachert C, Chuchalin AG, Eisebitt R, et al. Aspirin compared with acetaminophen in the treatment of fever and other symptoms of upper respiratory tract infection in adults: a multicenter, randomized, double-blind, double-dummy, placebo-controlled, parallel-group, single-dose, 6-hour dose-ranging study. Clin Ther 2005; 27:993.
- (8)Kim SY, Chang YJ, Cho HM, et al. Non-steroidal anti-inflammatory drugs for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2013; 6:CD006362.
- (9)Hemilä H, Chalker E. Vitamin C for preventing and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2013; 1:CD000980.
- (10)Singh M, Singh M. Heated, humidified air for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2013; 6:CD001728.
- (11)Hendley JO, Gwaltney JM Jr. Mechanisms of transmission of rhinovirus infections. Epidemiol Rev. 1988;10:243-258.
- (12)Dick EC, Jennings LC, Mink KA, et al. Aerosol transmission of rhinovirus colds. J Infect Dis. 1987;156:442-448.
- (13)Okayama M, Igarashi M, Ohno S, et al. Japanese paediatricians' judgement of the appropriateness of bathing for children with colds. Fam Pract. 2000;17:334-336.
- (14)Kenealy T, Arroll B. Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis. Cochrane Database Syst Rev 2013; 6:CD000247.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)