出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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肺がんとは?

どんな病気か

 肺にはいろいろな種類の悪性腫瘍が発生しますが、その大半は肺がんです。肺がんは、気管支や肺をおおっている細胞(上皮細胞)から発生するものです。一方、上皮以外の細胞から発生するものに、悪性リンパ腫、がん肉腫、肺芽腫、悪性黒色腫などがあります。

 肺がんは、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別されます。肺がん全体の約10~15%が小細胞肺がん、残る85~90%が非小細胞肺がんです。小細胞肺がんと非小細胞肺がんとでは、病気の特徴や薬の効きめが大きく異なっています。両者をきちんと区別することで、治療法を決めたり、予後(肺がんが治るかどうか)を予測します。

 小細胞肺がんは、増殖のスピードが速く、見つかった時にはすでに他の臓器へ転移していることが多い、極めて悪性度の高いがんです。その反面、抗がん薬や放射線が比較的よく効きます。したがって、多くの場合、手術ではなく、抗がん薬や放射線で治療を行います。

 非小細胞肺がんは、小細胞肺がんに比べると増殖のスピードは若干遅いものの、抗がん薬や放射線が効きにくいがんです。早期に見つかり手術で完全に取り除くことができれば、十分に治る見込みがあります。

原因は何か

 がんは、遺伝子異常の蓄積によって生じます(コラム)。では、遺伝子の異常は何を原因として生じるのでしょうか。遺伝子に異常を与える刺激の代表的なものは、発がん物質、放射線、紫外線、慢性の炎症などです。

 肺がんの原因の第一はたばこです。たばこの煙のなかには、4000種類以上の化学物質が含まれており、そのうち約200種類は有害物質で、40種類以上は発がん促進物質であるということが知られています。これらの発がん物質が複合的にはたらいて肺がんをつくります(これを化学発がんと呼びます)。つまり肺がんは、たばこの煙という発がん物質によってできるがんです。

 2000年に東京で世界肺癌会議が開催され、「禁煙」東京宣言が採択されました。この宣言では、肺がんはがん死の第1位を占めるものであること、世界的に男女ともに急増していること、肺がんの9割はたばこによるものであることなど、たばこの害に関する警鐘を鳴らしています。たばこをたくさん吸うほど肺がんになりやすいこと、たばこを吸い始める年齢が早いほど肺がんになりやすいこと、禁煙すれば肺がんのリスクが減少することなどが、これまでの研究で明らかになっています。

 最新の科学技術を駆使した研究で、たばこが肺がんを起こす仕組みが分子や遺伝子のレベルでわかってきました。また、同じようにたばこを吸っても、肺がんになる人とならない人がいるのはなぜかといったことが明らかになりつつあります。これらの研究を通じて、たばこによる肺がん発生の予防策や肺がんになりやすい体質が解明される可能性があります。

 とはいえ、現在も未来も禁煙が肺がん予防の最も有効な対策であることに変わりはありません。禁煙対策が実り始めた米国、英国、オーストラリアなどでは、男性の喫煙率の低下に続いて、肺がん発生の減少が始まりました。

 たばこ以外にも、体質(遺伝的素因)、大気汚染、食事、職業などさまざまなものが肺がんの発生に影響を与えることが示されていますが、たばこの影響の深刻さに比べるとわずかなものにすぎません。

 肺がんは世界中で急激に増加しています。日本においても、1998年には胃がんを抜いてがん死亡の第1位になりました。2008年人口動態統計(厚生労働省)によれば、「気管、気管支及び肺の悪性新生物」の死亡者数は年間6万7000人(男性4万9000人、女性1万8000人)でした。増加傾向は今後も続き、2028年には肺がん死亡は年間13万人に達すると推測されています。

 実に、全国民の8~9人に1人が肺がんで死亡するということになります。その背景にあるのは、禁煙対策の遅れと社会の高齢化です。急増する肺がんの予防と治療をどのように行うかは、21世紀初頭の大きな国民的課題と考えられます。

症状の現れ方

 肺がんに特有の症状というものがあるわけではありません。また、肺という臓器は極めて鈍感な臓器です。そこに早期発見が難しいわけがあります。

 表16表16 肺がんの臨床症状に肺がんでみられる臨床症状をあげてありますが、これらの多くは肺がん以外の呼吸器疾患でもみられるものです。しかし、明らかな原因がないのに咳や痰が2週間以上続く場合や、痰に血が混じる時は、早めに医療機関を受診するべきです。

表16 肺がんの臨床症状

検査と診断

 肺がんが疑われた時に受ける検査には、一般の検査に加えて以下のようなものがあります。

①喀痰検査

 喀痰検査は、苦痛なしに肺の局所の病気を調べるのに非常に有用な検査です。がん細胞の有無を調べると同時に、結核菌や細菌検査など、他の病気の区別も行うことがあります。また、最近では誘発喀痰といって、痰が出にくい患者さんに対して、塩水を吸入してもらって痰を出すような方法がとられることがあります。

②腫瘍マーカー

 さまざまな腫瘍マーカーがありますが、肺がんの腫瘍マーカーでは、小細胞肺がんに対するプロGRP、NSE、非小細胞肺がんのなかでは、腺がんに対するCEA、扁平上皮がんに対するシフラ、SCCが代表的なものです。

 ただし、これらの腫瘍マーカーは良性の疾患でも上昇することが知られており、この数値が高いからといってがんがあると判断することはできません。あらかじめ異常な数字を示した場合に、治療効果や再発の有無を判定することに用いられています。

③気管支内視鏡検査

 ある程度の苦痛と危険を伴う検査ですが、肺がんであるかどうか、肺がんだとした場合にどこまで進んでいるかを判定するためには欠かすことのできない重要な検査です。カメラで気管支内部を観察するとともに、病巣から直接細胞や組織を採取して詳しい検査をします。

④CT検査

 従来の胸部X線検査に比べ、肺のほとんどすべての領域を正確に調べることができます。また、リンパ節の転移などもかなり正確に判断することができます。肺がんがあるかどうか、どの程度進行しているかなどを調べるための最も重要な検査のひとつです。

 最近は、ヘリカルCTという、極めて小さな病変も検出できる装置が開発され、検診や精密検査に威力を発揮しています。

⑤MRI検査

 磁力を検出することで病変の存在や、その性質を調べる検査です。この検査が肺がん診療にとくに力を発揮するのは、縦隔という肺に隣接した臓器へのがんの浸潤を調べたり、脳、骨、骨髄へのがんの転移を検出する際です。より詳細な検査が必要と考えられた場合に、場所を絞って調べることが一般的です。

⑥骨シンチグラフィ

 全身の骨への転移の有無を一気に調べることができるため、病期を決定して治療法を選択する際に行う検査です。

⑦超音波検査

 手軽に実施できて、副作用もまったくない検査です。胸水のたまり具合をみたり、肝臓や副腎などの腹部への転移を調べる際に使われます。

⑧換気血流シンチグラフィ

 肺は呼吸を維持するために欠かすことのできない臓器です。手術によって病巣を切除する場合、残った肺で十分に呼吸ができるかどうか予測することは極めて重要です。肺機能検査と併用してこの検査を行うことで、手術後の肺機能を予測することができます。切除範囲が広くなる場合や、元々の肺機能が不良な患者さんに実施されます。

⑨PET(ポジトロンCT)

 腫瘍細胞は、糖分の取り込みや消費パターンが正常細胞と異なっています。この性質を利用してがんであるかどうか、どこに病巣があるかを調べる検査です。

 良性・悪性の区別、リンパ節転移の診断、術後の局所再発の確認などにおいては、従来のCTに比べて、同等またはそれ以上の精度があるといわれています。

⑩骨髄穿刺

 小細胞肺がんは、骨髄への転移を高頻度に起こします。治療法を決定する場合に、骨髄の細胞を直接採取して調べます。

 以上、一見、非常に多くの検査がありそうですが、進行が速い肺がんをできるだけ早く診断し、早急に最適な治療法を決定するためには、複数の検査を一気にやってしまうことが一般的です。

治療の方法

 肺がんの治療法は、細胞型と進行度で決められます。細胞型というのは、前述の小細胞肺がんか非小細胞肺がんかということです。

①小細胞肺がんの治療

 悪性度の高い小細胞肺がんの進行度は、がんが片方の胸部だけに限られている限局型と、それを越えて進んでいる進展型に分けられます。治療をしなかった場合の余命は、限局型で6カ月、進展型では2~3カ月にすぎません。

 限局型小細胞肺がんの治療は、放射線療法と、シスプラチン・エトポシドという2つの抗がん薬による化学療法を同時に併用することが標準的になっています。内臓の機能が正常で、重い合併症がない人では、中央生存期間(生存期間の中央値)は2年~2年6カ月、全体の4分の1の患者さんが治ることが国内外の臨床試験で明らかになりました。

 一方、進展型小細胞肺がんの治療成績は不良です。進展型では、病気が広がっているために放射線療法は適しておらず、抗がん薬による化学療法が選択されます。標準的治療法は、シスプラチンとエトポシドの2薬併用、または、シスプラチンとイリノテカンの2薬併用です。高齢者、腎臓の機能が低下した人、全身状態があまりよくない人では、シスプラチンの代わりにカルボプラチンが使用されます。

 なお、I期(早期肺がん)で発見される小細胞肺がんはまれですが、手術で約50%程度の治癒が見込まれるとされています。

②非小細胞肺がんの治療

 非小細胞肺がんの治療は、I、II期のいわゆる早期肺がんでは手術(または手術と抗がん薬の併用療法)が、III期の局所進行期がんでは抗がん薬と手術または抗がん薬と放射線の併用療法が、IV期の進行期がんでは抗がん薬が使用されます。

 I期では60~80%程度、II期では40~50%程度が治ります。III期の一部は手術できることがありますが、治癒の見込みは15~30%程度、手術不能のIII期では、標準的な治療を受けた場合で10~15%程度です。

 III期の場合、手術可能例では術前に抗がん薬を投与することで治癒の見込みが高くなることがわかっています。手術不能例では、放射線療法と抗がん薬の同時併用療法が優れているということが確立しています。

 IV期の進行期肺がんでは、治癒を期待するのは極めて困難です。ただし、抗がん薬の使用によって延命効果とQOL(生活の質)の改善が得られることが明らかになっています。最近は新しい治療薬として分子標的薬も登場しました。

がん薬物療法の現在と未来

 20世紀の終盤にいくつかの新しい抗がん薬が開発されました。イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビンという5つの薬剤です。その後、アムルビシン、TS1、ペメトレキセドという新薬も登場しました。

 現在、これらの薬をシスプラチンなどのプラチナ製剤と組み合わせて使う治療法が広く行われています。これらの薬は、副作用は異なるものの延命効果という点ではほぼ同様で、おおむね3~4カ月程度の延命効果が期待されるようです。世界中で、これらの薬のなかでどの治療法がより優れているか、あるいは個別の患者さんに対してどの薬を使用するのが最適かを明らかにするための研究や臨床試験が精力的に行われています。

 21世紀初頭に、これまでの抗がん薬とは異なった作用機序をもつ薬剤(分子標的薬)が登場しました。ゲフィチニブとエルロチニブは上皮成長因子受容体に作用する分子標的薬ですが、非喫煙者、アジア人、女性、肺腺がんで有効であることがわかってきました。また、がん細胞の上皮成長因子受容体の遺伝子異常がある人で、とくに有効性が高いことも明らかになりました。従来の抗がん薬が無効な人にも一定の効果があることが示されたので、肺がんに対する薬物療法の幅が広がりました。また、この薬から得られた知見をもとに、肺がんの治療に際しても体質やがんの性質を十分に評価することで、より安全でより有効な治療法を適応しようという考え(個別化医療)が徐々に現実のものになりつつあります。

 一方で、複数の研究結果から、これらの分子標的薬によって、日本では4%程度の人に間質性肺炎という肺の病気が起こり、1・5~2%程度の人はそのために死亡することが報告されました。この副作用は、とくに喫煙者、男性、扁平上皮がん、既存の間質性肺炎がある人に多いこともわかってきました。ほかに有効な治療法がない患者さんには、新薬の登場は大きな光明ではありますが、がんの治療には常に一定の危険がつきまとっていることも忘れてはならないことです。

 数年以内に複数の新たな分子標的薬が登場する予定です。これらの新薬、または新薬と従来の薬との組み合わせにより、肺がん薬物療法の治療成績が向上することが期待されます。

EBMと臨床試験

 肺がんの治療に限らず、現代医療において重要視されていることは、見込みや個人の経験によって治療法を決めず、科学的で合理的な証拠(エビデンス)を基に決めていこうという態度です。これをエビデンス・ベースト・メディスン(EBM)と呼び、現在の医療において必須のものとされています。

 また、これらのエビデンスは、適切で倫理的な臨床試験なしには得られないことも明らかで、臨床試験をいかにきちんと安全に行うかということが肺がん医療を含めた臨床医学の現場での大きなテーマになっています。

 肺がんを専門とする施設では、エビデンス構築のための臨床試験を行っています。臨床試験に参加するかどうかについては、主治医の説明をよく聞いて自分で判断することが重要です。

肺がんは治るか?

 肺がんは治るか?といった質問に対しては、早期であれば治る見込みが十分にあるといえるでしょう。とくに手術可能なI、II期の患者さんでは治癒の可能性が高くなります。III期であっても最新の化学放射線療法を受けることで、20%程度の患者さんは治癒することが期待されます。

 一方、IV期になると完全に治癒する見込みはゼロではないにしてもかなり低くなるのも事実です。しかし、最新の化学療法や分子標的治療による臨床試験の成績は、これらの患者さんでも延命効果やQOLの向上が得られることが明らかになっています。

 細胞型や進行度に応じた生存期待(生存が期待できる期間)は、かなりはっきりとわかってきました。ただし、これはあくまでも多くの患者さんの平均的な数字です。個々の患者さんの予後がどうかについては、個別の総合的な判断が必要になります。

 残念ながら、肺がんは進行期になると治る見込みは非常に低くなります。病気がひどく進行して体力が低下すると化学療法に耐えることができなくなります。しかし、その場合も決して治療法がなくなったわけではなく、痛みや呼吸困難を和らげるための支持療法や緩和医療が選択されることになります。(注:緩和医療は決して終末期医療ではなく、がん治療の初期から開始すべきとされています。)

 つまり、肺がんの治療には終わりはなく、病気の進行度や病状につれて、その時に最も適した治療法が選択されるということになります。まずは、どのような場所でどのような医療が行われているのかを調べたり、問い合わせることが有用でしょう。

有用な患者情報

①病気に気づいたらどうする

 ぜひ、肺がんの専門病院を受診してください。

 最近は医療の内容が専門分化されています。肺がんの診断、治療はかなり専門性が高い領域です。

②インフォームド・コンセントとセカンドオピニオン

 インフォームド・コンセントとは、受ける医療行為について十分に理解できる説明を聞いたうえで、患者さんが自分の意思で自分が受ける医療の最終決定をするという制度です。病状や治療法の説明を受ける時は、必ず時間を約束して、身内のなかで重要な相談相手といっしょに聞いてください。わからないことは鵜呑みにせずに、必ず納得できるまで聞いてください。

 また、本当にその医療を受けるべきかどうか悩んだ時は、セカンドオピニオンといって他の専門家に第三者の立場から参考意見を求めることも可能です。主治医に遠慮せずに、セカンドオピニオンを聞きたい旨を申し出ると、必ず必要な資料を提供してくれるはずです。

③肺がんと診断された時の生活上の注意

 食事について特別な注意事項はありません。少量のお酒も大丈夫です。ただし、検査や治療上、苦しい思いをしたり合併症を起こすおそれがあるので、たばこはやめましょう。

④インターネットでの情報

 最近では、いろいろな情報をインターネットを通じて入手することができます。肺がん関連では、以下のウェブサイトがおすすめです。

・国立がんセンターホームページ

 http://www.ncc.go.jp/jp/index.html

・緩和ケアやホスピスに関する情報

 http://www.angel.ne.jp/

・西日本胸部腫瘍臨床研究機構のホームページ

 http://www.wjtog.org/mainpage.html

肺がんと関連する症状・病気

(執筆者:九州大学医学研究院胸部疾患研究施設教授 中西 洋一)

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 腫瘍とはいったいどんなものでしょうか? 1999年に三省堂から出版された『新辞林』を引いてみると、「体内で周辺組織と無関係に過剰な増殖を行う細胞の塊。良性と悪性に分けられる」と記載してあります。わかったようなわからないような気がします。

 たとえば、いぼやほくろを例にとれば理解しやすいかもしれません。これらは皮膚にできた腫瘍です。がんのように急速に大きくなったり、他の臓器に飛び散ったりすることはない良性のものではありますが、それでも、生まれたてのころからできていることはまれで、人生のある時期にでき、長い時間をかけて少しずつ大きくなっていくものです。

 しかし、正常な皮膚とはまったく様相が異なっており、平坦な皮膚組織から盛り上がるように飛び出しています。色や表面の性状も、正常とは異なっています。これを顕微鏡で細かに見てみると、細胞そのものの数が増えていることがわかります。

 最近の学問の発展に伴い、腫瘍は遺伝子異常の病気であることが明らかにされるようになり、その定義のしかたも様変わりしてきました。すなわち、「腫瘍とは細胞の遺伝子の病気であり、細胞に複数の遺伝子異常が生じた結果として、異常な増殖、浸潤や転移を来す疾患」というような定義がされるようになりました。

 もう少しわかりやすくいうと、遺伝子の異常が積もり積もったために、まわりの細胞や体の組織を無視して勝手気ままに大きくなったり、他の臓器へ飛び散っていく病気、という意味になります。

 腫瘍は、良性のものと悪性のもの(がん)に分けられます。良性の腫瘍の代表的なものは、先ほど例にあげたいぼやほくろです。少しずつ大きくはなりますが、放っておいても大きな問題になることはあまりありません。これに対して、悪性の腫瘍は「がん」と呼ばれ、死につながる病気として恐れ嫌われる存在になっています。

●がんと癌

 日本人の死因のなかで最も多い病気はがんです。できる場所によってがんにはいろいろな種類がありますが、悪性の病気全般を指す時に「がん」という言葉を使います。そのうち、上皮細胞が悪性化したものを「癌」と漢字で表します。

 上皮細胞とは文字どおり、体の表面をおおう細胞のことです。体の表面をおおうというと皮膚がこれにあたるわけですが、実は口のなかから食道、胃、腸に至る消化管や気管支や肺も外界と直接つながっており、食べ物や空気が直接触れる場所でもあります。これらの臓器は表面を粘膜でおおわれていますが、解剖学的には、粘膜も体の表面をおおうものであり、これも上皮の一部です。

 したがって、食道、胃腸や気管支の上皮から発生した悪性腫瘍は、食道癌、胃癌、大腸癌、肺癌などというように漢字で表されます。これに対して、体の表面を直接おおっていない部位からできた悪性腫瘍というと、血液から発生する白血病や骨由来の骨肉腫などが代表的なものになります。

●がんの特徴

 がんにはいくつかの特徴があります。

①自律性増殖

 人体は、生命を維持するためにいろいろな調節機構を備えています。育ち盛りの子どもでも、必ずある時期に成長が止まります。身長の高い低いはあっても、3mもあるような巨人はいません。同じように、眉毛がどんなに伸びてもあごにまで届くことがないことや、唇を作っている細胞が外側に広がって顔中が唇になるようなことがないのも、そのような調節機構がはたらいているからです。

 しかし、がん細胞は人体の正常な調節を無視して勝手に増殖を続け、とどまることがありません。これを自律性増殖と呼びます。

②浸潤と転移

 がん細胞は、周囲の正常な細胞を壊したり、圧迫しながら周辺に広がったり(浸潤)、リンパ管や血管を通じて体のあちこちに飛び火(転移)します。ある一定の範囲内にがんがおさまっていれば、手術をして完全に取り除くことができます。しかし、浸潤したり他の臓器へ転移していると、手術をしても取り切れないことになり、完全に治すことが極めて難しくなります。

③悪液質

 がん組織は他の正常組織の栄養をどんどん取り込むので、体重が減り体が衰弱します。また、がん細胞自身が、やせて衰弱するような物質の産生を刺激することもあります。

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