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急性アルコール中毒の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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急性アルコール中毒とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 急性アルコール中毒は、急激、かつ大量の飲酒によって、物事を認識する能力が低下し、行動が不適切になる中毒症です。アルコールを短時間に大量に飲むと、吐き気、嘔吐が出現し、意識が混濁します。体温調整機能が低下して低体温になり、脱水が進行して低血圧になることがあります。さらに進行した場合は、呼吸困難から死に至ります。また、意識障害のために、転倒や転落をして外傷があっても痛みを訴えないことで周囲に気づかれにくいことや、自らの嘔吐物で窒息する可能性があることが報告されています。(1)(2)

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 アルコールは薬理学的には麻酔作用をもった薬物と考えられています。一般の麻酔薬は脳の活動を抑制して意識を失わせますが、この過程では興奮期がはじめにきて、すぐに呼吸や脈拍の安定した麻酔期に入ります。しかし、アルコールは、非常に興奮期が長く、麻酔期が短いという特徴があります。この長い興奮期があるために愉快になり、どんどん飲み続けてしまうことになります。

 口から入ったアルコールは約2割が胃から、残りの約8割が小腸から速やかに吸収されます。そして血液中に入り、数分のうちに全身に行きわたります。その後、血液中に入ったアルコールは、ほとんどが肝臓に運ばれます。肝臓でアルコールが代謝されるとアセトアルデヒドという物質に変化します。これはとても毒性の強い物質で、悪酔いしたときの不快な症状の原因ともなっているものです。アセトアルデヒドはアセトアルデヒド脱水素酵素によって、最終的には水と二酸化炭素に分解されます。

 血液中のアルコール濃度は、飲酒していた時間、飲酒したお酒のアルコール濃度と量だけでなく、個人の体格や、アルコールに対する耐性などによってかなり異なります。(3)

また、血中アルコールの濃度と、認知機能や行動の異常を正確に予測することは困難だ、という報告もあります。(4)

病気の特徴

 東京消防庁の調べでは、都内で急性アルコール中毒のために救急車で病院に搬送された人は11,976人(2012年度)で、このうち45パーセントが20歳代の若者でした。(5)

 東京都内で死因がわからず急に亡くなられた方々や事故などで亡くなられた方の剖検を行っている東京都監察医務院では、2012年の2451件の剖検例のうち、29件が急性アルコール中毒による死亡と報告しています。(6)

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
気道の管理、血圧や血液のバランスの管理、外傷の有無を調べる ★2 重症のアルコール中毒により自分で呼吸するのが難しい(呼吸抑制のある)患者さんに対しては挿管や人工呼吸などの気道管理が行われます。また、嘔吐物による窒息を防ぐ処置が行われます。血圧が下がっていれば点滴を行い、血液検査等で血液が酸性に傾いていないかなどの検査の上、治療を行います。頭に外傷がある場合、または診察で脳に障害があると判断された場合は、頭部CTの撮影が必要です。頭部CTの検査の結果によって、治療を追加します。  根拠(3)
体を保温する ★2 急性アルコール中毒では体温調整障害によって低体温になることが多くみられます。この場合は、加温した輸液や、毛布などを用い、保温を行います。
輸液を行う ★2 現在まで、専門家の意見として生理食塩水の輸液は推奨されてきました。これに関する研究は、1施設の気道管理を必要としない患者さんに対する小規模なランダム化比較試験の1つのみで、有効性は証明できませんでした。 現状では輸液するか否かは、低血圧などの症状により現場の判断で行われます。 根拠(7)
アルコール依存症の有無の評価 ★2 急性アルコール中毒をおこす患者の中に、もともとアルコール依存症等の方がおられます。長期的な生命予後を改善するためには、アルコール依存症の治療が必要です。 根拠(2)
胃洗浄や活性炭の投与を行う ★1 アルコールは体内に入ってからの吸収が早いため、胃洗浄や活性炭の投与は無効です。

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

治療は臨床症状に応じて行われる

 急性アルコール中毒のほとんどは、緊急性が求められる場合が多いため、現れている症状に対して有効な治療で対処されています。

重度な兆候があるか確認し、それに対する治療を行う

 アルコール中毒の軽い段階では運動失調、知覚鈍麻、舌がもつれるための言語不明瞭、嘔吐がおこり、それ以上になると意識混濁、呼吸抑制や不整脈、血圧の低下、昏睡などが生じます。そこで、まずは生命に直結するような重度な兆候や外傷があるかないかの確認が重要となります。確認されたそれぞれの症状に対して治療が行われます。

多量飲酒の背景に対する配慮

 急性期の治療が終了した段階で、アルコール依存症や、多量飲酒の原因となった社会的な背景に対する介入の検討が行われます。

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根拠(参考文献)

  • (1)Gmel G, Bissery A, Gammeter R, et al.Alcohol-attributable injuries in admissions to
  • a swiss emergency room--an analysis of the link between volume of drinking, drinking patterns, and preattendance drinking.
  • (2)Bouthoorn SH, van der Ploeg T, van Erkel NE, et al.Alcohol intoxication among
  • Dutch adolescents: acute medical complications in the years 2000-2010. ClinPediatr (Phila). 2011 ;50:244-51.
  • (3)Yost DA. Acute care for alcohol intoxication. Be prepared to consider clinical
  • dilemmas.Postgrad Med. 2002 ;112:14-6, 21-2, 25-6.
  • (4)Vonghia L, Leggio L, Ferrulli A, et al.; Alcoholism Treatment Study Group. Acute
  • alcohol intoxication. Eur J Intern Med. 2008;19:561-7.
  • (5)東京消防庁ホームページ 
  • http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/kyuu-adv/201312/chudoku/
  • (6)東京都福祉保健局 東京都監察医務院のホームページ
  • http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kansatsu/database/25toukei.files/28-39.pdf
  • (7)Perez SR, Keijzers G, Steele M, et al. Intravenous 0.9% sodium chloride therapy
  • does not reduce length of stay of alcohol-intoxicated patients in the emergency department: a randomised controlled trial.Emerg Med Australas. 2013 ;25:527-34.
  • (8)Shpilenya LS, Muzychenko AP, Gasbarrini G, et al. Metadoxine in acute
  • alcohol intoxication: a double-blind, randomized, placebo-controlled study. Alcohol ClinExp Res. 2002 ;26:340-6.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)