出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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脱肛とは?

どんな病気か

 肛門や直腸の下のほうの粘膜が肛門外に脱出する病気です。肛門粘膜脱ともいいます。内痔核が進んで、肛門の外に脱出するようになった状態を指すこともあります。

原因は何か

 粘膜脱を生じる原因にはさまざまなものがあります。加齢で肛門括約筋が弱くなり、また肛門や直腸粘膜を支えている組織が弱くなって粘膜が脱出するようになったものがあります(図10図10 肛門を支える組織が弱くなり生じた脱肛)。

 また、肛門の手術を受けたあとの障害でなったものもあります。しかし、最も多いのは内痔核の程度が進んでなったものです。

症状の現れ方

 粘膜は分泌液を分泌しますが、肛門外へ粘膜が脱出することで粘膜部分が刺激を受け、分泌液が増加します。下着が汚れたり、肛門周囲に分泌液が付着することで湿疹が生じ、痛がゆくなったり、ジメジメとべとついたりします。また、粘膜部分は弱いので肛門外に脱出するとこすられて傷つき、そのために出血や痛みがみられます。

 痔核の脱出によるものでは時に脱出したまま(痔核の嵌頓状態)となり、激しい痛みが現れ、一部に壊死、感染がみられ、腐ったり、ひどくなると発熱することもあります。

治療の方法

 根治的にしっかりと治すには、粘膜の脱出部分に外科的な治療をすることが必要です。ゴム輪結紮療法で粘膜脱部分を処置したり、手術的に痔核切除に準じて切除したりします。

 肛門の締まりが悪くなって生じているものには、手術的に肛門の出口にナイロンなどのリングを挿入し締めることも行われます。

 痔核脱出により嵌頓状態となった場合は、嵌頓痔核と同様に処置します。

病気に気づいたらどうする

 肛門周囲の衛生に留意します。入浴時や排便後は、温湯で肛門周囲を十分に洗い、洗ったあとは乾燥させておくようにして肛門周囲を清潔に保つように努力します。下着は通気性の良いものをつけるようにします。また刺激物の摂取、アルコールなどはひかえます。

 意識的に括約筋を締める運動をして肛門の締まりをよくすることも、粘膜の脱出の防止に効果的なことがあります。

 以上の注意をしていても粘膜脱による出血、脱出、痛みがひどくなるようならば、坐薬・軟膏などを使い、肛門周囲の粘膜脱による炎症を抑えるようにします。それでも良くならなければ、外来処置、手術などの外科的処置を考えます。

(執筆者:岩垂純一診療所院長 岩垂 純一)

肛門脱に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、肛門脱に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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コラム肛門のでき方と解剖

岩垂純一診療所院長 岩垂純一

 痔を理解するには肛門のでき方(発生)とその仕組み(解剖)を知らなくてはなりません。肛門はどのようにしてできたのでしょう。

 胎児がお母さんの体内にできたての時は、肛門のあるところの皮膚にくぼみがあるだけで肛門はありません。それが成長するにつれ、徐々にくぼみはその深さを増してゆき、同時に腸は徐々に下がっていきます。そして最後に、降りてきた腸と深さを増していった皮膚のくぼみとがドッキングして、でこぼことした境目を残しながらお尻に穴が、つまり肛門が形成されます(図11図11 肛門のでき方(発生))。

図11 肛門のでき方(発生)

 でこぼことした境目は今でも残っていて、その部分を糸状線といいます。日本人の大人の平均で、肛門の縁から歯状線までは1・5~2・0cmです。その境目より上の腸が下がってきた部分を直腸、境目より下の皮膚のくぼみが増していった部分を肛門と呼びます(図12図12 肛門の仕組み(解剖))。

図12 肛門の仕組み(解剖)

 肛門は皮膚と同じものでできていて、直腸は腸と同様のものでできています。そのため、歯状線を境に下の肛門は皮膚と同様に痛みに敏感ですが、上の直腸は痛みを感じません。

 このような便の出口である肛門、直腸を囲んで、これらの締まりに関係した筋肉(括約筋)が2種類あります。内側を取り囲むのを内括約筋、外側を取り囲むのを外括約筋といいます。

 内括約筋は常時、肛門をある一定の力で締めています。夜寝ていて便をもらすことがないのも、この筋肉のおかげです。意思の力と関係のない筋肉で、直腸の筋肉と同じ平滑筋で不随意筋です。

 外括約筋は内括約筋の外側を囲む筋肉で内括約筋より強大な筋肉です。肛門を締めたり、ゆるめたりできるのもこの筋肉のはたらきによります。手や足の筋肉と同じに意思の力で動かせる横紋筋で随意筋です。

脱肛に関する医師Q&A