出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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閉塞性動脈硬化症
へいそくせいどうみゃくこうかしょう

閉塞性動脈硬化症とは?

高齢者における特徴

 近年は食生活などの生活習慣が欧米化し、それにより糖尿病脂質異常症の増加、そして高齢化による動脈硬化性疾患が増加し、末梢性動脈疾患である閉塞性動脈硬化症についても、老年医学で取り組むべき重要な課題になっています。

 閉塞性動脈硬化症とは、動脈硬化が徐々に四肢に起こった状態をいいます。その多くは、腹部大動脈から大腿動脈までの範囲に発症します。閉塞性動脈硬化症をもつ患者さんの生命予後はよくなく、症状が重い場合の生存率は悪性新生物(がん)に匹敵する低さです。

 高齢者では加齢そのものが動脈硬化の危険因子であり、心臓・脳の病変も考慮しながら、全身的な治療を進める必要があります。虚血性心疾患や慢性腎不全など多くの合併症を起こしている場合が多く、全身状態の悪化から積極的な血管再建術ができない場合も少なくありません。

 内科的、外科的なさまざまな治療ができない患者さんでは、下肢の切断を余儀なくされる場合もあります。下肢切断に伴う危険性や、切断後の著しい日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の低下を考えると、早期からの適切な治療と管理が非常に重要です。

診断

 表7表7 フォンテイン分類とその治療法に重症度分類として有用なフォンテイン分類と、それに対応する治療法を示します。高齢者は複数の病気をもっていることが多いため、しびれ、冷感を訴える場合は糖尿病性神経障害、脳血管障害、整形外科的な病気(脊柱管狭窄症、坐骨神経痛など)などを考慮に入れて原因を見分けます。

表7 フォンテイン分類とその治療法

 その際、ドプラー聴診器による上・下肢血圧比(ABPI)測定が有用で、ABPI値が0・9以下の場合、血管造影検査で病変の検出感度は95%とされており、ABPI値の低下は診断には非常に重要です。ただし、透析患者など動脈硬化が進んでいる患者さんでは、動脈壁の石灰化のため、見かけ上高値を示したり、測定不能(動脈音が消えない)になる場合もあります。最近は、CTを用いたMDCTにより血管像を見ることも容易になってきています。

治療とケアのポイント

●フォンテイン分類I、II度

 この段階では、基本的には薬物治療が主体になります。まず、高血圧糖尿病、高コレステロール血症を適切な指導と薬剤で十分にコントロールします。とくに禁煙は絶対に守ってください。

 薬剤は、抗血小板薬の投与、抗血小板作用と血管拡張作用を併せもつプロスタグランジン製剤の投与が中心です。高血圧の患者さんでは、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、α遮断薬など下肢の血管拡張の効果も期待できる降圧薬を用いますが、末梢血管を収縮させるβ遮断薬は基本的に禁忌で、やむをえない場合にはαβ遮断薬を用います。

 重度の間欠性跛行があり、薬物治療が十分にできない患者さんや、日常の活動性の高い患者さんの場合は、血管形成術、外科的治療も検討します。間欠性跛行とは、歩くと脚が痛み、しばらく休むと痛みがなくなるという状態です。また、糖尿病の悪化、外傷、感染を契機に容易に虚血性潰瘍に陥ることがあるので注意してください。

●フォンテイン分類III、IV度

 この段階の血行不良が進んだ重症虚血肢では、薬物治療を継続しながら積極的に血管内治療、バイパス手術を考慮します。

 重症虚血肢では、痛みのコントロールも極めて重要なポイントです。非ステロイド性抗炎症薬では効果がみられない場合は、麻薬や痛みの神経を遮断する硬膜外ブロックを行う場合もあります。血液循環が著しく低下した虚血部位が比較的末梢に限られる場合は、交感神経ブロックも有効です。

 しかし、血行再建術ができない時や非成功例で、その痛みが非常に強い場合は、下肢切断をせざるをえないのが現状です。TASCに掲載されている重症虚血肢治療のフローチャートを図10図10 重症虚血肢治療のフローチャートに示します。

図10 重症虚血肢治療のフローチャート

 現在の治療では治りにくい重症虚血肢の患者さんに対しては、血管新生因子を用いた閉塞性動脈硬化症に対する多くの遺伝子治療(再生治療)が、すでに欧米を中心に臨床治験として実施されています。

 患部血管付近への内皮細胞増殖因子VEGF、FGFの遺伝子導入による血管新生療法(血管再生療法)ではその効果も報告され、日本でも血管新生因子HGF遺伝子を用いた血管新生療法の臨床研究が行われています。また、骨髄液から抽出した単核球細胞(幹細胞)移植による血管新生療法も行われており、臨床研究では内皮前駆細胞による血管新生の効果が報告されています。

 今後、このような先進医療が重症虚血肢の新しい治療法のひとつとなる可能性も出てきており、体への負担が少ない治療法として、とくに高齢者への応用が期待されています。

(執筆者:札幌医科大学学長 島本 和明)

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