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滲出性中耳炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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滲出性中耳炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 子どもにかなり高い頻度でみられる中耳炎の一種で、耳のなかに滲出液がたまる病気です。

 急性の中耳炎と違って耳痛、耳漏(耳だれに膿みが混じる)、発熱などの症状はありません。軽度から中等度の難聴や耳のつまった感じがする程度で、子どもの場合、初期に家族が気づくことはまれです。ただ、聞こえが悪くなっているので、言葉の聞きまちがいがおきたり、落ち着きがなくなって注意力が散漫になったりするなどの変化がみられます。3歳児健診や就学時健診で滲出性中耳炎による難聴が見つかることも少なくありません。とくに就学時健診で見つかる難聴の約半数はこの病気によるものといわれています。

 気づかないまま難聴が続くと、言語の障害や知能の遅れを招く可能性もあります。保育園・幼稚園、学校などで落ち着きがないといった注意を受けたり、テレビの音を必要以上に大きくして画面に顔を近づけて見たりしていることがあれば、注意が必要です。少しでも聞こえが悪いのではないかと感じたら、専門医に相談してみたほうがよいでしょう。

 また、鼻やのどに慢性の炎症があったり、かぜなどによって鼻やのどの感染をくり返したりすることで、この病気が長引くことがわかっています。かぜをひかないようにする、長引かせないようにすることも大切です。

 また、成人で痛みがなく耳がつまった感じがし、そのうちに滲出性中耳炎に移行して、頑固な難聴をおこす場合には、上咽頭の腫瘍によることがありますので、耳になんらかの異常を感じたら、一度は耳鼻科を受診すべきでしょう。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 中耳腔に滲出液がたまるために鼓膜に影響を与え、難聴がおこります。多くの場合、原因としては、細菌感染による急性化膿性中耳炎が治りきらずに長引いたりくり返したりすること、耳管の機能が障害されていること、咽頭などの局所および全身の感染防御が未熟であることなどが考えられています。

病気の特徴

 この病気の頻度ひんどは、4歳~5歳と40歳~50歳に二つのピークがあります。子どもでは、100人中約1人の発症率といわれています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
抗菌薬を用いる ★2 滲出性中耳炎そのものに対して抗菌薬を用いることの根拠を示す臨床研究は見あたりません。しかし、滲出性中耳炎は上気道感染が原因となることもあり、また急性化膿性中耳炎から移行することもあります。それらの上気道感染や中耳炎が細菌感染によるものであれば、抗菌薬による治療が必要であることは専門家の意見や経験から支持されています。ただし、滲出性中耳炎そのものを治すわけではありません。
鼻炎や副鼻腔炎がある場合は、薬を使って治療を行う ★2 鼻炎の治療で用いられる抗ヒスタミン薬や、鼻づまりを改善させる薬物が副鼻腔炎の治療として有効かどうかを疑問視する臨床研究があります。抗ヒスタミン薬などの薬は、鼻づまりの症状に対しては用いることがありますが、罹病期間を短縮したり、合併症を防ぐ効果はないとされ、推奨されていません。 根拠(1)(5)
鼓膜を切開し、滲出液を排出させる ★2 滲出性中耳炎は自然に改善することも多いため、鼓膜を切開して滲出液をだす処置そのものが有効であるのかどうかを明確に示す臨床研究は見あたりません。ただし、炎症が長期間持続する場合、次に示す中耳換気チューブ留置術とともに鼓膜切開が行われることがあります。この方法は専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(6)~(9)
鼓膜切開でも改善しない場合、中耳換気チューブ留置術を行う ★5 鼓膜を切開し、そこからチューブを挿入し固定して、中耳腔の換気をします。これを中耳換気チューブ留置術といいます。滲出性中耳炎が長期間持続する場合には、この処置が有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって認められています。 根拠(1)~(4)(10)
難治化する場合にはアデノイド切除術、口蓋扁桃摘出術を検討する ★2 アデノイド切除術、口蓋扁桃摘出術が滲出性中耳炎の治療に有効であることを示す臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されている方法です。ただし、この手術を行うときには全身麻酔を要するため、その危険性を考えると、アデノイドを切除したほうがいいという積極的な理由がある場合を除けば、多くの場合、安易に勧められる治療ではありません。 根拠(1)(2)(11)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗菌薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
サワシリン/パセトシン(アモキシシリン水和物) ★2 細菌感染による中耳炎が原因となっている場合には、細菌を抑えるためにアモキシシリンなどの抗菌薬が用いられます。滲出性中耳炎そのものの治療というわけではありません。
メイアクト(セフジトレンピボキシル) ★2
エリスロシン(エリスロマイシン) ★2 副鼻腔炎を併発している場合は、その治療薬としてエリスロマイシンなどの抗菌薬が用いられます。滲出性中耳炎そのものに対する効果は臨床研究で明らかになっていません。

痰たんや鼻づまりなどの症状を改善する薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ムコダイン(カルボシステイン) ★2 滲出性中耳炎の背景に上気道炎があり、痰や鼻づまりの症状があればその治療としてカルボシステインが用いられることがあります。専門家の意見や経験から支持されていますが、滲出性中耳炎そのものの治療というわけではありません。

炎症を抑える薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ノイチーム/レフトーゼ(塩化リゾチーム) ★2 滲出性中耳炎の背景に上気道炎があればその治療として塩化リゾチームが用いられることがあります。有効性を示す臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。滲出性中耳炎そのものの治療というわけではありません。

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

まずは症状を抑える治療を

 軽症の滲出性中耳炎であれば自然に改善することも多いため、あくまでも対症的な治療が経験的に行われているのが現状です。鼻づまりや痰があれば、それらを抑える薬を用います。

放置すると難聴につながることも

 ただし、この病気に気づかないまま放置すると、子どもの難聴につながる場合も少なくありません。注意力が散漫になったり、テレビの音を必要以上に大きくしたりすることがあれば、一度耳鼻科を受診しておいたほうがよいでしょう。

 長引いたり、くり返したりすることが多いので、定期的に経過を観察することが大切です。上気道炎、いわゆるかぜを背景に発病することも多いので、この病気をくり返すときには、かぜの予防にも注意を払うべきです。

併発している病気の治療を行う

 滲出性中耳炎の場合、いくつかの病気が併発していることがあります。代表的な病気は、細菌感染やアレルギーなどです。したがって細菌性の中耳炎や副鼻腔炎が背景にある場合は抗菌薬を、アレルギー性鼻炎などが疑われる場合は抗ヒスタミン薬を用いることがあります。いずれにしても、滲出性中耳炎そのものを治すわけではなく、併発している病気を治す治療になります。

重症化、長期化する場合は手術を検討することも

 対症療法などを行っても症状がとれなかったり、重症化した場合は、鼓膜切開と中耳換気チューブ留置術などの外科的治療が行われます。鼓膜をほんの少し切開し、そこからたまった滲出液を排除するのが鼓膜切開であり、さらに切開した場所にチューブを挿入し、滲出液をだしたうえに、そのチューブを固定しておいて中耳腔の換気をして聞こえやすくするのが、中耳換気チューブ留置術です。

 そのほか、アデノイド切除術、口蓋扁桃摘出術を行う場合もあります。ただし、治療時に全身麻酔をするため、その危険性を考えた場合、あまり勧められる治療法ではありません。

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根拠(参考文献)

  • (1) American Academy of Family Physicians, American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, American Academy of Pediatrics Subcommittee on Otitis Media With Effusion. Otitis media with effusion. Pediatrics 2004; 113:1412.
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  • (4) Rosenfeld RM, Bluestone CD. Clinical pathway for otitis media with effusion. In: Evidence-Based Otitis Media, 2nd, Rosenfeld RM, Bluestone CD. (Eds), BC Decker Inc, Hamilton, Ontario 2003. p.303.
  • (5) Griffin G, Flynn CA. Antihistamines and/or decongestants for otitis media with effusion (OME) in children. Cochrane Database Syst Rev 2011; :CD003423.
  • (6) Mandel EM, Rockette HE, Bluestone CD, et al. Myringotomy with and without tympanostomy tubes for chronic otitis media with effusion. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 1989; 115:1217.
  • (7) Mandel EM, Rockette HE, Bluestone CD, et al. Efficacy of myringotomy with and without tympanostomy tubes for chronic otitis media with effusion. Pediatr Infect Dis J 1992; 11:270.
  • (8) Cohen D, Shechter Y, Slatkine M, et al. Laser myringotomy in different age groups. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 2001; 127:260.
  • (9) Szeremeta W, Parameswaran MS, Isaacson G. Adenoidectomy with laser or incisional myringotomy for otitis media with effusion. Laryngoscope 2000; 110:342.
  • (10) Wallace IF, Berkman ND, Lohr KN, et al. Surgical treatments for otitis media with effusion: a systematic review. Pediatrics 2014; 133:296.
  • (11) van den Aardweg MT, Schilder AG, Herkert E, et al. Adenoidectomy for otitis media in children. Cochrane Database Syst Rev 2010; :CD007810.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)