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摂食障害(拒食症・過食症)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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摂食障害(拒食症・過食症)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 摂食障害は、体重や体型に対する極端なこだわりや精神的な問題から、食事行動に問題がおこる病気です。

 摂食障害は、一般的に拒食症と過食症の二つに分けられます。拒食と過食は正反対の行動ですが、原因が同じ心の問題であることから、一つの病気と考えられ、拒食と過食の間を行き来することも珍しくありません。なお、拒食症と過食症の正式な病名はそれぞれ神経性食欲不振症、神経性大食症といいます。

 拒食症は、思春期以降の若い女性に多く、そのほとんどがスリムな体型にあこがれて、過激なダイエットをすることが直接のきっかけとなって始まります。

 現在、女性がダイエットをすることはそれほど珍しいことではありません。多くの女性が日常的に食事量を減らしたり、ダイエットに効果があるといわれる食品や飲料を好んで口にしたりしています。

 しかし、拒食症になると、減量に成功して設定した体重になっても満足できず、さらにやせる努力を続けます。周囲の人に食べることを勧められても、強く反発して食べようとしません。そうした状態が続き、これ以上やせては大変なことになると感じ始めたとしても、少しでも体重が増えることに対して強い恐怖感をもっているため、食事量を増やそうとせず、ますますやせてしまいます。

 このように症状が進むと、著しい体重の減少のため、体温や血圧の低下、月経不順などに陥り、悪化すると肝機能障害、赤血球・白血球の減少、骨量の低下などが進んで生命の危険が生じる場合さえあります。実際には骨が浮きでるほどやせていても、まだ自分は太っていると主張することが多く、患者さんは自分が病気であるという意識がありません。

 過食症は、拒食症と同じように精神的なストレスやダイエットをきっかけとして、いったん食べ始めると大量に食べてしまう病気です。ときどきたくさん食べて、ストレス発散をする人もいますが、過食症では短時間に、しかも大量に食べます。

 さらに特徴的なことは、大量に食べたことに対する罪悪感が強く、反動で絶食したり、無理やりのどに指を押し込んで吐きだしたり、下剤を使用したりして過食した分をなんとか排出しようとします。とくに嘔吐は吐き終わったときに「すっきりする」という快感を伴うため、習慣化しやすいといわれています。

 嘔吐をくり返すと、血液中のカリウムが失われて低カリウム血症となり、不整脈や腎機能障害をおこします。見た目は、ふつうの体型をしているので、周囲の人が気づくのは難しい場合もあります。なお、過食症は、最初は拒食症として始まるケースが多いようです。

 拒食症も過食症も食事の問題や体型・体重へのこだわりが強く、それ以外のことはほとんど考えられないような状況になり、ふつうの日常生活を送ることが難しくなります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 摂食障害の直接の原因は、多くの場合、極端なダイエットにあります。女性をダイエットに駆り立てる社会的な要因として、やせている体を礼賛する社会的風潮があげられます。

 若い女性の雑誌のグラビアを飾るのは、やせている女性モデルたちであり、それらの雑誌にはダイエットの情報が欠かさず載っています。若い女性はスリムでなければならないという強迫的な価値観にとらわれ、過激なダイエットに走ることになります。

 また、女性が社会進出に伴い、多くのストレスにさらされていることもその要因となっているでしょう。

 この病気は、完全主義者タイプ=他人に対しては臆病でありながら、負けず嫌いな性格の女性がなりやすいとされてきましたが、最近では、過度に他人に合わせるタイプや、他人と接触をもつのを嫌がるタイプなどにもみられ、いちがいにはいえなくなっています。

 直接には過激なダイエットがきっかけとなりますが、そのような行動に走る背景には、前述した社会的風潮ばかりでなく、家族関係、母子関係、学校や職場でのいじめなど本人が心の問題を抱えている場合がほとんどです。

 これらの問題に気づかず、解決されないままであれば、いったんは病気がおさまってもまた再発することになります。

病気の特徴

 摂食障害の患者数は、わが国でも近年急増しています。とくに、拒食症から過食症へ移行する人や、拒食症ではなく過食症から病気が始まる人が増える傾向にあります。現在は約6万人の患者さんが日本にいると推定されています。

 歴史的には、テレビが普及してきた1960年代に摂食障害が、コンビニエンス・ストアが増えてきた75年以降に過食症が増えてきたと指摘する研究もあります。一般に若い女性に多い病気ですが、最近では、小学生や主婦などにもみられるようになっています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
入院して治療を行う ★3 標準体重より75%以下の体重である場合は入院加療が勧められます。点滴により必要な栄養分やミネラルを補給し、嘔吐や自傷をしないように管理することができます。しかし、効果は外来治療と変わらないとする報告もあります。 根拠(1)(2)(3)
認知行動療法を行う ★2 拒食症/臨床研究によると、困っている問題を習慣的な行動ととらえ、生活しやすくする行動を学ぶ認知行動療法で、子どもの拒食症が改善したという報告があります。しかし、多数の研究が行われているにも関わらず、行動療法の有用性ははっきりしていません。 過食症/認知行動療法は、ほかの心理療法よりも過食の頻度を減らす効果があることが示唆されています。摂食障害における、認知行動療法を具体的に紹介すると、まず、過食したいという衝動に駆られたときに、とるべき行動を決めておき、それをやりやすいものから順次行っていきます。とるべき行動とはレモンをかじる、風呂に入る、音楽を聞く、歯を磨くなどです。また、拒食症の患者さんは「少し食べたら、どんどん体重が増える」といった誤った考え方(認知)にとらわれています。そこで、実際にその行動によってそうなるかどうかを試して、そうならないことを確認しながら、正しい考え方に修正していきます。 根拠(1)~(6)(7)(8)
家族療法を行う ★4 拒食症/信頼性の高い臨床研究により、通常の治療に比べて、家族療法が優れているという結果は出ませんでした。過食症/認知行動療法があまり効果がない場合は、家族療法を含むその他の心理療法が行われます家族療法は、患者さんを家族のなかの一部としてとらえ、患者さんが家族のなかではどんな存在であるのか、あるいは、家族同士の力関係はどうなっているのか、家族は互いをどう感じているのかといった、患者さんが属する家族全体を治療の対象とする視点からカウンセリングを行う療法です。家族療法では、問題を抱えている患者さんだけが病んでいるのではなく、家族がもっている機能がうまく働いていないために、家族自体が病んでいると考えます。家族全体の病理が、家族のなかでもっとも感受性の強い人にたまたま問題行動(たとえば拒食)として現れているという立場です。カウンセラーは、家族関係に変化がおこるよう、さまざまなアドバイスをして介入していきます。 根拠(9)(10)
薬物療法を行う ★2 拒食症/薬物療法による、拒食症への効果は十分証明されていません。そのため薬物療法のみ行うことは避けられています。過食症/過食症による薬物療法は、唯一抗うつ剤による治療のみ推奨されています。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、三環系抗うつ薬等が使用されます。 根拠(1)(11)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗うつ薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) デプロメール/ルボックス(フルボキサミンマレイン酸塩) ★2 拒食症/信頼性の高い臨床研究によると、これらの薬では、はっきりとした有効性は確認できていません。過食症/SSRIにより、過食の頻度を下げる可能性がいくつかの研究で示唆されています。 根拠(12)~(15)
パキシル(塩酸パロキセチン水和物) ★2
レクサプロ (エスシタロプラムシュウ酸塩) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

決定的な治療法は見つかっていない

 摂食障害の治療は大変難しいものがあります。現在、有効性が確認されている決定的な治療はなく、カウンセラーなども含めた医療現場でいろいろな治療が試行錯誤されているのが実情です。

薬など内科治療は根本治療にならない

 重症の拒食症で脱水などのため衰弱が激しく動けなくなったり、体内の電解質のバランスが崩れて不整脈や筋力低下などがおこったりした場合には、点滴や一時的な栄養分の補給といった内科的な治療が必要になります。

 しかし、水分や栄養分を体外から強制的に補給するだけでは、根本的な治療にはなりません。本人が、摂食行動(食事)を正常なパターンに戻そうという意思をもたない限り、内科的な治療は、ほんの一時しのぎにしかすぎません。

 また、過食症では、うつ症状が強い場合などに抗うつ薬が用いられます。それによって過食の頻度が少なくなったり、うつ症状が抑えられたりする場合があります。しかし、これも一般的には初期治療や精神療法と併用して用いられ、補助的なものです。

考え方のひずみを正す精神療法が必要

 したがって、拒食症にしても過食症にしても、本人が摂食行動に対する考え方(認知)を変えるための対処方法がもっとも重要になります。認知行動療法をはじめとするさまざまな精神療法が必要とされるのはこのためです。

治療は気持ちのわかりあえる専門医で

 精神療法は長期にわたるとともに、医師が患者さんの心や行動にいろいろな場面で介入する場合が多い療法です。

 医師と患者さん、あるいはその家族に十分な信頼関係ができないと、摂食行動をおこすきっかけとなった精神面での問題点を明らかにはできません。

 ですから、信頼のおける精神科医ないし心療内科医を見つけることも重要なポイントとなります。

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根拠(参考文献)

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  • (2) Yager J, Andersen AE. Clinical practice. Anorexia nervosa. N Engl J Med. 2005 Oct 6;353(14):1481-8
  • (3) Gowers SG, Clark A, Roberts C et al. Clinical effectiveness of treatments for anorexia nervosa in adolescents: randomised controlled trial. Br J Psychiatry. 2007 Nov;191:427-35.
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  • (6) Management of Eating Disorders. Agency for Healthcare Research and Quality. 2006
  • (7) Poulsen S, Lunn S, Daniel SI, Folke S et al. A randomized controlled trial of psychoanalytic psychotherapy or cognitive-behavioral therapy for bulimia nervosa. Am J Psychiatry. 2014 Jan;171(1):109-16.
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  • (11) American Psychiatric Association. Treatment of patients with eating disorders,third edition. American Psychiatric Association. Am J Psychiatry. 2006 Jul;163(7 Suppl):4-54
  • (12) Biederman J, Herzog DB, Rivinus TM, et al. Amitriptyline in the treatment of anorexia nervosa: a double-blind, placebo-controlled study. J ClinPsychopharmacol. 1985;5:10-16.
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  • (14) Halmi KA, Eckert E, LaDu TJ, et al. Anorexia nervosa. Treatment efficacy of cyproheptadine and amitriptyline. Arch Gen Psychiatry. 1986;43:177-181.
  • (15) Walsh BT, Agras WS, Devlin MJ, et al. Fluoxetine for bulimia nervosa following poor response to psychotherapy. Am J Psychiatry. 2000;157:1332-1334.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)