出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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耳鳴り(耳鳴)
みみなり(じめい)

耳鳴り(耳鳴)とは?

耳鳴りとは

 耳鳴りとは、外で音がしていないのに音が聞こえる状態ですが、現実には音がない自覚的耳鳴と、患者さんの体の耳付近や耳管などで実際に何らかの音がしていて、それが聴こえている他覚的耳鳴に分けられます。

 現実的には自覚的耳鳴が大多数なので、まず自覚的耳鳴から話を進めます。

自覚的耳鳴

 自覚的耳鳴(以下、単に耳鳴り)が起こる仕組みははっきりしていませんが、内耳から脳に至る聴覚経路のどこかで、外からの音入力に関係なく聞こえの神経が活性化されることで生じると推測されます。また耳鳴りは、外界が静かになる夜や早朝に大きく感じることが一般的です。

 耳鳴りは、さまざまな病気に伴って起こります。代表的なものは内耳性難聴に伴うもので、突発性難聴音響外傷メニエール病などでみられます。しかし、単に加齢に伴って生じたり、あるいは難聴など他の症状をまったく伴わず、耳鳴りが単独で生じることもあります。

 耳鳴りは主観的なものなので、その性質や強さを正確に測るのは難しいのですが、耳鳴検査の器械を用いていろいろな高さ、強さの音を発生させ、それと聞き比べることで、ある程度数値として評価することができます。

自覚的耳鳴の治療

 原因となる病気がはっきりしている時には、その病気を治療することが耳鳴りの治療になります。しかし、多くの耳鳴りは原因不明で、いろいろな治療が試みられます。

 よく用いられるのは、内耳や脳の血液循環を改善する薬、筋肉の緊張を和らげる薬、精神安定薬などの薬物療法です。そのほか、局所麻酔薬の静脈注射、鼓室への副腎皮質ステロイド薬の注入などの有効性が報告されています。

 耳鳴りの背景に精神的緊張やストレスが存在することも多いので、心理的なアプローチも重要です。外から現実の音が入ってくると、相対的に耳鳴りが認知しにくくなること(マスキング効果)を利用して、好きな音楽やラジオなどを楽しむことで耳鳴りを緩和することができます。マスカーといって、補聴器のような器具で持続的に雑音など耳鳴りをマスクするような音を出す機器もあります。また、高度難聴に伴う耳鳴りがある方で人工内耳埋め込み手術を受けた患者さんのうち、約80%において、人工内耳使用中に耳鳴りが軽減するとされています。

他覚的耳鳴

 次に、他覚的耳鳴について述べます。他覚的耳鳴がある場合、実際に患者さんの耳と医師の耳を聴診器で使うようなチューブでつないでみると、ほとんどの場合、患者さんが聞いている耳鳴りを医師が聞くことができます。他覚的耳鳴には、間欠的なものと持続的なものがあります。

 間欠的なものには、コツコツとかプツプツなどと表現できる音が多く、耳管周辺の筋肉や耳小骨についている筋肉のけいれんによるものがあります。また、物を飲み込んだ時などに、鼻の奥の上咽頭で耳管の開口部の隆起が周囲の粘膜に触れてピチャピチャ音をたてるのが聞こえて気になることもあります。

 音が持続的な場合では、耳周辺の大きな静脈や動脈内を血液が流れる時に生じる雑音が聞こえる例があります。

他覚的耳鳴の治療

 治療は、それぞれの原因に応じて考えます。たとえば筋肉のけいれんなら、筋肉の緊張をとるような薬物を試みたり、耳小骨についている筋肉の腱を切断することもあります。しかし、この奇妙な耳鳴りの原因が明らかになるだけでも不安が解消され、そのまま経過をみてゆく方法もあります。

耳鳴りとの平和共存

 耳鳴りそのものは、生命の危険を伴うものでも痛みを生じるものでもありません。しかし、覚醒している間中、休みなく続くことで常に脅かされるような感覚を伴い、患者さんの苦痛は決して小さくありません。できる範囲で原因を追及して治療法を探り、また、周囲の人々が耳鳴りの患者さんの苦痛を理解し、共感を示すことが患者さんにとっては大きな救いになります。

 また、たとえ最終的に耳鳴りが完全に治らなくても、時間がたつにつれて次第に「耳鳴りはしているが、あまり気にならない」というように、耳鳴りと「平和共存」できるようになるのが一般的です。消極的と思われるかもしれませんが、耳鳴りのように難治性の症状に対しては、時間をかけてこのような受容的考え方にたどり着くのもひとつの解決法なのです。

(執筆者:神戸市立医療センター中央市民病院副院長・耳鼻咽喉科部長 内藤 泰)

耳鳴症に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、耳鳴症に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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コラム伝音難聴、感音難聴

神戸市立医療センター中央市民病院副院長・耳鼻咽喉科部長 内藤泰

 音は、外耳道から鼓膜に達し、鼓膜の振動は3つの耳小骨をへて内耳に伝えられます。ここまでの間で何らかの障害が生じると、音がうまく内耳に伝わらなくなり、これを「伝音難聴」といいます。

 一方、内耳に伝えられた音の振動は、内耳のコルチ器という部分にある有毛細胞を振動させ、細胞内の電気的信号に変換されます。これが聞こえの神経に伝達され、さらに脳へと送られて音を感じることができます。内耳以降のレベルに障害が起こって生じる難聴を「感音難聴」と呼びます。

 難聴が、伝音難聴か感音難聴かは聴力検査でわかります。耳にあてた受話器から音を聞いた時の聴力を「気導聴力」、耳の後ろに振動子(骨導受話器)をあてて直接頭蓋骨を振動させて測る聴力を「骨導聴力」といいます。

 骨導聴力がよいのに気導聴力が悪ければ、外耳から中耳にかけて異常があると考えられ、伝音難聴と診断されます。骨導聴力と気導聴力が同程度に悪ければ感音難聴と診断され、難聴の原因は内耳以降にあると推定します。

 伝音難聴を起こすのは、耳垢の詰まり、鼓膜の穿孔、中耳炎(滲出性中耳炎、急性中耳炎、慢性中耳炎、中耳真珠腫)、耳管狭窄症、耳小骨連鎖離断、耳小骨奇形、耳硬化症などがありますが、基本的に処置や手術で改善できる難聴といえます。

 感音難聴は内耳性難聴と、それ以降に原因がある後迷路性難聴に分けられます。

 内耳性難聴には先天性難聴、騒音性難聴、音響外傷、突発性難聴、メニエール病、聴器毒性薬物中毒、老人性難聴、ウイルス感染症による難聴などがあります。

 後迷路性難聴には聴神経腫瘍(これは内耳性難聴を起こすこともある)、脳血管障害による難聴、脳炎などによる難聴、心因性難聴など多彩な原因があげられます。

 難聴で補聴器を用いる場合、伝音難聴では非常に有効ですが、感音難聴では言葉のわかりやすさに一定の限界があります。詳しくは補聴器の項をご覧ください。

コラム耳閉塞感

神戸市立医療センター中央市民病院副院長・耳鼻咽喉科部長 内藤泰

 耳閉塞感、つまり「耳が詰まる感じ」は外耳道、中耳、内耳、内耳道のいろいろな病気で起こります。最も簡単なのは外耳道で、耳垢(耳あか)が外耳道に詰まると閉塞感が生じ、髪の毛などの異物や耳垢のかけらが鼓膜にくっついても耳が詰まった感じがしますが、これらは耳垢や異物を摘出すれば治ります。

 耳かきや平手打ちなどで鼓膜が破れた時も、耳が聞こえにくいだけでなく、詰まった感じを伴うことがあります。

 急性中耳炎や滲出性中耳炎で鼓膜の内側に液体がたまると耳閉塞感が起こりますが、中耳に液がなくても、耳と鼻をつなぐ耳管の通りが悪い耳管狭窄症や、逆に耳管が開いたままになる耳管開放症でも、自分の声が耳にこもる、あるいはひびく感じと耳閉塞感が生じます。

 耳閉塞感を起こす病気のなかでも頻度が高いのがメニエール病です。メニエール病はめまいに難聴や耳鳴り、耳閉塞感など耳の症状を伴うのが特徴ですが、人によっては耳閉塞感だけで始まることもあるので注意が必要です。

 そのほか、突発性難聴や低音障害型感音難聴といった内耳の病気や、バランスの神経由来の脳腫瘍である聴神経腫瘍でも耳閉塞感を感じることがあります。

 内耳や内耳道などの病気は外から鼓膜を見てもわからないので、聴覚や平衡機能についてのいろいろな検査、CTやMRIなどの画像検査を総合して診断します。このように、耳閉塞感というありふれた症状の向こうには実に多彩な病気が隠れています。異なる病気には異なる閉塞感があるのかもしれませんが、そのように微妙な違いを言葉で表すのはむずかしく、結局「耳閉塞感」という同じ表現になってしまいます。したがって、自覚症状だけから正確な診断に到達するのは事実上不可能であり、「耳あかが詰まったのだろう」などと自己判断するのではなく、積極的に専門医の診察を受けることをおすすめします。

耳鳴り(耳鳴)に関する医師Q&A