出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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熱傷(やけど)
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熱傷(やけど)とは?

どんな外傷か

 熱傷は、一生のうちに誰でもが一度は経験するといっても過言でないほど頻度の高い外傷のひとつで、熱で皮膚の組織が破壊されて、本来もっているべき防御機能が失われてしまった状態のことです。

 熱傷の程度は、皮膚に受けた熱の温度と熱を受けた時間によって決まり、高温でも瞬間的に受けた熱は比較的浅い傷害にとどまりますが、低温でも長い時間受け続けると深い傷害になります。

原因は何か

 原因は日常生活のなかに潜んでいることが多く、お茶やコーヒーなどをこぼす、ポットの湯がかかる、ストーブやアイロンに触る、炊飯器に立ちのぼる蒸気に手を出す、熱湯の浴槽内に落ちる、火遊びをして衣服に引火するなどがあげられます。また、家庭内で10歳未満の小児、とくに2歳未満の乳幼児が受傷する割合が最も多いのが特徴です。

 最近は、高齢者による仏壇のろうそくの火や台所でのガスコンロの火が着衣に燃え移ることによる熱傷も増えています。

 これらの原因は日常生活のなかで注意することにより、多くは未然に防止できることが多いのです。

応急処置と治療の方法

 熱傷を受けてしまった場合には、あわてて医療機関を受診する前に、受傷後いかに早く適切な処置(応急処置)を行えるかどうかが、熱傷による傷を大きくしないために最も重要になります(図56図56 熱傷の応急手当)。

図56 熱傷の応急手当

 応急処置は、以下の点に留意しながら行うことが大切です。

①局所の冷却

 熱傷は熱による組織の傷害です。そのため、まず患部(局所)の冷却を行うことが重要で、疼痛の緩和、炎症の抑制、感染の防止などに効果があります。原因や程度を問わず"熱い"と思ったら、まずすぐに冷やすことです。四肢では、水道水を直接、勢いよくかけるのではなく、受傷部の周辺から水を流すように、あるいは清潔な洗面器などに入れた水道水により冷やします。

 顔面や体幹部では、清潔なタオルに水を含ませて冷やします。衣服を着ている場合には、無理に衣服を脱がさずに衣服の上から水をかけ、冷やすようにします。冷やす時間は15~30分を目安にして、痛みが軽くなるまで冷やすのが理想的です。

 患部を氷で直接冷やすのは、患部を過度に冷やすことにより凍傷をまねく可能性があるため好ましくありません。氷嚢やアイスノンなども、患部には直接触れないように清潔なタオルなどで包んで使います。

 熱傷が広範囲に及ぶ場合は、冷却により低体温状態になる可能性があるため、冷却は行わないようにします。

②装身具の除去

 熱傷の局所では血管からの体液の喪失が亢進し、受傷後時間がたつとともに浮腫(むくみ)が強まります。患部に着けている指輪、腕時計などの装身具は、浮腫が強まってからでは除去が困難となるばかりではなく、患部の循環障害の原因にもなるため、すみやかに取り去っておくべきです。

③局所の清潔保持、保護

 患部を冷やしたあとは同部を清潔なタオルなどでおおい、すみやかに医療機関を受診するようにします。

 民間療法で熱傷に効果があるとされているアロエ、野菜、味噌などを患部へ直接に貼ったり塗ったりするのは、清潔保持の面からは好ましいことではありません。局所から侵入した細菌により生じる傷の感染は熱傷を深くする原因になり、破傷風菌が侵入した場合は時に致命的になるので注意が必要です。

 さらに、ある種の消毒薬など患部に色がついてしまうような物を使うと、患部の状態がわかりにくくなり、診断の妨げになります。

 また、患部に水疱(水ぶくれ)ができてきた場合には、可能なかぎり水疱を温存するよう患部の保護に努めるべきです。以前は水疱を除去することが一般的でしたが、近年になって水疱液に皮膚再生の成分が含まれていることがわかり、これを残して治療するようになってきました。

④その他

 広範囲に熱傷を受けた場合には、局所からの体液の喪失が著しくてショック状態に陥り、早期死亡の原因になります。ショックに陥るのを予防するためには、早期から大量の点滴が必要になるため、救急車などを利用してできるだけ早く熱傷専門医による治療などが可能な救命救急センターなどの医療機関を受診する必要があります。

 近年は、人工皮膚や培養皮膚などの医療技術も進歩しているため、以前に比べて広範囲の熱傷の救命率は向上しています。

⑤応急処置のあとすみやかに受診を

 熱傷は治っても肥厚性瘢痕ケロイドなど)を形成し、かゆみ、痛みの原因になったり、美容上の問題が生じる場合もあります。熱傷を受けた場合は、応急処置のあとにすみやかに医療機関を受診することが基本です。

 自己管理が可能であると考えられる熱傷は、深さはI度まで、広さは体表面積の1%(手のひらがおおむね体表面積の1%にあたる)未満です。誤った自己判断が、熱傷による傷を悪化させてしまう最大の原因であることを、肝に銘じておくべきです。

(執筆者:慶應義塾大学医学部救急医学講師 佐々木 淳一)

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熱傷に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、熱傷に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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コラム熱傷の深度

慶應義塾大学医学部救急医学講師 佐々木淳一

 熱傷の深度による分類は受傷原因によるものではなく、皮膚組織の傷害の深さによるものです。図57図57 皮膚の基本構造と熱傷の深度表6表6 熱傷深度の分類に示すように、自発痛の有無、皮膚の色調、水疱の有無などの皮膚の傷害の程度から、I度、II度、III度に分類されます。

図57 皮膚の基本構造と熱傷の深度

表6 熱傷深度の分類

 I度の熱傷は、主に皮膚の表層の傷害で、赤くなって強く痛み、表皮熱傷ともいわれます。皮膚の赤みは血管が拡張し、血液が集まった状態を反映しています。日焼け程度のごく浅いもので、治療の対象にはなりません。

 II度の熱傷は、表層より深い真皮層まで傷害されていて、血管壁が傷つけられて血管から体液が喪失して水疱ができます。真皮熱傷ともいわれ、真皮の浅い層の傷害である浅達性II度熱傷(IIs)と、それより深い深達性II度熱傷(IId)とに区別されます。

 III度の熱傷では、さらに深くまで傷害されていて、痛みもなく水疱もできないほどに傷つけられています。全層熱傷ともいわれ、皮下組織や筋肉まで損なわれる場合もあります。

 不適切な創の管理、感染を合併することなどにより、熱傷の深度が進行して深くなる場合があるため、注意が必要です。

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